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第二部 初恋輪舞 大正十二年文月~長月《夏》

睦みあい、明かし、愛、誓う。 02

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 うっとりした表情の音寧は、媚薬の効果が切れていないのか、いまも苦しそうに呼吸をしている。

「おとね?」
「資、さま……もっと、ください……足りない、です」

 足りないとおねだりするなんてはしたない、そう心のなかで羞恥に悶える音寧だが、媚薬のせいで身体は火照ったままだ。それに、異能が発揮できる環境を欲する身体は、彼の精を受け入れたことで、未だに彼を、彼が持つ精力を求めている。
 綾音の結納の日までに破魔のちからを受け入れる器を形成しなくてはいけない彼女は、この先何度も彼と性を交わしてちからを溜めなくてはならない。ようやく結ばれたのだ。もっと、彼に貪欲に求めてもらわなくては――……

「っ、そんな風に煽られると……滅茶苦茶にしてしまうよ」
「彼方になら、何をされても……構いません」

 魔に魅入られた彼から受けた強引な愛撫にも、音寧は陥落寸前だった。花嫁衣裳を切り裂かれ、吊るされた状態で犯されていたら……そう考えただけで音寧の下腹部がきゅんと疼く。

 そういえば結婚して西ヶ原の洋館で身体を繋げあったときも、有弦は音寧を拘束したり抱き上げて不安定な状態にして貫くのがすきだった。逃げられないように、自分のことしか考えられないように……そうやって、無垢な音寧を自分の色へ淫らに美しく染め上げた彼の原体験を、音寧は改めて身を持って知ったのだなと実感する。

「――言ったね」
「ぁ」

 不意打ちの食らいつくような接吻とともに、二度目の愛の交歓がはじまる。ちいさな寝椅子の上に押し倒された音寧の身体が期待で震えている。勃ちあがったままの乳首を噛まれて、眼裏に火花が散る。
 何度も貫いていく彼の熱楔を受け入れながら、快楽に溺れた音寧は子宮いっぱいに彼の白濁を受け入れ、彼女は果てた――身も心も、彼に染め直され、愛される悦びに浸る甘く官能的な未来を夢見て。


   * * *


 何度、彼女のなかに出したのだろう。
 資は力尽きて眠ってしまった音寧を抱きしめながら、苦笑を浮かべる。

 ――悪しきモノに魅入られたのは不覚だった。展望台で、人に酔ったか……それとも。

 音寧を傷つけかねなかった自分の行動を反省しながら、資は反芻する。浅草に出てふたりきりになってからの自分と、彼女のことを。
 発端は入谷の洋食屋で異母兄の傑が口にしたたわいもない一言だった。結納が終わったら、姫の役目は終わりだと、軍に守ってもらう必要もなくなる……と。彼女は夏の終わりまでいると言っていたが、それは嘘だったのだろうか。そして観月館の鍵を渡された。彼女が消えてしまう前に捕まえて、求婚するんだな、と言われて。
 自分が見てきたことと目の前で起きていることに差異があることに気づき、胸が苦しくなった。彼女がいなくなる未来が想像できなくて、焦りだした。歌劇場で求婚したところで、彼女は俺に応えてくれるだろうか?
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