身代わり聖女は「君を孕ますつもりはない」と言われたのに死に戻り王子に溺愛されています

ささゆき細雪

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epilogue

《2》

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 聖女ヒセラはリシャルトの妻として、この世界に残っている。妖精王が姿を消して歪んでいた世界の均衡は冥界に封じられていた魔妃の消滅によって糺され、精霊たちの気配も少しずつ戻ってきている。
 あれから半年。霊獣リクノロスの尾を引き継ぐであろうヒセラの胎の子は順調に育っていた。思っていたよりもつわりはひどくなく、気がつけば安定期に入っている。
 先日”魔女の森”を訪れたヒセラは大魔女タマーラに顛末を伝え、膨らみはじめたお腹を見せた。世界樹についている蕾は少しずつ花開いていた。あの花が完全に開いたら、役割を終えたタマーラは静かに眠るのだという。彼女の契約精霊リルは主の消滅を見届けたらただの精霊に戻って新たな魔女と契約するのだろう。大魔女の姿でヒセラとお腹の子を抱きしめて、泣き笑いを浮かべた。
 世界樹は何事もなかったかのように”魔女の森”の中央でそよそよと葉を風に揺らしていた。平行している世界ではいまもどこかで精霊をめぐる争いが起こっているかもしれないし、リシャルトのように死に戻ってやり直しを試みている王子がいるかもしれない。けれどいま、ここに生きているヒセラはそれ以上深く考えることをやめた。

「ジゼが分裂を願ったからヒセラは俺の聖女になった。死に戻った俺を愛してくれた。それで充分だよ」
「……あたしも」

 そう言ってヒセラがリシャルトに抱きつき、頬へキスをする。

「こら、ヒセラ」

 執務室でふたりきりとはいえ、戯れにキスを仕掛けられたリシャルトはぽっと頬を染める。

「リシャールさま……無事に子どもが生まれたら、またたくさん抱いてくださいます?」
「当然だろう? 王国を繁栄させるためには一度孕ませただけでは物足りない。それに俺ももっとヒセラを愛したい。君のミルクティ色の髪に琥珀色の瞳は愛らしいが、絶頂時に見せるストロベリーブロンドとガーネットの煌めきも美しいからな」
「それは……恥ずかしいのであまり言わないでいただけます?」
「何度だって言うよ。俺の手で淫らに喘ぎ啼く妻の姿を思い浮かべるだけで、いまだって……」

 にゃおん、とふたりを茶化すように二匹の白猫が尻尾を振る。ヒセラが契約している精霊ミヒャエイールが傍にいるのは理解できるが、あれからデ・フロート家の加護精霊であるはずのミヒャエルもなぜか王城に留まることが増えている。魔妃が消滅したことでデ・フロート家の当主たちは彼女の狂信者だった冥界の残党を処すために死神のもとに行っているため暇なのだという。三界を又にかける公爵家の知られざる任務を聞かされたヒセラは他人事のように頷いて、暇猫の相手をしてあげるのであった。リシャルトはあまり良い顔をしていないが、ミヒャエイールがヒセラを護っていることもあり、渋々受け入れている。

「俺たちがいる前で乳繰り合うとはいい度胸じゃねぇか」
「まあまあ、あのふたりもようやく落ち着いて過ごせるようになったんじゃ。老いぼれたちは席を外そうぞ」
「ミヒャエイール、お前はヒセラに甘すぎる」
「そなただってジゼがホーグと消えたのを受け入れたくせに素直じゃないのぉ」
「悪いか」

 ふんっ、と鼻を鳴らしながらミヒャエルが、それを宥めながらミヒャエイールが執務室の窓からひょいと飛び出していく。どうやら気をきかせてくれたらしい。リシャルトがならばとヒセラを抱き上げて、長椅子へ運んでいく。

「リシャールさま?」
「せっかく精霊たちが席を外してくれたんだ。すこしくらいヒセラを独り占めさせておくれ」
「……あ」

 ドレスのボタンを素早くはずされ、膨らみが目立ちはじめたお腹にキスをされる。なのに彼の手はヒセラの乳房を包み込んでいる。久々にリシャルトに素肌を暴かれて、両乳首が期待するように勃ちあがっていた。

「子どもが生まれたらしばらくは譲らないといけないからな」
「~~ッ!」

 かぷっ、と乳首に噛みつかれ、ヒセラは声にならない声をあげる。妊娠によって胸の発育もよくなってきているきらいがある。まだ乳は出ないがそう遠くもないうちに分泌されるようになるのだろう。リシャルトの手で胸元を弄られているだけで、きゅん、と子宮が疼いてしまう。
 れろれろと唾液をまぶしながらヒセラの乳首を赤子のように舐めしゃぶるリシャルトの髪を撫でながら、ヒセラは恍惚とした表情で声をあげる。

「はあん……困った赤ちゃんだこと」

 そのままリシャルトに胸だけを執拗に愛撫されたヒセラは軽く達して髪と瞳の色を変えてしまうのであった。


   * * *


 それから時はさらに流れ――”魔女の森”の中央で永い時間を生きる世界樹にふたたび色鮮やかな花が咲いた。
 ひとつ、またひとつと花が開き、そこから新たな精霊たちが産み落とされる。
 新たな時代のはじまりに魔女たちは祈りを捧げる。
 聖女ヒセラが霊獣リクノロスを継承する男児を無事に出産し、リシャルトは父王の退位とともに王子からハーヴィック国王となった。
 今日は戴冠式。祝福の花が舞う。
 花と魔法の国ハーヴィックの新国王となったリシャルトは、首がすわったばかりの赤子を抱く聖女ヒセラの隣で幸せそうに笑っている。
 そして新国王の聖女を溺愛する姿を大陸中の人間が知ることになった。

 けれど彼が死に戻った世界で幸せを捕まえられたのは、分裂したふたりでひとりの聖女がいてくれたからだということは後世に残らない。
 残っているのは、聖女ヒセラがリシャルトに愛されて、たくさんの子どもがいる家庭をともにつくったという記録だけ。
 世界樹が視たその先の未来はただただ、混沌に満ちた愛と幸せに溢れている。



“De geliefde heilige van de prins die terugkeert uit de dood”――fin.
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