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※ side of Yomeiri ※ 2
しおりを挟む大塚野原はファロー四徴症だった。
フランスの医師ファローが発見したという先天性の心臓疾患で、主に低酸素血症とも言われるチアノーゼ発作の頻度が高いのが特徴だ。ちなみにチアノーゼってのは、酸素不足で皮膚や粘膜が青白くなる状態のこと。
中学時代に心不全を起こして倒れた野原の口唇や爪先が青紫色に染まっていたのも、いま思えばチアノーゼによるものだったのかもしれない。まぁそれはおいておこう。
一説によると原因は遺伝子によるものともいわれていて、胎内で心臓がつくられる際に起こる発生異常が云々……要するに生まれつきである。
とはいえ、幼少時期に行われる根治手術の死亡率は3パーセントに満たず、外科手術を行うことでこの心疾患とは上手に付き合うことが可能だ。
現に彼女も乳幼児期から三度にわたる手術を行い、ふつうのひとと同じような生活を送れている。運動制限はあるものの、心機能の評価によっては妊娠・出産も問題ないそうだ。
『なるべく若いうちに、嫁入と……駿河と子作りがしたい』
医療の現場でも、先天性心疾患の治療をした患者で子どもを望む女性は若くて体力のあるうちに妊娠・出産をすることが望ましいという話は耳にしている。
が。
まさか野原が俺との子どもを欲しているとは思わなかったから、意外だったのだ。
「――くすぐったいよ、嫁入」
「おかしいと感じたらすぐ言えよ?」
「そんなに脆くありません……っぁ……ふっ」
ベッドにそっと横たえ、心臓の手術痕に唇を寄せれば、野原は思いがけない愛撫に驚きつつも、ふだんよりも高めの、甘い声をあげる。
小ぶりだが綺麗な形をしている乳房に両手を添えて、ゆるゆると揉みはじめれば、その声には更に切なさが加わる。
「……心臓、ばくばくしてねぇか?」
「してる」
けど、平気だと蕩けるような表情を浮かべて微笑む彼女を前に、俺の自制心は崩壊しそうになる。
宝物のように大切に、大切に扱って、気持ちいいことだけ教えたいのに。
彼女の乱れる姿に興奮して箍が外れたら、激しく追い詰めて、きっと壊してしまう。
――痛め付けるように乳房を揉みしだき、乳首に噛みつき、未通の秘処を暴いたらどうだ?
狂ったように快楽に堕ちてゆく彼女を見たいと唆す俺のなかの悪魔の声。
――そんなことをしたらほんとうに彼女は天国に召されてしまうぞ。優しく丁寧に導くんだ。
……と冗談にもならない助言をする天使の声も響く。たしかに過激なセックスが原因で心不全の発作を起こされたら洒落にならない。たとえ完治の診断が出されていようが、心不全のリスクだけは避けられないのがこの病気の宿命だからだ。
「ふふ、命がけのエッチだね」
「っ!」
俺の脳裡を覗き見したかのような野原の発言に、睨みあっていた悪魔と天使の幻影がさぁっと消える。
「平気だよ、つづけて」
一瞬だけ躊躇った俺を鼓舞するかのように、野原はくすくす笑う。ドキドキはしているようだが、本人は問題ないと告げている。
俺も覚悟を改めて、両手でそうっと彼女の左右の乳首を摘まむ。
既に興奮して勃ちあがっているふたつの乳首は黒ずみもなく、淡い桜色をしている。あどけない乳首をくにくにと刺激すれば、余裕を見せていた野原もすぐに顔色を変えて色っぽく喘ぎだす。
そのままぱくりと片方の乳首に吸いつけば、更に甘い、いままで聞いたこともない彼女の媚声が耳底へ転がりおちてゆく。
「ぁあっ……それ、だめぇっ――……!」
噛みつくことはしないで、ただ、乳飲み子のように吸いついただけなのに、野原は感極まった表情で俺を見つめている。ちうちう、と吸ってみれば、瞳を潤ませ、仔猫のような啼き声で反応する。
「かわいい」
「んぁ……ひんっ」
ちいさくて可憐な彼女がはじめて見せる官能的な表情はどれも愛らしい。舌先で乳首を舐めまわすと、腰を浮かせて悩ましいため息をつく。今度は反対側。同じように乳首を吸い上げ、れろれろと舌先で刺激すれば、桜色だった両乳首は俺の唾液にまみれててらてらと淫らに紅に染まり艶を帯びる。
もはや彼女は出逢った頃の少女ではない、ひとりの女性だ。
「感じてるんだな」
「……うん、嫁入におっぱいいじられて、気持ちいい」
「そういうことを言うな」
「なんで?」
「なんでって……我慢できなくなるだろ」
いくら野原が子作りしたいからと俺を挑発して、合意の上でセックスするとしても、彼女の心臓に負荷をかけるような激しい行為は望ましくない。
それを理解していながら、野原は俺を無邪気に挑発している。
「我慢できない?」
「ああ。キスだけで七年も我慢していた俺を誉めてくれよ」
「うん……よしよし?」
「なんでそこは疑問形なんだよ……」
