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彼女、の、墓参り
しおりを挟む日曜日。
外出届けを提出して、楓と東海道線に。
「こないだ横浜まで行ったってのに」
「少し遠いの。遠くて近い場所」
「セリカ、どこに行くつもり?」
不審そうな楓の声。そりゃそうだろう、あたしはどこに行くとまだ彼女に言っていないのだから。
「小田原で乗り換えるから」
天気は晴れ。車窓に映るのは青々とした緑の風景。
気づけば小田原。
電車を降りて、乗換の為に改札を抜ける。
初夏独特の香りがベイビィブルーの空の下で漂っている。
発車ベルを待つ小田急線。
爽やかな風と共にあたしと楓、乗り込む。
あたしたちを待っていたかのように駅員が赤い旗を掲げる。
プシュウという音と共にゆっくりと扉が閉まる。これによって出発の準備が整う。
日曜の朝の各駅停車は思ったほど混んではいない。
学校が休みの筈なのになぜか制服姿の女子高生。
赤ん坊を抱いた若い母親と父親。
杖を器用に使って行動しているお爺さん。
見ているだけで眠たくなってしまう退屈な日常の風景。
「これからお墓参りに行くの」
突然の話題転換に、楓は戸惑いつつもついてくる。
「誰の?」
混乱を増すような言葉をあたしは発していた。多分、あたしが一番言いたかった、その言葉を……
「彼女の」
荒涼とした山の木々に囲まれている小さな墓所。
彼女には似ても似つかぬ場所。
咲きおえた花水木の花弁をカサカサという音を鳴らしながら、墓地と呼ぶにはあまりにも小さすぎるこの場所へ向かう。
「結構険しくない?」
あまり汗をかかない楓が珍しく額に水滴を覗かせている。かくいうあたしもだらだらと汗を流して花水木の残骸を踏みつづける。罪も汚れも知らない白や薄桃色の花弁が泥に塗れて茶色に変わる。
あと数週間すれば梅雨が始まる。そしたらこの花弁はどこへ行くのだろう?
無駄なことを考えながら、重たい足取りで彼女の元へ。
辿り着くまでの間はまるで囚人に与えられる猶予期間みたいだ。彼女に会いたいようなそうでないような……複雑な気持ちを抱いたままでいられるから。
片手に飛燕草という燕が翼を広げている形の花とピンクの霞草をアレンジした花束を持って、あたしは墓標の並ぶ砂利道へ入る。
温かい陽射しの所為で、ひんやりしている墓所の空気もどこか柔らかい。
「あった」
存在を証明している唯一の白い墓石。両親が立てたであろう真新しい卒塔婆。
「……首堂茉莉花?」
「彼女」
不思議がる楓を余所に、あたしは水汲み場へ木製の桶を持って出向く。
「セリカ、誰よ」
干からびた銀製の花瓶にへばりついた名前もわからないドライフラワーのような花を丁寧に剥がしながら、楓が尚も尋ねる。
冷たい水で白い墓石を磨く。綺麗な彼女があたしは好きだから。
キュキュッ。
「ねぇ、この花、一体いつ生けたの?」
腐っていなくてよかった。藁みたいになった花を楓が摘む。
「多分、三月の彼岸だよ」
両親は毎年彼女の墓参りをする。
それしかもう生きていく理由がないみたいに、時間になると鳴りだす目覚まし時計のように墓参りをするのだ。
あたしは目覚まし時計になれなかった。
何故だろう?
キュキュキュキュキュ。
陽光が白い墓石を照らす。その光りは天に召されているのだろうか?
「あれ?」
楓が墓石の後ろに刻まれた文字を見つけたようだ。
「……ちょっと、セリカ!」
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