身代わり聖女は「君を孕ますつもりはない」と言われたのに死に戻り王子に溺愛されています

ささゆき細雪

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奨励賞記念番外編 殺し愛の果て

《2》

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「ここは旧大陸アルヴスとも新大陸ラーウスとも違う、天界とも冥界とも違う、別次元の時の狭間にある世界でしょうか」
「たぶん。花鳥の破滅の魔女が忽然と姿を消した際にこの世界を通って行ったのではないかしら」
「転生とも死に戻りとも違いますね」

 幼馴染の魔術師ホーグ。彼はジゼルフィアのことが好きすぎて最初の人生でリシャルトの花嫁になって子を孕んでしまったジゼルフィアを想いのあまり抱き殺してしまい、その遺骸を最期まで犯し続けていたことから聖獣リクノロスに存在を消されている。だが、リシャルト王子に死に戻りの魔法がかけられていたことから記憶を持ったまま転生し、ふたたびジゼルフィアと恋をし、マヒエラと取引をした。
 だが、リシャルトに嫁いだ身代わり聖女のヒセラには食指が動かなかったことから本物のジゼルフィアはどこにいるのかとホーグは錯乱し、リシャルトの弟シュールトの肉体をジゼルフィアに似せて作り変えてしまう。マヒエラが取引で食らったジゼルフィアの心臓が冥界から外界へ出てシュールトの肉体に入ったことでジゼルフィアは魔力を取り戻し、マヒエラを消滅させることに成功した。そして途方に暮れたホーグを連れて今に至る。
 一介の魔術師であるホーグと三界を統べる世界樹の管理を行っているマヒの一族デ・フロート家の娘ジゼルフィアとではもともと持っている魔法量が違い過ぎる。それでもジゼルフィアは彼が持つ魔法の知識の豊富さに感心したし、幼い頃から一緒にいてこれからもずっと傍にいたいと、できることなら彼と結婚したいとまで考えていた。だが、王国の第一王子の聖女花嫁は莫大な魔法量を受け止められる女性しかなることができず、デ・フロート家のジゼルフィアしか該当者がいなかったことから彼女は想いに蓋をしていた。
 だから「愛してる。だから犯して殺すね」と言ってくれたホーグの言葉に怯えながらも心のどこかで歓喜している自分もいたのだ。
 いまの彼はジゼルフィアの掌のなかでおとなしくなっているが、ジゼルフィアの手をつないだまま離さないでいる。

「いまのわたしたちは転移している途中、なんです」

 ここではないどこかへ。
 ジゼルフィアは淋しそうに口ずさむ。
 転移した先ではきっと魔法が使えないだろう。場合によっては記憶も消えてしまうかもしれない。
 それでもホーグは自分のことを愛してくれるだろうか。
 繰り返される花々の一生を横目に、ジゼルフィアは彼の手を強く握りしめる。
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