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しおりを挟む東の空から赤みがかった月が姿を現す七時二十分。鋭い刃物のような三日月を背に、二人は駅に向かって歩き出す。
「ヒガラくんって、変な人だね」
ぽそ、と口にする香子に対して両頬をぷぅっと膨らませる日雀。
「なんだよそれ」
それでも彼は怒っていない。むしろ笑っている。
空の色は薄墨から漆黒へ。
「だっておかしいよ。星の嫌いな天文部員なんて」
「俺が嫌いなのは恒星。天の羊の群れが嫌いなの」
「天の羊の群れ?」
駅へ向かうにつれて、誘蛾灯に集う羽虫のように人が増えていく。薄暗かった住宅街を抜ければ氾濫した光に迎えられる。
明るすぎる夜空に、星は映らない。
「満天の星空のことをメソポタミアの先住民族が、そう呼んでいたんだと」
地学教師が趣味で作った天文部は部員数が三年生の先輩と二年生の日雀、男二人だけだという。受験生の彼は忙しいので今は日雀がひとり天体観測をつづけているそうだ。
「その先輩もタダモノじゃないね」
「も、って何。も、って」
「ヒガラくん絶対天体マニアだよ」
「マニアは嫌い?」
突然真顔になって、日雀は香子の瞳を見つめる。その、態度の変化に思わずたじろぐ香子。
「……嫌いじゃないけど」
「ならいいじゃん」
おどけた顔に戻った日雀は、戸惑う香子を見てくすりと笑う。
「俺。明日も大伊さんと天体観測したいから」
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