恋愛観測

ささゆき細雪

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 日雀彗人。数学が得意で星が嫌いな天文部員。

「この三日間で、あたしはここまで君のことを知ることができたよ」
「そっか。じゃあ俺も」

 大伊香子。高校二年になって編入してきた転校生。さばさばした性格で誰からも好かれている、それでいて星が好きな淋しがりの女の子。

「こんな感じじゃない?」
「当たってる……けど。どうしてあたしが淋しがりなの?」

 今日の天体観測は中止だ。
 窓の向こうで降り始めた雨。音を立てて降り出す雨を背に、机の上に座って、二人は互いのこと、星のことを語りつづける。

「ムリしてるように見えるから。まだ、空気に溶け込んでいるようには見えないから」
「空気?」
「そ。空気。人間関係には溶け込んでいるみたいだけど、都会の空気に馴染めてない、そんな雰囲気がある。だから一人、取り残されてるように見えちゃって……こんなこと言うと失礼かもしれないけど」

 香子はぶんぶんと首を横に振る。そんなことない、だってそれが事実だから。

「あたしね、怖いんだ」

 自分は田舎モノだから、って一線を引いちゃって、それ以上踏み込めずにいるんだ。
 それは流行だったり、環境だったり、時間だったり……

「時間?」

 なぜ時間が恐怖の対象になるのだろう? 日雀がきょとんとした顔で口を開けば、香子が苦笑する。

「だって、時間の流れが早すぎる。なんでみんな慌ててるの? それともあたしがのんびりしすぎてるの?」

 三分するかしないかで来る電車、それなのに当然のように駆け込み乗車をする人たち。どうして次を待てないの? 十分以上待つわけでもないのに。
 一日に三本しか走ってないバスじゃあるまいし、そこまで切羽詰まって生活している人たちが、香子には信じられない。

「……でも、それが都会の暮らしなのかなぁ」

 空気に溶け込めない。焦燥ばかり空回り。
 そんな香子の言葉を、日雀は黙って聞きつづけている。

「だから、あの星座盤見た時、前いた場所のこと思い出して……そういえば毎日空、見る余裕があったのになぁって」
「ここじゃ星は見えないって?」
「うん、そう思ってた」

 毎晩のように見上げていた満天の星空が、ここにはないと、都会は、灰色の雲に覆われた怠惰な、人工光だけの世界だと思ったから。

「でも、そうじゃないってわかっただろ?」

 屋上で天体望遠鏡を使って見た、天体たち。周囲で瞬く恒星。都会でも星は見える、都会の夜空だって捨てたもんじゃない、そのことを日雀は香子に教えてくれた。
 香子はこくりと頷く。そして、日雀に近寄り、耳元で囁く。

「見えないんじゃなくて、見ていないんだね」
「都会に暮らしてる人間は、確かに時間に囚われているかもしれない。でも、そうじゃない奴らも少なからずいる」
「ヒガラくんみたいに?」
「そ」

 頷きながら、香子の左手に優しくふれて、日雀は指を絡める。香子もそれに応えるように、指先に、力を込めた。
 焦らなくてもいいんだよと、言われたような、そんな気がした。
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