最終バスで、初恋のお兄ちゃんに求婚したら

ささゆき細雪

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「まあ、モネちゃんのことは気がかりだったからね」


 さらりと口にするお兄ちゃんに思わず頬を膨らませてしまう。気がかりだと言ってはいるけれど、その気のかけ方は妹のようなものでしかないのだ。
 父の葬儀のときは一瞬だけ顔を合わせたけど、そのときのあたしには彼氏がいたし、向こうも忙しそうにしていたから連絡先を交換することもなかった。どうせすぐまた逢うことになるだろうし……そう思ったら五年も経っていた。

「そろそろいい結婚相手見つかったかな、とか、俺に赤ん坊抱っこさせてくれるかなぁ、とか」
「飛躍しすぎ! 残念だけど相手いないから!」
「だよなー、同棲相手に裏切られて最終バスに乗り込んで寝過ごしてるモネちゃんだもんねー」
「悪かったですね! そういういっきお兄ちゃんこそ相手いないの?」
「いるわけねーだろ。長距離の仕事してるうちは家庭なんか持てないって諦めてたし」
「じゃあ今は?」
「この辺鄙な田舎のバスの運転手に喜んでお嫁に来る女のひとなんかいると思う?」
「――いるじゃない、ここに!」
「……モネちゃん、さっき振られたばかりだからってヤケになってない?」
「なってません! おにいちゃんがお嫁さん募集中なら喜んでなります!」

 売り言葉に買い言葉、のようなノリで立候補してしまった。そこまで食いついて来るとは思わなかったのだろう、おにいちゃんが困惑した表情であたしを見ている。電源の落ちた薄暗いバスのなかで朝までふたりきり。それだけで気まずいのに告白なんかしたら止められなくなってしまう。

「いっきお兄ちゃんはあたしの初恋だよ。年齢が離れてるからどうせ妹にしか思われないだろうってこの気持ち封印してた。諦めて年齢の近い男のひととつきあってみたりしたけど、いつもダメだったんだよ。引っかかるのは悪いオトコばかり。お兄ちゃんのせい……ンっ!」

 あたしを抑えつけるように背もたれに両腕を押し付け、お兄ちゃんが唇を奪う。突然のキスにあたしは目を白黒させる。

「シー。大きな声出したらバレるぞ」
「ンっ」
「モネちゃんがイヤならやめるけど。続けてもいいってことだな?」
「え」
「いまからを俺のモノにする、ってこと」
「ふぇ?」

 とろんとした表情でお兄ちゃんを見上げれば、彼は獣のように瞳をぎらつかせてニヤリと笑う。この笑い方、悪いオトコだ。
 そしてあたしはこくりと頷く。この先に何が待ち構えているのか、ほんのすこしだけ期待して。だってもうオトナだもの。
 施錠されたバスのなか。
 この気持ちからは逃げ出せないし、もはや逃げられもしないのだ。
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