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第二部 初恋輪舞 大正十二年文月~長月《夏》

芽生えた想いと躊躇いの間 02

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   * * *


 ――な、何を言っているんだ俺は。

 自分の恋人でもなんでもない、護衛対象の姫君に口にするにはかなり際どい言動をしてしまったと資は焦る。
 昨晩の、彼女の痴態を目にして以来、調子が狂いっぱなしだ。
 おまけに今朝早く、あれ・・が裏でこそこそ岩波山周辺を嗅ぎまわっているとの情報を傑から得たばかり。姫の存在を知られたらと思った途端、いてもたってもいられなくなってしまった。
 綾音に執着していたあれが、彼女にそっくりな姫を見つけだしてしまったら……

「資さま?」
「失礼……いま、食事を持ってきてもらうから部屋で待っていてくれ」
「食堂でいただくのではないのですか」
「何時だと思っているんだい?」

 もうお昼を過ぎているよ、と資に言われて音寧は瞳を瞬かせる。
 そんなに眠っていたのかと唖然とする彼女を見て、資は表情を柔らかくする。

「昨晩は無理をさせてしまったからな。ゆっくり休めたみたいだし良かった」
「……ご迷惑、おかけしました」
「いえ。役得だったよ」

 もし彼女の護衛に自分以外の軍部の人間が就いていたらと考えると、資の胸が鋭く痛む。魔に犯された彼女を清める役目を担えたのは僥倖だったと呟く彼を見て、音寧も思わず応えてしまう。

「わたし、も……禊をしてくださったのが資さまで、良かったです」

 顔を赤らめながら自分の名を口にする姫を前に、資の鼓動が激しくなる。深入りしてはいけないと思っているのに、彼女が自分を見つめる都度、その視線をいつまでも自分だけのものにしたい欲情に駆られてしまう。
 彼女の肌に刻まれている証や、膣奥まで自分の指を難なく受け入れた昨晩のことを思えば、彼女が生娘ではないことに失望にも似た感情を覚えたが……それでも彼女が自分の禊を受け入れてくれた現実に、舞い上がりそうになってしまう。
 けれど、そう考えると未だ彼女の内部には淫魔が巣食っているのかもしれない。冷静になった資は乾いた笑みを浮かべ、目の前の彼女に試すように告げる。

「貴女のなかに逃げ込んだ淫魔はずいぶんしぶといみたいだな」
「え?」
「禊によって一時的に魔の気配は消えたけれど、完全には払えなかった。たぶん、貴女の内部に隠れてしまった」
「そんな……」

 自分は淫魔に魅入られてなどいないと言ったところで、きっと資は信じてくれないだろう。現に淫の気を吸収するトキワタリの鏡に気づき、音寧から取り上げたのだから。そして、昨晩の禊の途中で気をやってしまったことで、資は淫魔が音寧の内部に隠れてしまったと解釈したに違いない。
 誤解ですと思わず返しそうになった音寧だが、もしかしたらこれは彼から精をもらう良い機会かもしれないと黙り込む。

「だから、貴女が淫の気に苛まれて苦しむことがあるのなら……これからも俺が姫を、お慰めしてもいいだろうか」
「……慰める?」
「軍部にこのことが知られたら俺以外の男たちにも昨晩のような、いや、それ以上の行為を強制され、淫魔を退治しようとするだろう。そして、淫魔を退治した報酬として貴女が持っている異能のちからが求められるはずだ。かつての綾音嬢のように精力を与えられて……俺は特殊呪術部隊に居を構えてはいるが、既に第参陸軍からは退役扱いされている。軍にこのことを知らせず、貴女を淫魔から救いたい」
「そのようなことが、可能なのですか?」
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