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epilogue
《1》
しおりを挟むリシャルトが手をくだすまでもなく、花鳥公国は瓦解した。魔物を従えていた魔法将軍ホーグ・イセニアが隣国の聖女ジゼルフィアとともにこの世界から姿を消してしまったからだ。ホーグが消えたことで霊獣リクノロスによって動きを封じられていた魔物たちも雪解けのようにきれいさっぱり消えている。
残された花鳥の兵士たちは戦争を指揮していた男の消失でパニックに陥り、あっさり霊獣を顕現させているリシャルトの前に膝をついた。
指導者を失った花鳥公国はハーヴィック王国に併合され、魔法と精霊との訣別を謳っていた軍事政権下の組織は半年もしないうちに完全に解体された。いまは亡き第二王子シュールトの部下で副騎士団長の地位にいた男が旧花鳥公国領を治めている。
民衆への影響が拡がる前に戦争を終わらせることができたものの、ホーグが操っていた魔物によってブレーケレの街は破壊されてしまったし、第二王子シュールトが犠牲となってしまった。街の復興作業に勤しむ際に彼の死を悼み惜しむ声があがっているのを見たリシャルトはもっと彼と親しくすればよかったと後悔の念を抱く。ほんとうはいまもリシャルトが魂を同化させているのだが、彼らが知るシュールトではないためこのことは王城魔術師とヒセラしか知らない極秘事項になっている。
だが、シュールトを喪ったことで哀しみに暮れていた国民は第一王子リシャルトが妃に迎えた聖女の妊娠の報に喜び、新たな生命の誕生を心待ちにするようになった。ジゼルフィアと呼ばれていたはずの聖女がヒセラと呼ばれていることに国民は誰ひとり気づかない。彼らにとって王子の妃となる聖女など、しょせんそのようなものなのだと実際に目の当たりにしたヒセラは安堵する――どうやら自分は引き続きこの世界の聖女でいられるらしい、と。
* * *
「魔妃を乗っとりシュールトさまの肉体で目覚めたジゼは、仮初めの身体がこの世界で保たないことをわかっていたから、厄介者のホーグごと別の次元へ旅立ってしまったのね」
「君はそれでいいのか」
「いいも何も、それがジゼよ」
「はあ」
「彼女は聖女を分裂させる際に体力をあたしに全振りしたとは言ったけど、魔力については何も言わなかった。たぶん、あたしと同じかそれ以上の魔力を彼女は死ぬまで……死んでからも心臓に隠し持っていたのよ」
あっさり死ぬことを受け入れているように見えたもうひとりの聖女は、たった一度の復活の機会を見事に捕らえ、真実に愛するひととともに新たな世界へ行ってしまった。世界樹が視逃していた――霊獣リクノロスによってホーグが消されたわけではない、ジゼルフィアによって存在を別次元へ飛ばされるという――未来へ。
「先の世界でホーグが犯した罪は重かったけれど、この世界に生きたジゼもあたしたちから見たら似たようなものかもしれないわね」
「ああ。ハーヴィック王国を裏切って敵国の魔法使いと恋に堕ちるとは。世が世なら追放されているな」
「追放する前にトンズラされちゃいましたけど」
「……俺にはヒセラがいる」
「偽物の聖女でいいんですか?」
「何を莫迦なことを言ってる。ふたりでひとりだった君も聖女に変わりないだろ」
「ふふ。リシャールさまがそうおっしゃってくださるのなら、魔女ヒセラは聖女ヒセラとして頑張りますよ」
「お腹の子どももいるんだからな」
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