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chapter,7
06. 妖精王の再来と復活の聖女(後編)《3》
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ジゼルフィアが心臓を抜き取られた状態で死んでいたというのに公爵家の人間が動じなかったのは、こういう理由だったのかとここにきてヒセラは理解する。さいしょから彼らは娘の心臓を魔妃に捧げようとしていた?
「……ますますデ・フロート家の人間がうさんくさく感じられるんだけど」
「ハーヴィック王家に忠誠を誓っていない時点で察しなさいよ、ヒセラ」
たしかにデ・フロート家は謎多き公爵家だ。王家と一線を画し、ときには大精霊をも欺く彼らは、ただ平行する世界の均衡を保つそれだけのために生きる一族である。妖精王の妻に選ばれたマヒエラもまた、もともとはひとならざるモノだったと考えればおかしくはないのかもしれない。それでもヒセラは納得できない。
「妖精王の消失はジゼが分裂したことで起きたんじゃないの?」
「妖精王の消失はわたくしが分裂しようがしまいがそう遠くない未来で起きたことよ。ならば分裂してリシャルトさまやハーヴィック王国のためにもうひとりのわたくしに頑張ってもらった方がいいでしょう?」
そういえばデ・フロート家は”時”の流れを見守ることができるのである。未来視などお手のものだとジゼルフィアはくすくす笑う。
「それに……わたくしなどを愛してしまった憐れな彼をそのままにはできなかったから。魔妃を乗っ取ろうとその機会を狙っていたの」
「魔妃を、乗っ取る?」
ぎょっとした表情でホーグがジゼルフィアを見上げる。ずっと求め続けていた彼女がまさか自分の傍にいたとは考えてもいなかったのだろう。
「ホーグが霊獣リクノロスに消される未来は変わらない。そして魂は冥界へ堕ちる。そこでわたくしはあなたを今度こそ手にいれる」
だから安心してその身を委ねなさいと、ジゼルフィアは微笑う。ホーグの愛情表現さながらに、ジゼルフィアの愛の形も相当な重さがある。
「……僕は、ずっとジゼを探していたんだよ? 悪魔の妃のなかに隠れていたなんて」
「ホーグ。デ・フロート家の人間は誰よりも狡猾で嘘つきなんです。それでもわたくしを愛してくださいます?」
「もちろんだよ。僕は国を滅ぼしても構わないと、”取引”で魔物を操る異能を手にしたんだ」
「そのような物騒な”取引”など、破棄してわたくしと別の次元へ翔びません?」
マヒエラの影はすでにどこにもない。ジゼルフィアが完全に乗っ取ってしまったのだ。正しい聖女のちからの使い方かは謎だが、これ以上戦いを続けるつもりのないリシャルトとヒセラは断ち消えた禍々しい気配を前に、緊張を解いていた。
ほんものの聖女ジゼルフィアの選択を、ふたりは見守っている。
「ジゼ」
「花鳥公国の破滅の魔女と呼ばれたレティーシャさまのように、駆け落ちしませんか?」
「……ますますデ・フロート家の人間がうさんくさく感じられるんだけど」
「ハーヴィック王家に忠誠を誓っていない時点で察しなさいよ、ヒセラ」
たしかにデ・フロート家は謎多き公爵家だ。王家と一線を画し、ときには大精霊をも欺く彼らは、ただ平行する世界の均衡を保つそれだけのために生きる一族である。妖精王の妻に選ばれたマヒエラもまた、もともとはひとならざるモノだったと考えればおかしくはないのかもしれない。それでもヒセラは納得できない。
「妖精王の消失はジゼが分裂したことで起きたんじゃないの?」
「妖精王の消失はわたくしが分裂しようがしまいがそう遠くない未来で起きたことよ。ならば分裂してリシャルトさまやハーヴィック王国のためにもうひとりのわたくしに頑張ってもらった方がいいでしょう?」
そういえばデ・フロート家は”時”の流れを見守ることができるのである。未来視などお手のものだとジゼルフィアはくすくす笑う。
「それに……わたくしなどを愛してしまった憐れな彼をそのままにはできなかったから。魔妃を乗っ取ろうとその機会を狙っていたの」
「魔妃を、乗っ取る?」
ぎょっとした表情でホーグがジゼルフィアを見上げる。ずっと求め続けていた彼女がまさか自分の傍にいたとは考えてもいなかったのだろう。
「ホーグが霊獣リクノロスに消される未来は変わらない。そして魂は冥界へ堕ちる。そこでわたくしはあなたを今度こそ手にいれる」
だから安心してその身を委ねなさいと、ジゼルフィアは微笑う。ホーグの愛情表現さながらに、ジゼルフィアの愛の形も相当な重さがある。
「……僕は、ずっとジゼを探していたんだよ? 悪魔の妃のなかに隠れていたなんて」
「ホーグ。デ・フロート家の人間は誰よりも狡猾で嘘つきなんです。それでもわたくしを愛してくださいます?」
「もちろんだよ。僕は国を滅ぼしても構わないと、”取引”で魔物を操る異能を手にしたんだ」
「そのような物騒な”取引”など、破棄してわたくしと別の次元へ翔びません?」
マヒエラの影はすでにどこにもない。ジゼルフィアが完全に乗っ取ってしまったのだ。正しい聖女のちからの使い方かは謎だが、これ以上戦いを続けるつもりのないリシャルトとヒセラは断ち消えた禍々しい気配を前に、緊張を解いていた。
ほんものの聖女ジゼルフィアの選択を、ふたりは見守っている。
「ジゼ」
「花鳥公国の破滅の魔女と呼ばれたレティーシャさまのように、駆け落ちしませんか?」
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