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chapter,6
05. 聖女ジゼルフィアの終焉(後編)《4》
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『――リシャルトさまを悲しませたくない、それだけですわ』
だが、それだけではなかったらしい。もういちど、彼と同じ世界線に降り立つためにジゼルフィアはリシャルトのためではなく、ホーグのために”取引”をしていたのだ。
ジゼルフィアは自分がリシャルトと結婚する前に生命を賭してこの先の悲劇を退けようとした。
それがいま現実になろうとしている。ミヒャエルはこんな形で彼女と別れることが納得できず、声を荒げる。
「先の世界で聖女ジゼルフィアはリシャルトに大切に、大切にされていたんだ。彼は霊獣が持つ”死に戻り”の魔法で新たな世界に戻り、同じことを繰り返そうとしている。花嫁聖女がデ・フロート家の一人娘ジゼルフィアに選ばれたのがその証だ。王子は今度こそ幸せにするつもりだったんだろう――だが、ジゼは別の男に心奪われて死んでしまった! お前に心臓を捧げて! 俺はデ・フロート家のために身代わりの聖女を産み出せなんて一言も言ってないのに、勝手に死んで、もうひとりの……それもよりによってお前の娘のヒセラルフィアの……転生者が聖女として霊獣の継承を行わせようとしていることを、認めたくないだけだ」
ジゼルフィアが生まれた際に尻尾から生まれた精霊ミヒャエイールが、分裂した彼女と契約している。”時”の加護は持たずとも聖女として充分な魔力を持つ魔女に育ったヒセラは同じ顔をした友人の無茶なお願いを託され、リシャルトに嫁ぐことになるだろう。
それでもジゼルフィアを執愛するホーグはヒセラを同じように奪おうとするだろうか。ジゼルフィアが本質を変えてしまった以上、それは可能性として低いだろう。とはいえ花鳥王国の敵としてぶつかりあう未来はそう簡単に変わらないとミヒャエルは嘆息する。
だが、身代わりの聖女が王家のために霊獣のちからを宿すなど、聞いたことがない。ジゼルフィアが描く未来はハーヴィック王家を騙し、ホーグの暴走を抑止するものでしかないからだ。
そんな大精霊の思い悩む様子を見て、マヒエラは嬉しそうに告げる。
「ならば問題ない。ジゼルフィアの心臓は妾が冥界へ連れていく。お主は脱け殻にすがりついていればよい」
「……!」
そう言うやいなや、ジゼルフィアの亡骸がベッドに沈む。胸元にはおおきな穴が空き、真っ赤な華が咲く。ミヒャエルが”時”のちからで場を牽制すると、飛び散ったであろう臓器や血液は内部に留まり、そのまま凝固する。ネグリジェに染み付いた血が黒くなるのを確認して、白い猫はみゃぁみゃあと鳴く。
物理的に魔術で動かなくなった心臓を持ち去ったマヒエラの気配はすでに消えている。冥界に封じられている彼女が地上に顕現することができる時間はほんのわずかだ。ミヒャエルは奪われたジゼルフィアの心臓をマヒエラが何に利用するのか考え、身震いする。
「ジゼ……これがお前の望んだ終焉なのか?」
生命を擲って、ハーヴィック王家の聖女を新たに産みだし、そのいっぽうで冥界の悪魔の妃に心臓を差し出したジゼルフィア。デ・フロート家の不完全な一人娘。
ミヒャエルは”時”の加護を継続させるため寿命を削りながらも彼女の幸せを願うという矛盾した想いに囚われていた。初めて”枷”をつけた少女マヒエラのときからずっと。ミヒャエルはデ・フロート家の加護契約の代償で”時”を操り、一族を幸せな栄華へ導くため生きつづけている。それなのに彼女は先の世界でミヒャエルを拒絶し、大精霊の”祝福”を使って分裂した。ヒセラルフィアの転生者がもうひとりの自分になったことすらジゼルフィアは知らないだろう、そしてふたりのジゼルフィアがいる世界で”時”はさらに歪み、その結果――マヒエラまでもが復活しようとしている。もはやミヒャエルだけで歪みを糺すのは不可能な状況だ。
「ジゼぇぇええ!」
