アルコホリックガールにサヨナラ

0.お酒に逃げる日々

　扉を開ければそこはエキセントリックワールド。
　奇矯な空間の中、いつものように。


「またフラれたんだ、おねえちゃん」


　憤りを通り越した妹の落胆の声。
　机の上へ覆い被さるように突っ伏したまま、あたし、駆けつけてきてくれた妹の刺々しい声に気づき、ゆっくり口を開く。


「……笙子ショーコ。いたの」
「いたよ。おねえちゃんが呼んだんでしょ」


　一瞥した後、笙子は勝手に洗面所から雑巾を取り出し、床に散ったままの吐瀉物や、赤ワインの水溜りを片付け始める。

「信じられない。快晴なのにカーテン閉めたままで電気もつけないで。視力落ちるよ」

　文句を言いながら素早く部屋を掃除する妹は、哀れむこともせず、てきぱきと厄介ごとと向き合っていく。

「早く立ち直ってね」
「フラれたって解釈したくせに……」

　俯いたまま、笙子の言葉に反論する。それを肯定だと知っている妹は、何も言わずに掃除を続ける。
「タスケテ」ってメールを送るだけで駆けつけてくれる妹がいる。ああなんて幸せモノなんだろう。
　と、笙子のせわしなく動く背中を見つめながら、いつものように感謝する。ごめんねふがいない姉で。

「おねえちゃん、燃えないゴミにみかんの皮入れないでよ！」

　ゴミ袋をチェックして、あたしの間違いを訂正していく。
　小姑のように。
　だけど、それが気持ちいいと感じてしまう。


「どうしておねえちゃん、一人暮らしできるんだろう……監視カメラつけたいくらい」


　笙子が心配するのももっともだ。大学生になったんだから、一人暮らしくらいできるでしょ？　なんて両親に追い出されて、自炊や銀行振込みやお金のやりとりに格闘する日々を送ることになるとは……そして約二年生活できているという衝撃の事実。内容はかなり怠惰だけど。


「もうすぐあたし、受験生なんだから。すぐ駆けつけること、できなくなるんだよ。いい？」


　自転車の空気が抜けたような声で頷く。笙子はあたしだけのために時間を割くほど暇人じゃないのだ。優先すべき事柄はこれからもっと増えていくだろう。笙子の人生にあたしが乱入するのは好ましい事態ではない。っていうか今の時点で自分、姉貴失格だと思う。


　そうして笙子が大きなゴミ袋を持って、あたしの部屋から姿を消すと、あたしは再び酒盛りを始めてしまう。淋しくて。
　どうして急性アルコール中毒になってポックリ逝けないんだろう。だけどやめられない。精神科医のメニンガーが慢性的な自殺だなんてほざいた禁断の遊び。だけどこのくだらない人生をいつだってがけっぷちで助けてくれるのは、この合法的なドラッグがあるからで。飲酒すれば、忘れられる。あの男のこと。そしたらまた、妹に頼らない生活に戻れるから。今は酒に溺れる。

　今だけだからと、悪循環に理屈をこねて。