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どのくらい眠っていたのだろう。運転手の腕が良かったからかすっかり寝入ってしまった。車窓の向こうは駅前で見た風景とはまったく違う、真っ暗で鬱蒼とした山道だ。
「……!?」
まさか、こんなときに限って寝過ごした? きょろきょろ周囲を見渡せば、乗客の姿はどこにもない。時計を見ようにもスマホの電池が切れている。こういうときに限って……詰んだ。このままじゃ最終バスで終点まで行って降ろされた先で野宿確定だ。
「本日も営田バスをご利用いただきまことにありがとうございました。まもなく終点、十和栗車庫でございます……」
これが駅前だったらどんなによかったことか。降ろされた先にコンビニひとつ存在しない山奥で、これから朝まで過ごすことを考えると気が遠くなる。お化けどころではない、熊に食べられてしまう危険性だってある。むしろこのままバスのなかで眠ってしまいたい。
「お客さん、終点ですよー」
狸寝入りをしたところで無駄でした。バスが停車して乗客を吐き出し終えて、最後のひとりになったところで運転手の無慈悲な勧告。頑なに瞳を閉じて抵抗したかったけれど、このひとに迷惑をかけるわけにもいかないとあたしは渋々まぶたを開き、唖然とする。
「……お兄、ちゃん?」
「まさか、桧林さんとこの百寧ちゃん?」
乗車時に「お兄ちゃんみたいな声だなぁ」と思っていたバスの運転手は、ほんとうにお兄ちゃんだったらしい。
「うん。黒戸さんとこの一季お兄ちゃん」
「いっき、じゃなくてかずきだ、って何度言ったらわかるんだよ」
「かずきだと同じクラスにいるんだもの。いっきでいい、って言ってたじゃん」
「いったい何十年前の話をしてるんだい。っていうかなんで最終バスの終点にモネちゃんがひとりで乗ってるのさ」
運転手の制服を着たお兄ちゃんが早口でまくしたてるのを見て、ああやっぱりお兄ちゃんだと思わず泣きそうになる。
そんなあたしを見て「なんで泣く!?」とオロオロしだしたので「まだ泣いてないよ泣きそうになっただけ!」と言い返してこれまでの事情を説明する。
「……だからそんな心もとない格好でバスに乗ってたの?」
「真夜中のハイキングにでも行くかと思った?」
「この先にある自然公園のキャンプ場なら夏休みいっぱいで今年の営業終わってるから十八時でゲートも閉まってるぞ」
容赦なく言い切られてしまう。たしかに夏休みのあいだはまだこの辺もハイキングやキャンプの客でにぎわっていたが、九月も中旬を過ぎた平日の夜となってはそれらしきひとの姿も見られない。それ以前にお兄ちゃんの腕時計が指し示している現在時刻は二十二時半でした、さすが最終バス。終着地は真っ暗闇だ。
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