7 / 10
7
しおりを挟む日雀彗人。数学が得意で星が嫌いな天文部員。
「この三日間で、あたしはここまで君のことを知ることができたよ」
「そっか。じゃあ俺も」
大伊香子。高校二年になって編入してきた転校生。さばさばした性格で誰からも好かれている、それでいて星が好きな淋しがりの女の子。
「こんな感じじゃない?」
「当たってる……けど。どうしてあたしが淋しがりなの?」
今日の天体観測は中止だ。
窓の向こうで降り始めた雨。音を立てて降り出す雨を背に、机の上に座って、二人は互いのこと、星のことを語りつづける。
「ムリしてるように見えるから。まだ、空気に溶け込んでいるようには見えないから」
「空気?」
「そ。空気。人間関係には溶け込んでいるみたいだけど、都会の空気に馴染めてない、そんな雰囲気がある。だから一人、取り残されてるように見えちゃって……こんなこと言うと失礼かもしれないけど」
香子はぶんぶんと首を横に振る。そんなことない、だってそれが事実だから。
「あたしね、怖いんだ」
自分は田舎モノだから、って一線を引いちゃって、それ以上踏み込めずにいるんだ。
それは流行だったり、環境だったり、時間だったり……
「時間?」
なぜ時間が恐怖の対象になるのだろう? 日雀がきょとんとした顔で口を開けば、香子が苦笑する。
「だって、時間の流れが早すぎる。なんでみんな慌ててるの? それともあたしがのんびりしすぎてるの?」
三分するかしないかで来る電車、それなのに当然のように駆け込み乗車をする人たち。どうして次を待てないの? 十分以上待つわけでもないのに。
一日に三本しか走ってないバスじゃあるまいし、そこまで切羽詰まって生活している人たちが、香子には信じられない。
「……でも、それが都会の暮らしなのかなぁ」
空気に溶け込めない。焦燥ばかり空回り。
そんな香子の言葉を、日雀は黙って聞きつづけている。
「だから、あの星座盤見た時、前いた場所のこと思い出して……そういえば毎日空、見る余裕があったのになぁって」
「ここじゃ星は見えないって?」
「うん、そう思ってた」
毎晩のように見上げていた満天の星空が、ここにはないと、都会は、灰色の雲に覆われた怠惰な、人工光だけの世界だと思ったから。
「でも、そうじゃないってわかっただろ?」
屋上で天体望遠鏡を使って見た、天体たち。周囲で瞬く恒星。都会でも星は見える、都会の夜空だって捨てたもんじゃない、そのことを日雀は香子に教えてくれた。
香子はこくりと頷く。そして、日雀に近寄り、耳元で囁く。
「見えないんじゃなくて、見ていないんだね」
「都会に暮らしてる人間は、確かに時間に囚われているかもしれない。でも、そうじゃない奴らも少なからずいる」
「ヒガラくんみたいに?」
「そ」
頷きながら、香子の左手に優しくふれて、日雀は指を絡める。香子もそれに応えるように、指先に、力を込めた。
焦らなくてもいいんだよと、言われたような、そんな気がした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
『大人の恋の歩き方』
設楽理沙
現代文学
初回連載2018年3月1日~2018年6月29日
―――――――
予定外に家に帰ると同棲している相手が見知らぬ女性(おんな)と
合体しているところを見てしまい~の、web上で"Help Meィィ~"と
号泣する主人公。そんな彼女を混乱の中から助け出してくれたのは
☆---誰ぁれ?----★ そして 主人公を翻弄したCoolな同棲相手の
予想外に波乱万丈なその後は? *☆*――*☆*――*☆*――*☆*
☆.。.:*Have Fun!.。.:*☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる