身代わり聖女は「君を孕ますつもりはない」と言われたのに死に戻り王子に溺愛されています

ささゆき細雪

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chapter,7

06. 妖精王の再来と復活の聖女(後編)《2》

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 びしっと九つの尾を振るうリシャルトによって、ホーグの身体が宙に浮く。地面に打ち付けられても彼は平然とした顔でヒセラを見つめている。まるで、こうすれば彼女は自分の元へ戻ってくるとでも理解しているかのように。顔面を打ち付けたホーグの鼻からは真っ赤な血がだらだらと垂れていた。それでも乞うように、請うように、恋うように、彼は足を引きずりながらジゼルフィアだと思っているヒセラの元へ寄ろうとする。

「あなたには訊いてません。僕はジゼに」

 それは痛々しいほどに強烈な愛情表現であった。自分ひとりで消えるのならば愛するひととともに消えたいと、ホーグは霊獣リクノロスに憑依しているリシャルトを恐れることなく、彼が抱き締めている聖女を自分のもとへ呼び寄せようと必死になっている。ヒセラは彼の目を醒ますことが先だとあえてはすっぱな声音で言葉を投げる。

「ホーグ。あたしはあなたと約束したジゼじゃないよ?」
「ホーグ。わたくしは約束を破った覚えなどなくてよ?」

 ヒセラの言葉に被せるように、同じ声が別の言葉を発している。その言葉に、ホーグが瞳を瞬かせる。

「ジゼ!?」

 その瞬間、ぐったりしていた魔妃の身体が煌めき、ストロベリーブロンドの髪色とガーネットの瞳をした少女が顔を出す。

「……遅くなりましたわ。冥界で止められていた魔妃の”時”が地上で動き出したことで、ようやくわたくしの心臓が隠していた魔力を解放できたのです」
「ジゼ?」
「あぁ、ヒセラ! ごめんなさいね、あなたをこんなことに巻き込んでしまって。だけどこうすることでしかわたくしは彼を手に入れられなかったの」

 そしてすっかり戦意喪失しているホーグを抱き寄せて、ジゼルフィアは聖母のように柔らかく微笑む。

「聖女が冥界に封じられていた悪魔の妃の真似事だなんて、笑っちゃうでしょう?」
「ねぇ、魔妃は?」
「彼女がわたくしの心臓を”取引”で手にしたのは、聖女であるわたくしの魔力を自分のものにしようとしたかったからよ。だけど”時”を止められていた彼女は完全にわたくしと同化できずにいたの……地上へ出てくるこのときまで」

 ジゼルフィアが言うには、”時”に背いたマヒエラは冥界でしか生きていけない概念なのだという。そのことを知らない彼女はもういちど地上でやり直そうと花鳥の魔法使いに”取引”を持ちかけ、チャンスをうかがっていたが、そのあいだも地上は時間が経過していた。デ・フロート家の始祖と呼ばれるかつての妖精王の妃の悪名はいつしか忘れ去られ、マヒという言葉だけが名残となっていた。公爵家の人間は”時”の大精霊ミヒャエルと加護契約を続けながらハーヴィックにある”魔女の森”を管理することで世界樹の番人としての役割を担っていたが、妖精王が姿を消したことで世界の均衡が歪んだことを察して一計を案じることになる。

「天界から妖精王が消えたのなら対となる冥界の魔妃も消さなくてはいけない。偏ったままの世界に精霊は棲みつかない。そこでわたくしが”干渉者”として魔妃と”取引”することになったのです」
「え」
「これはデ・フロート家の人間だけが知る秘密。ミヒャエルさえも知り得ないことよ。だから誰も責めないで」
「じゃあ、ジゼが魔妃と”取引”したのって」
「公爵家の密命だったりして」
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