ぷっ、とお互いの顔を見合わせて笑えば、そのままどちらからともなく唇を重ねあう。
俺の短髪に手をのばし、よしよし、と撫でる野原をすきにさせて、俺は啄むようなキスから舌を使った深いものへと変化させて彼女を煽る。
「――……ぁ」
唾液を絡ませ、甘い桜桃のような唇を味わいながら、ふたたび彼女の胸元へ手を伸ばし、やさしく揉めば、色っぽい吐息が口づけ越しに届く。
「ふぁ、胸ばっかり……ぁんっ」
てっきりキスをしながら全裸に剥かれて下半身を責め立てられると思ったのだろう、彼女は胸元ばかりを丹念に弄る俺の愛撫に戸惑いを見せている。
こりこりと乳首を尖らせる彼女は、俺の口づけを受け入れながら、ひくひく、とまだふれられていない下肢……股のあいだをもどかしそうに動かして、言葉にならない要求をしている。
キスで酩酊している彼女を見下ろして、俺は嘯く。
「お前……感度よすぎ。胸だけでイけるんじゃないか?」
「んっ……ゃだっ、おっぱい舐めない、でぇ……!」
ふたたび白い乳房に唇寄せて、俺は左右の乳首を舌先で愛撫する。何度も同じ場所ばかりを責められて、野原は泣きそうな顔をしている。あー、かわいい。苛めたくなる。
「よ、よめいりっ、そこ、だぁめだ、ってー……ンンっく」
「野原の乳首、真っ赤になったな。こんなに綺麗な色に染まりやがって……」
つん、と勃ちあがった乳首を爪先でつつけば、ひゃん、と野原が悲鳴をあげる。
「っと、痛かったか? やっぱりやめるか?」
いくら彼女が大丈夫だと言っても、苦しそうな顔を見せられると、臆病な俺は立ち止まってしまう。俺よりも、野原の方が真剣に行為を望んでいるというのに。
ただ、本人がここで音をあげるなら、今日はここで終わりにしても構わないと、このときの俺は思っていた。
けれど、やはりというか案の定というか、俺が七年間恋い焦がれている彼女は、この程度のことでへこたれない。
「やめないよ……ようやく、こうして駿河にぜんぶ捧げられるのに」
友人をダシに繁華街に俺を連れ出した後、ラブホテルで強引に休憩をするところまで、ぜんぶがこのための計画だったのだと、野原は胸を張って伝える。
謀られたと怒るべきなのか、それとも一線を越えられなかった俺に非があるのか、あたまのなかがぐしゃぐしゃになって、なにも言えなくなってしまう。
「――ばかだなぁ」
この、魔性の女。
命がけのエッチだなんて茶化しながら、本気で俺と繋がろうとしている。いつオオカミになって自分を襲うか、犯すか、俺の理性を試しながら、観察しながら、小賢しく。
七年分の積もり積もった想いを突きつけられて、嬉しくないわけがない。俺の心臓だって爆発しそうなのに。
すべてを露見し、悟ったような余裕を見せている彼女は、怖くないのだろうか。ここまで仕組んで、俺が獣のように襲いかかることに……もしくは、やってられるかと突き放されることに。
「そんな面倒くさい女を七年もすきだ、って言いつづけているのは誰?」
ほら、勝ち誇った顔のなんと美しいこと。
七年前から彼女はこうだ。誰よりも知的で計算高くて自信家で……いまでも俺を虜にしっぱなし。
「童貞の嫁入くん。がっつくだけがセックスじゃないよね?」
「童貞は余計だ。童貞は」
「いいじゃないか。僕だって処女なんだ。ただ、この日のために知識だけは無駄に溜め込んでおいたのだよ。もし君が困ったら、助太刀しようと思ってな」
「はあ」
助太刀ってなんだ助太刀って。もしや最初からそこまで考えていたのか? 正しくアヤマチをおかせるように。俺との行為で身体が悲鳴をあげないように。
あたまのなかで思考に耽っていた俺を差し置いて、野原はつづける。
「巷ではスローセックス、ポリネシアンセックスなんてものもあるそうだよ……でも、君には必要なかったみたいだ」
やり方は異なるが、俺の愛撫はスローセックスに似ている、と野原は言う。スローセックスもまた、挿入するまでに長い時間をかけてお互いの肌にふれあい互いを高めあう行為だ。
いまの自分たちはまさに、手探り。
焦らず、丁寧に、やさしく、時間をかけて。互いの身体と語り合うように。
「口づけと執拗な胸への愛撫だけで、僕をその気にさせるんだもの……」
そして彼女は、恥ずかしそうに俺に告げたのだ。
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「な」
「そうしたら、嫁入もぜんぶ脱ごう。ハダカになってさ……もっともっと、ぎゅっ、ってしよ?」
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「自分からパンツを脱ぐな! 俺に脱がさせろっ!」
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