――やがてミヒャエルの慟哭にも似た鳴き声によって、異変に気づいたデ・フロート家の使用人がジゼルフィアの変わり果てた姿を発見するのであった。
だが、それだけではなかったらしい。もういちど、彼と同じ世界線に降り立つためにジゼルフィアはリシャルトのためではなく、ホーグのために”取引”をしていたのだ。
ジゼルフィアは自分がリシャルトと結婚する前に生命を賭してこの先の悲劇を退けようとした。
それがいま現実になろうとしている。ミヒャエルはこんな形で彼女と別れることが納得できず、声を荒げる。
「先の世界で聖女ジゼルフィアはリシャルトに大切に、大切にされていたんだ。彼は霊獣が持つ”死に戻り”の魔法で新たな世界に戻り、同じことを繰り返そうとしている。花嫁聖女がデ・フロート家の一人娘ジゼルフィアに選ばれたのがその証だ。王子は今度こそ幸せにするつもりだったんだろう――だが、ジゼは別の男に心奪われて死んでしまった! お前に心臓を捧げて! 俺はデ・フロート家のために身代わりの聖女を産み出せなんて一言も言ってないのに、勝手に死んで、もうひとりの……それもよりによってお前の娘のヒセラルフィアの……転生者が聖女として霊獣の継承を行わせようとしていることを、認めたくないだけだ」
ジゼルフィアが生まれた際に尻尾から生まれた精霊ミヒャエイールが、分裂した彼女と契約している。”時”の加護は持たずとも聖女として充分な魔力を持つ魔女に育ったヒセラは同じ顔をした友人の無茶なお願いを託され、リシャルトに嫁ぐことになるだろう。
それでもジゼルフィアを執愛するホーグはヒセラを同じように奪おうとするだろうか。ジゼルフィアが本質を変えてしまった以上、それは可能性として低いだろう。とはいえ花鳥王国の敵としてぶつかりあう未来はそう簡単に変わらないとミヒャエルは嘆息する。
だが、身代わりの聖女が王家のために霊獣のちからを宿すなど、聞いたことがない。ジゼルフィアが描く未来はハーヴィック王家を騙し、ホーグの暴走を抑止するものでしかないからだ。
そんな大精霊の思い悩む様子を見て、マヒエラは嬉しそうに告げる。
「ならば問題ない。ジゼルフィアの心臓は妾が冥界へ連れていく。お主は脱け殻にすがりついていればよい」
「……!」
そう言うやいなや、ジゼルフィアの亡骸がベッドに沈む。胸元にはおおきな穴が空き、真っ赤な華が咲く。ミヒャエルが”時”のちからで場を牽制すると、飛び散ったであろう臓器や血液は内部に留まり、そのまま凝固する。ネグリジェに染み付いた血が黒くなるのを確認して、白い猫はみゃぁみゃあと鳴く。
物理的に魔術で動かなくなった心臓を持ち去ったマヒエラの気配はすでに消えている。冥界に封じられている彼女が地上に顕現することができる時間はほんのわずかだ。ミヒャエルは奪われたジゼルフィアの心臓をマヒエラが何に利用するのか考え、身震いする。
「ジゼ……これがお前の望んだ終焉なのか?」
生命を擲って、ハーヴィック王家の聖女を新たに産みだし、そのいっぽうで冥界の悪魔の妃に心臓を差し出したジゼルフィア。デ・フロート家の不完全な一人娘。
ミヒャエルは”時”の加護を継続させるため寿命を削りながらも彼女の幸せを願うという矛盾した想いに囚われていた。初めて”枷”をつけた少女マヒエラのときからずっと。ミヒャエルはデ・フロート家の加護契約の代償で”時”を操り、一族を幸せな栄華へ導くため生きつづけている。それなのに彼女は先の世界でミヒャエルを拒絶し、大精霊の”祝福”を使って分裂した。ヒセラルフィアの転生者がもうひとりの自分になったことすらジゼルフィアは知らないだろう、そしてふたりのジゼルフィアがいる世界で”時”はさらに歪み、その結果――マヒエラまでもが復活しようとしている。もはやミヒャエルだけで歪みを糺すのは不可能な状況だ。
「ジゼぇぇええ!」
――やがてミヒャエルの慟哭にも似た鳴き声によって、異変に気づいたデ・フロート家の使用人がジゼルフィアの変わり果てた姿を発見するのであった。
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