最終バスで、初恋のお兄ちゃんに求婚したら

ささゆき細雪

文字の大きさ
4 / 9

+ 4 +

しおりを挟む




「ねえ、このバス折り返さないの?」
「バカ言うなよ。終点。終バス。車庫だぞ? 朝までこのまま。だからお客さんは降りてください」
「やだ、降りたら野宿しなくちゃいけないじゃない。それにこのへん熊出没注意って……」

 あたふたするあたしをお兄ちゃんはどこか面白そうに見つめている。

「そうだねえ、先月隣町で熊が釣り人襲ったって事件があったのまだ捕まってないし、特に夜は危険だからな」
「だったらなおさらバスから降りられないじゃない! どうしよう」
「俺はこのあとバスをとめて営業所で仮眠取るつもりだけど」
「だったら」

 連れて行ってよと目で訴えれば、お兄ちゃんは本気で困った顔をしている。

「かわいいモネちゃんを男だらけの営業所に連れ込むわけにはいかないよ。だったらこのバスで一緒に一晩過ごす方がぜんぜんマシかな」
「……え」
「俺は何も知らないふりをして車庫ここにバスをとめて、翌朝同じバスで運転を開始する。降ろし忘れた乗客がいるなんてバレたら大目玉だけど……バレなきゃ問題ない、だろ?」
「ええええ!?」


   * * *


 お兄ちゃんは営業日誌を書くために営業所に戻らないといけないと言っていたけれど、終点でバスにトラブルが発生したことにして今夜は戻らず翌朝そのまま運転する旨を電話で報告することで事なきを得てしまった。意外とよくあることらしい。トラブルの内容については機械系統の一時的な故障だとか言って誤魔化している。すでに夜遅い時間なのもあって、営業所から車庫まで人を駆り出して修理する必要もないと、この程度なら自分で直せるといけしゃあしゃあと言い放っていた。

「……お兄ちゃん、慣れてる?」
「なにが?」

 けろりとした表情でバスのなかの照明を落とし、周囲が真っ暗になる。真夜中の山道に位置する十和栗車庫にはあたしたちが乗っているバスと同じような車体のバスが無人の状態であと二台、並んでいた。ここからプレハブ造りの営業所までは歩いて十分ほどで行けるらしいが、自然公園のゲート前を抜けたさらに山奥に位置しているため慣れてないと道を外れて迷ってしまう可能性もあるのだという。公園の方へ視線を向ければぽつりぽつりと街路灯が点灯しているものの、すでに人の気配がないため物寂しい。このまま道沿いに車を走らせれば県境のトンネルまで出られるが、高速道路が開通してからはわざわざ辺鄙な一般道を夜間に使う人間もいない。それこそ地元の人間か、不法投棄をしに来る犯罪者くらいだろう。

「堂々とバスの電源は使えないからな。これ持って」
「わっ」

 どこから取り出したのかペンライトのような懐中電灯を渡される。停電時に使う臨時灯のようなものなのだろう。あたしは物珍しそうにお兄ちゃんのお仕事鞄に入っているものを見つめる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

絶体絶命!!天敵天才外科医と一夜限りの過ち犯したら猛烈求愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
絶体絶命!!天敵天才外科医と一夜限りの過ち犯したら猛烈求愛されちゃいました

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

スパダリな義理兄と❤︎♡甘い恋物語♡❤︎

鳴宮鶉子
恋愛
IT関係の会社を起業しているエリートで見た目も極上にカッコイイ母の再婚相手の息子に恋をした。妹でなくわたしを女として見て

元遊び人の彼に狂わされた私の慎ましい人生計画

イセヤ レキ
恋愛
「先輩、私をダシに使わないで下さい」 「何のこと?俺は柚子ちゃんと話したかったから席を立ったんだよ?」 「‥‥あんな美人に言い寄られてるのに、勿体ない」 「こんなイイ男にアピールされてるのは、勿体なくないのか?」 「‥‥下(しも)が緩い男は、大嫌いです」 「やだなぁ、それって噂でしょ!」 「本当の話ではないとでも?」 「いや、去年まではホント♪」 「‥‥近づかないで下さい、ケダモノ」 ☆☆☆ 「気になってる程度なら、そのまま引き下がって下さい」 「じゃあ、好きだよ?」 「疑問系になる位の告白は要りません」 「好きだ!」 「疑問系じゃなくても要りません」 「どうしたら、信じてくれるの?」 「信じるも信じないもないんですけど‥‥そうですね、私の好きなところを400字詰め原稿用紙5枚に纏めて、1週間以内に提出したら信じます」 ☆☆☆ そんな二人が織り成す物語 ギャグ(一部シリアス)/女主人公/現代/日常/ハッピーエンド/オフィスラブ/社会人/オンラインゲーム/ヤンデレ

優しい紳士はもう牙を隠さない

なかな悠桃
恋愛
密かに想いを寄せていた同僚の先輩にある出来事がきっかけで襲われてしまうヒロインの話です。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

処理中です...