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しおりを挟む「ねえ、このバス折り返さないの?」
「バカ言うなよ。終点。終バス。車庫だぞ? 朝までこのまま。だからお客さんは降りてください」
「やだ、降りたら野宿しなくちゃいけないじゃない。それにこのへん熊出没注意って……」
あたふたするあたしをお兄ちゃんはどこか面白そうに見つめている。
「そうだねえ、先月隣町で熊が釣り人襲ったって事件があったのまだ捕まってないし、特に夜は危険だからな」
「だったらなおさらバスから降りられないじゃない! どうしよう」
「俺はこのあとバスをとめて営業所で仮眠取るつもりだけど」
「だったら」
連れて行ってよと目で訴えれば、お兄ちゃんは本気で困った顔をしている。
「かわいいモネちゃんを男だらけの営業所に連れ込むわけにはいかないよ。だったらこのバスで一緒に一晩過ごす方がぜんぜんマシかな」
「……え」
「俺は何も知らないふりをして車庫にバスをとめて、翌朝同じバスで運転を開始する。降ろし忘れた乗客がいるなんてバレたら大目玉だけど……バレなきゃ問題ない、だろ?」
「ええええ!?」
* * *
お兄ちゃんは営業日誌を書くために営業所に戻らないといけないと言っていたけれど、終点でバスにトラブルが発生したことにして今夜は戻らず翌朝そのまま運転する旨を電話で報告することで事なきを得てしまった。意外とよくあることらしい。トラブルの内容については機械系統の一時的な故障だとか言って誤魔化している。すでに夜遅い時間なのもあって、営業所から車庫まで人を駆り出して修理する必要もないと、この程度なら自分で直せるといけしゃあしゃあと言い放っていた。
「……お兄ちゃん、慣れてる?」
「なにが?」
けろりとした表情でバスのなかの照明を落とし、周囲が真っ暗になる。真夜中の山道に位置する十和栗車庫にはあたしたちが乗っているバスと同じような車体のバスが無人の状態であと二台、並んでいた。ここからプレハブ造りの営業所までは歩いて十分ほどで行けるらしいが、自然公園のゲート前を抜けたさらに山奥に位置しているため慣れてないと道を外れて迷ってしまう可能性もあるのだという。公園の方へ視線を向ければぽつりぽつりと街路灯が点灯しているものの、すでに人の気配がないため物寂しい。このまま道沿いに車を走らせれば県境のトンネルまで出られるが、高速道路が開通してからはわざわざ辺鄙な一般道を夜間に使う人間もいない。それこそ地元の人間か、不法投棄をしに来る犯罪者くらいだろう。
「堂々とバスの電源は使えないからな。これ持って」
「わっ」
どこから取り出したのかペンライトのような懐中電灯を渡される。停電時に使う臨時灯のようなものなのだろう。あたしは物珍しそうにお兄ちゃんのお仕事鞄に入っているものを見つめる。
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