春嵐に黄金の花咲く

ささゆき細雪

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それぞれの笑顔はなひらくとき

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 蒲生忠三郎教秀ことのちの氏郷はその後、冬姫以外の妻を迎えることがけしてなかった。そして晩年になってから思い出したようにキリスト教の洗礼を受けた。
 そのときつけられた彼の洗礼名は、奇しくも、彼の初恋の少女が選んだ男と同じ、獅子という意味をもつ……レオンという。
 彼が洗礼を受けた際、そこには黒い洋装の修道女がいた。彼女は零れでる黄金色の髪を隠し、終始口を噤んだままだったが、レウアンと呼ばれた黒髪の師父の隣で微笑んでいた。
 懐かしい碧い瞳を持った聖女は蒲生夫妻の前でしらばっくれていたが、冬姫は夫に黙って、大切に預かっていた赤い沓を黄金色の髪の女へ返したという。



   + + +



 冬の寒さにもめげることなく太陽に顔を向けている黄金色の長春花が咲く山道を下り、ゆっくりと浜辺へ近づく。
 すでに残党狩りの姿はない。
 自殺は罪であるという神の教えから自害に踏み切れないまま生き延びてしまった武弘は行く当てもないまま、穏やかな紺碧の海へと足を向けていた。
 自分の半神であった少女が持つ、瞳の色が、恋しくて。

 遺骸が散らばったままの砂浜にも、彼女のような冬知らずの花が咲いているのだろうか。くすんだ黄金色のひかりが視界に届く。いやあれは花ではない――人間だ!


「ハンナ?」


 足早に坂道を駆け下りて、葡萄牙語で信じられないと声をあげていた。その声に、ざんばらの黄金色のあたまが反応する。生きている?
 武弘は砂から顔をあげた少女のもとへ急ぐ。
 そしてずっと夢見ていた名前を唇に乗せる。

 視線が絡み合う。
 薄墨色の瞳に映る、碧の澄み切った双眸。


「たけひろなの……?」


 驚きに目を見開いた少女の顔。
 奇跡が起きた瞬間だった。


「――神よ、感謝します」


 どちらからともなく、言の葉が紡がれる。
 春の嵐のように姿を消した少女は、すべてを失った武弘のもとで笑顔を咲かす。
 そして彼の腕のなかへと瞳を潤ませながら、一目散に飛び込んできたのだ――……





     “Her name is Calendula”――fin.
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