メンヘラ転生ヒロインは監禁されるくらいがちょうどいい

ささゆき細雪

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 結婚しよう、結婚したい、いますぐ抱いて既成事実を作ってと訴えただけなのに、どうして彼は冷めた目でわたしのことを見ているの……?

 日が暮れた遊園地は色鮮やかな明かりが灯され、ハロウィンの装飾を踊らせている。はりま播磨鳴海なるみはにこにこしながらコートを脱ぎ、扇情的な黒のベビィドール姿になって「結婚したいの!」と告白した。その反応がこれだ。人気のない遊園地の片隅で肌をさらけ出した鳴海の姿は異様で、目の前の男性は唖然としている。

 そんな一ヶ月前に付き合い始めたばかりの彼氏ーー酒々井しすい騎生きおははぁ、と肩を落として言い返す。

「コートを脱ぎたがらないと思ったらそんなもん着てたのか。いつも言っているだろ。俺たちまだ学生だし、それに付き合いはじめてまだ一ヶ月だぞ。結婚って……」
「ここじゃ恥ずかしかったでしょうか? じゃあ、まずはホテルに行って愛を語り合いましょう! 今夜は気合いを入れたんです! この服、可愛いでしょ?」
「服じゃねーだろ。いや、かわいいとか愛を語ろうとかそういう問題じゃなくてだな……」
「もしかして黒より白の方が良かったですか? でもせっかくのハロウィンだしよく見てください、スリットのところには紫とオレンジのラインがついてるんです! 魔女みたいでしょ?」

 下着の際どい部分がてらてらとした生地で強調されている。紫とオレンジのサテンリボンがぎらりと煌めく。思わず騎生は喉を鳴らしてしまったが、こんな場所で彼女の思い通りにさせるわけにはいかないと慌てて言い返す。

「まず、一方的に結婚を押し付けてくるような女は無理だって言ったよな。コートのなかに下着しかつけていない変態女も無理だ。そういうの痴女って言うんだ」
「詳しいのですね! やっぱり結婚しましょう!」
「だからその結婚しようって発想は毎回いったいどこから来るの……っといけね」

 ゴゴゴゴゴ……という地響きのような音が空のうえから轟き、ふたりの会話を遮る。雷雲だろうか、ついさっきまで澄み切っていた夜空に暗雲が立ち込めている。荷物を手に取った騎生が何か言っていたが鳴海は聞いていなかった。

 ――あのひとたちを黙らせるには結婚するしかないんです、まどろっこしい手段なんか取っていられない。だってピンと来たのです、騎生がわたしを救ってくれる……って!

 それなのにハロウィンデートは散々だった。混雑するアトラクションで財布を落とし、見つかったと思えば中身は空っぽ。騎生に呆れられながらランチを奢ってもらい気を取り直したけれど、今度は予期せぬ雷雨。世界の終わりを彷彿させる落雷の音と大粒の雨が鳴海を怯えさせていた。いま求婚しないと彼に愛想をつかれてしまう……?
 どうしよう。鳴海は焦りはじめる。結婚したい、結婚して早く子作りして彼を繋ぎ止めておかなくちゃと本能が訴えている。誰にも渡したくない。いまここで彼を繋ぎ止めて――……

「結婚しないなら……死んじゃいま」

 ―――――ゴロゴロ、ピシャーン!!!

 勢いよく雨が降りだす。夜七時を迎えた土曜日の遊園地にはいまも多くの客が滞在していたが、この雨で大半が引き払っていたようだ。鳴海は雷の音に驚き動きを止める。目の前にいた彼氏の姿が消えている。嘘、こんなところでひとり置き去りにされるなんて。

「……騎生!?」

 くるりと踵を返してなにも言わずに去っていく彼氏を追いかけようとヒールの高いブーツで走ろうとした鳴海は、雨で湿った路面をつるりと滑り、そのまま運悪く壁面にあたまをぶつけてしまう。ゴスッという鈍い音は落雷の轟音にかき消える。
 遠ざかる意識のなか、鳴海が思ったのは。

 ――ベビィドール、黒より白の方が良かったのでしょうか……

 という、なんとも場違いなことだった。
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