身代わり聖女は「君を孕ますつもりはない」と言われたのに死に戻り王子に溺愛されています

ささゆき細雪

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奨励賞記念番外編 殺し愛の果て

《1》

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 ジゼルフィア・マヒ・デ・フロート。均衡が歪んだ平行世界に生まれ変わったデ・フロート家の一人娘。
 生まれつきとてつもない魔力を持っていながら、病弱ゆえに二十歳まで生きることはできないだろうと言われていた。
 それを逆手に彼女は自分の使命を欺きながら冥界の魔妃を乗っ取り、心の底から求めていた男性とともに姿を消した。

「世間ではこれをと呼ぶんですよね」
「いや。ジゼ、駆け落ちで別に問題ないと思うけど……?」
 
 かつて自分を殺した魔術師と二度目の人生を終わらせたジゼルフィアは自分から分裂した聖女ヒセラルフィアとハーヴィック王国の第一王子リシャルトにすべてを押し付け、ここではないどこかへ飛翔する。
 目の前に広がる景色はどことなく”魔女の森”に似ているが、そこに世界樹は存在していない。赤や黄色の色鮮やかな花々があちこちで蕾を膨らませ、ポンポンと好き勝手に花を咲かせている。時間の流れが一定ではないからか、種だったものがすぐに芽吹いて成長していく。そのなかで時を止めたままのジゼルフィアとホーグの存在は異質であった。

「過去、現在、未来なんて、人間が生み出した概念でしかないわ」

 過去の人生はホーグに殺されたことで強制終了しているが、生まれつき大精霊の祝福を持っていたジゼルフィアはやり直しの魔法を使って分裂し、デ・フロート家の使命である世界の均衡をならすため冥界の魔妃マヒエラとも取引をした。彼女に心臓を捧げるという言動にデ・フロート家に仕える加護精霊ミヒャエルは反発したが、ジゼルフィアは聞く耳を持たなかった。そして自分の分身でありながらまったくの別人であるヒセラに体力を全振りしたジゼルフィアはリシャルトの花嫁に選ばれる前に寿命が尽きるであろうという計算を間違えながらもどうにかヒセラとリシャルトを結ばせ、後継ぎを作らせた。ヒセラとリシャルトの子どもを見ることが叶わないのは残念だが、もともと死んでいるジゼルフィアには贅沢な望みである。それに。
 自分はいま彼とともにいる。
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