身代わり聖女は「君を孕ますつもりはない」と言われたのに死に戻り王子に溺愛されています

ささゆき細雪

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chapter,7

01. 死に戻り王子の決断《1》

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 王城に戻ってきた妻はリシャルトの執務室に入り込んで”魔女の森”の世界樹が視せた平行世界について滔々と語っている。
 聖女ジゼルフィア――この世界で生きているのはヒセラ、という魔女らしい――が先の世界で何をしたのか、そしてその結果いまになって何が起こっているのか、これから何が起こりうるうのか……あえて感情を消して、彼女はリシャルトに告げているように見えた。

「まもなく花鳥より宣戦布告されます。それは精霊を天秤にかけた”聖戦”として歴史に名を遺すものになります。先の世界では聖女が殺されたことで激昂したリシャールさまが霊獣を憑依召喚したことで敵将を討ち、暴走し、シュールトさまに葬られ、そのまま精霊亡き世界へと移行しました。今回はリシャールさまが”死に戻った”こと、ホーグに殺された聖女ジゼルフィアが冥界で大精霊の祝福を使って分裂し、おまけに魔妃との”取引”を行ったことで時空は歪み、いったん逆行しました。あたしという不安定要素がリシャールさまの傍にいる理由については」
「堅苦しいことはいいよ、俺は君が何者でもかまわない。前世のジゼルフィアではないと言われようが、先のジゼルフィアはもうこの世にいないのだろう? この世界での聖女は君だと、デ・フロート家の当主や大魔女も結婚式で証明している」
「で、でも」
「――リシャールさま、って呼んでくれているのは君だけなんだよ、ヒセラ」

 たしかにリシャルトは先の世界で聖女ジゼルフィアを愛したし、子どもも作った。だが、対するジゼルフィアの方はどうだったのだろう。生まれた頃から加護精霊による代償で寿命を削られたうえに、義務的な結婚を強いられ、健気に応じていた彼女は、心の奥底で自分ではない何者かを想っていたのかもしれない。

「……!」
「俺の強大な魔力を抑えてくれるという意味では前世の聖女ジゼルフィアも大切な存在だった。けれどいまの世で同じように愛せるかと問われるとわからないんだ。ヒセラ、結婚式で俺をリシャールさまと呼ぶ君と出逢ってしまったから」

 どこか一線を引いたようなジゼルフィアの「リシャルトさま」という呼び方は最後まで変わらなかった。いっぽうでヒセラは結婚してから今日まで「リシャールさま」と親しげに呼び、真摯に愛に応えてくれる。身代わりだからと罪悪感を感じながらも自分の手で素直に、淫らに花開いていく花嫁を嫌う理由など彼にはない。

「それに、これは死んだジゼルフィアが望んだことなんだろ? もうひとりの自分に体力を全振りして、王子とのあいだに魔力を継承させる子どもを作ることが」
「ええ。しいてはデ・フロート家の繁栄にも繋がります」
「誰が反対してるんだ?」
「誰、って」

 しどろもどろになるヒセラの額にそっと唇を落として、リシャルトは不敵に笑う。

「大精霊ミヒャエルか?」

 たしかにミヒャエルは前回も今回も王城内外問わずけしてリシャルトに姿を見せることはなかった。聖女ジゼルフィアが分裂したことを頑なに拒んでいるのだとリシャルトは思っていたが、実際のところはどうなのだろう。リシャルトに指摘されたヒセラは黙り混んでいたが、やがて意を決したように口をひらく。

「たしかにデ・フロート家の一人娘ジゼルフィアはハーヴィック第一王子リシャルトが持つ霊獣の加護を継承させる子を生むための器として選ばれる運命にありました。この根本が揺らぐことはなく、ほかのマヒの一族が聖女に選ばれるという世界線はあたしが世界樹を通じて見た限り、存在していなかったです」
「そうか……君が世界樹に拒絶されることはないということか」
「どうしてそうなるのですか?」
「視てきたんだろう? 世界樹がこの先起こるであろう未来を」
「……すべてではありませんよ?」
「充分だ。冥界から魔物を従えてホーグがハーヴィックを攻めてくること、聖女の身柄が狙われていること……俺は今度こそ守るよ――そのためにもう一度、ヒセラ……君に刻印を刻ませて」
「えっ」

 世界樹がヒセラに見せた平行世界の時流とはいかなるものだったのだろう。リシャルトは執務室の椅子にヒセラを座らせて接吻をする。
 死に戻る前に味わった痛みと苦しみの先で、リシャルトを受け入れてくれた健気な聖女を素直にさせるため、彼は己の手で改めて彼女のすべてを暴いていく。
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