身代わり聖女は「君を孕ますつもりはない」と言われたのに死に戻り王子に溺愛されています

ささゆき細雪

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chapter,7

04. 妖精王の再来と復活の聖女(前編)《3》

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   * * *


 王城騎士団長でもある第二王子死亡の報せにその場は凍りついていた。
 魔法将軍と呼ばれるホーグが彼を捕らえ、魔物の手で彼を殺め、脱け殻となった肉体を魔法で女性のものへと変化させたのだと。

「シュールトさまが……?」
「あいつがそう簡単に死ぬとは思えない。だが、肉体を奪われ魔法を使われたとなると話は別だ」
「リシャールさま」

 ヒセラも同じことを考えていた。魔法酔いしない体質のシュールトが魔物にあっさり殺され、肉体を奪われるなどおかしいと。彼にもハーヴィック王家の、妖精王に連なる血が流れているのだ。彼のなかには霊獣が保つ九尾のうちの二尾の魔力もある。魂が抜け肉体のみが敵陣にあるとすれば、リクノロスの尾が彼の魂を守護しているだろう。彼は死んでいない、肉体を奪われただけだ。
 だが、肉体を奪われすでに魔法で女性に変化させられているということを考えると、今後、第二王子シュールトは周囲から死んだものとして扱われるだろう。肉体の中身だけでなく外身までもが変えられてしまったのだから。

「肉体を女性のものにして、冥界の魔妃を容れる器にでもするのだろう。悪趣味なことだ……ヒセラ、彼の魂と二尾を回収しに行くぞ」
「は、はいっ!」

 ヒセラがリシャルトの手をぎゅっと掴み、心のなかで念じるだけで転移の魔法が発動する。周囲にいた人間は第一王子と聖女が鮮やかに執務室から戦場へ姿を移す姿を目の当たりにして息をのむ。ヒセラは息をするように転移魔法を扱っているが、ふつうの魔女は容易く転移など行わないからだ。
 王城魔術師のハリーがやれやれと肩を竦め、ふたりが消えた方向を凝視する。その先には”魔女の森”が青々と緑を繁らせていた。森が花盛りになる頃、彼女は王子の子を――ハーヴィックを守護する霊獣のちからを継承させる子を産むことだろう。
 まずは始まってしまった聖戦を止めるのが先だ。王城魔術師たちはこれ以上魔物を蔓延らせないため、結界強化を続けながら、決戦に赴いたふたりに祈りを捧げる。心配する必要はないだろう、なんせ王子が持つ”死に戻り”によって分裂した聖女のひとりは最強の魔女で妖精王の娘の転生者なのだから。

……頼んだわよ」

 身代わり聖女でもなんでもない、彼女こそ、この世界でハーヴィック王国を救う妖精王の再来と呼ばれる王子の伴侶で四大精霊を司るマヒの一族を凌駕するほんものの聖女なのだと、その場にいた人間は痛いほどに理解するのだった。
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