102 / 123
chapter,7
04. 妖精王の再来と復活の聖女(前編)《3》
しおりを挟む
* * *
王城騎士団長でもある第二王子死亡の報せにその場は凍りついていた。
魔法将軍と呼ばれるホーグが彼を捕らえ、魔物の手で彼を殺め、脱け殻となった肉体を魔法で女性のものへと変化させたのだと。
「シュールトさまが……?」
「あいつがそう簡単に死ぬとは思えない。だが、肉体を奪われ魔法を使われたとなると話は別だ」
「リシャールさま」
ヒセラも同じことを考えていた。魔法酔いしない体質のシュールトが魔物にあっさり殺され、肉体を奪われるなどおかしいと。彼にもハーヴィック王家の、妖精王に連なる血が流れているのだ。彼のなかには霊獣が保つ九尾のうちの二尾の魔力もある。魂が抜け肉体のみが敵陣にあるとすれば、リクノロスの尾が彼の魂を守護しているだろう。彼は死んでいない、肉体を奪われただけだ。
だが、肉体を奪われすでに魔法で女性に変化させられているということを考えると、今後、第二王子シュールトは周囲から死んだものとして扱われるだろう。肉体の中身だけでなく外身までもが変えられてしまったのだから。
「肉体を女性のものにして、冥界の魔妃を容れる器にでもするのだろう。悪趣味なことだ……ヒセラ、彼の魂と二尾を回収しに行くぞ」
「は、はいっ!」
ヒセラがリシャルトの手をぎゅっと掴み、心のなかで念じるだけで転移の魔法が発動する。周囲にいた人間は第一王子と聖女が鮮やかに執務室から戦場へ姿を移す姿を目の当たりにして息をのむ。ヒセラは息をするように転移魔法を扱っているが、ふつうの魔女は容易く転移など行わないからだ。
王城魔術師のハリーがやれやれと肩を竦め、ふたりが消えた方向を凝視する。その先には”魔女の森”が青々と緑を繁らせていた。森が花盛りになる頃、彼女は王子の子を――ハーヴィックを守護する霊獣のちからを継承させる子を産むことだろう。
まずは始まってしまった聖戦を止めるのが先だ。王城魔術師たちはこれ以上魔物を蔓延らせないため、結界強化を続けながら、決戦に赴いたふたりに祈りを捧げる。心配する必要はないだろう、なんせ王子が持つ”死に戻り”によって分裂した聖女のひとりは最強の魔女で妖精王の娘の転生者なのだから。
「聖女ヒセラ……頼んだわよ」
身代わり聖女でもなんでもない、彼女こそ、この世界でハーヴィック王国を救う妖精王の再来と呼ばれる王子の伴侶で四大精霊を司るマヒの一族を凌駕するほんものの聖女なのだと、その場にいた人間は痛いほどに理解するのだった。
王城騎士団長でもある第二王子死亡の報せにその場は凍りついていた。
魔法将軍と呼ばれるホーグが彼を捕らえ、魔物の手で彼を殺め、脱け殻となった肉体を魔法で女性のものへと変化させたのだと。
「シュールトさまが……?」
「あいつがそう簡単に死ぬとは思えない。だが、肉体を奪われ魔法を使われたとなると話は別だ」
「リシャールさま」
ヒセラも同じことを考えていた。魔法酔いしない体質のシュールトが魔物にあっさり殺され、肉体を奪われるなどおかしいと。彼にもハーヴィック王家の、妖精王に連なる血が流れているのだ。彼のなかには霊獣が保つ九尾のうちの二尾の魔力もある。魂が抜け肉体のみが敵陣にあるとすれば、リクノロスの尾が彼の魂を守護しているだろう。彼は死んでいない、肉体を奪われただけだ。
だが、肉体を奪われすでに魔法で女性に変化させられているということを考えると、今後、第二王子シュールトは周囲から死んだものとして扱われるだろう。肉体の中身だけでなく外身までもが変えられてしまったのだから。
「肉体を女性のものにして、冥界の魔妃を容れる器にでもするのだろう。悪趣味なことだ……ヒセラ、彼の魂と二尾を回収しに行くぞ」
「は、はいっ!」
ヒセラがリシャルトの手をぎゅっと掴み、心のなかで念じるだけで転移の魔法が発動する。周囲にいた人間は第一王子と聖女が鮮やかに執務室から戦場へ姿を移す姿を目の当たりにして息をのむ。ヒセラは息をするように転移魔法を扱っているが、ふつうの魔女は容易く転移など行わないからだ。
王城魔術師のハリーがやれやれと肩を竦め、ふたりが消えた方向を凝視する。その先には”魔女の森”が青々と緑を繁らせていた。森が花盛りになる頃、彼女は王子の子を――ハーヴィックを守護する霊獣のちからを継承させる子を産むことだろう。
まずは始まってしまった聖戦を止めるのが先だ。王城魔術師たちはこれ以上魔物を蔓延らせないため、結界強化を続けながら、決戦に赴いたふたりに祈りを捧げる。心配する必要はないだろう、なんせ王子が持つ”死に戻り”によって分裂した聖女のひとりは最強の魔女で妖精王の娘の転生者なのだから。
「聖女ヒセラ……頼んだわよ」
身代わり聖女でもなんでもない、彼女こそ、この世界でハーヴィック王国を救う妖精王の再来と呼ばれる王子の伴侶で四大精霊を司るマヒの一族を凌駕するほんものの聖女なのだと、その場にいた人間は痛いほどに理解するのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる