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3.アリシア
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本日3度目の起床。あっちの朝と転生時と今である。
さすがに驚くのに慣れてきたのか、星乃有結は見慣れない部屋で目覚めたとは思えないほど冷静だった。眠りが強制的だったためか、寝る前のことも鮮明に思い出せる。
目覚めたのは、約20帖ほどのログハウスで、木の香りが新築を思わせる。見える範囲に家具はなく、昨日引っ越しました言われても驚かないほど簡素だった。
(にしても...。)
後ろで聞こえる鼾の主に目を向ける。
(女の子が床で男がベッドとは...扱いが雑にも程がある...。)
唯一の家具のベッドの横に、有結は寝かせられていた。そのせいか腰が痛く、頭だってヒリヒリしている。彼女が言うには、こういうのは女の子がフカフカのベッドで寝ているのが普通らしかった。
だがその思いは、窓から入り込んだ夕日によってすぐにかき消される。橙色の光で、影がくっきりと浮かび上がる。それに男の寝顔が相まって、
「平和だな...。」
有結にそう思わせた。
「なーにが平和だ。俺の人生の中でも2番目くらいにピンチだっつーの。」
起きてたんですか!と呟きを聞かれていた恥ずかしさに任せて、つい怒鳴る。そんな有結を無視して、男は大きな口を開けてあくびをかます。
「ていうかピンチってどういうことですか?はっ、まさか借金取りに追われてるとか...?」
有結は1文無しシーンを思い出し、顔が青ざめる。それにつられて、なぜか男の顔も青ざめた。
「いや、もう返済したわ!びっくりさせるな!今はお前の存在がピンチなんだよ。」
やっぱり借金はあったみたいだ。
存在がピンチという一般人には理解できない言葉に、有結は頭にはてなマークを浮かべる。すると男が面倒くさそうに頭を掻き、あのなぁ、と話し始めた。
「...要するに、異世界人を転生させるのはすっごい大掛かりな魔法で、その魔法中に何かしらのアクシデントがあり、私が草原で転生してしまった...と?」
「そうだ。本当は転生の魔法で使われた魔方陣上にお前が現れるはずなんだよ。お前の世界とのパイプがズレたんだろうな。」
有結には魔法の仕組みはよく分からず、へぇ...とへんてこな声を漏らす。
「まぁそれはいい。だけどな、重要なのはここからだぞ。よく聞け、ピンチなのはお前がその魔法を使った奴らに追われてるからだ。これを見ろ。」
どこから取り出したのか、有結の顔面に紙が突きつけられる。もう少し丁寧に扱ってほしいものだと男を少し睨み、顔に張り付いた紙を剥がす。
報告
アーベル自衛軍 本部
本日、勇者の復活を目標に、転生者召喚の儀を行った。しかし、何らかの不具合により転生者が魔法陣上に現れず、どこか他の地に転生したと思われる。
そこで、国民には転生者の捜索を頼みたい。我々アーベル国民と違い、転生者は漆黒の髪色をしているため、すぐ見分けがつくだろう。保護してくれた者には、報奨金として金貨50枚を約束する。
視界にうつる黒髪に、冷や汗が流れる。異世界人の有結には金貨というのがどれほどの価値なのか分からなかったが、"金"が安価な訳が無い。今までのゲームの経験がそう告げている。
(なんかこれ、私が脱獄者みたいだし...。)
読んでいる間、あまりの情報量に息をするのを忘れていたらしく、有結は胸いっぱいに息を吸い込む。そしてゆっくり吐いた。
良いイメージではない。保護と書いてあるが、捕虜と感じられる文面だ。大金をめがけ、たくさんの人々が自分を探していると思うと、ゾッとする。
「...でもこれって、1文無しのあなたにとっては、美味しい話なんじゃ...。私、ここにいますよ?」
有結の発言に目を丸くした男は、そのままひっくり返り、笑い転げる。お腹に手を当てて、自分の腹筋を落ち着かせようと必死だ。
しかし、誰だっていきなり笑われたら腹が立つ。
「ちょっと!私真剣なんですけど!」
「ヒヒヒ、わりぃわりぃ。そこは普通俺を疑って怯えるところだろ?なんで自分を差し出してんだよ。あーお前変なやつだな。」
有結は変なやつと言われたことに尚更腹を立てる反面、確かに一理あると恥ずかしさを覚えた。
「...それにな、俺はあいつらが嫌いなんだよ。詳しくは言わないが、あいつらは人を物同然に扱う。そんなのに俺は手を貸したくない。」
過去に何かあったのだろうか。男は俯いて何かに思いを巡らせているようだ。気まずい雰囲気だ。有結は少し考えて、暗くなった空気を和ませようと自己紹介をする。
「えーっと、私、星乃有結って言います。17歳、日本人です!」
狙われていると言っているのに、堂々と異世界人を名乗る有結に、男は頭を悩ます。なんてお調子者なんだろうと。しかし、諦めたのか自分も名を告げた。
「俺はフィル。愛称だが、本名は長いからフィルでいい。お前の呼び方は...アユでいいのか?」
「はい!よろしくお願いします!フィルとか、かっこいいですね。」
フィルはこっちではよくいる名前だぞと付け加え、またベッドに寝転ぶ。と思えば何かを思い出したようにまた起き上がった。
「外でお前の名前使うのはやめろ。かなり目立つ。こっちでの偽名を考えておけ。」
「偽名...。」
(なんかファンタジーっぽいのがいいけど...。有結...有結...)
有結は自分の名前を文字ってみるが、中々しっくりくるものがなく、眉間にシワがよる。これから使っていく名前と思うと、そう簡単に決められない。
しかし、名案というのは突然降りてくるものだ。
「...アリシア...。」
なんだか清楚っぽいイメージもあるし、女性らしいし、"有"を"アリ"と置き換えて、親近感も湧く。
(これだ。これ以外考えられない!)
大袈裟だが、彼女は本当にそう思ったのだ。
「いいんじゃねーの。」
そう呟いてそっぽを向くフィルに、有結...アリシアは少し顔が緩む。普段褒め慣れていないであろうその素振りに、少し可笑しくなった。
フィルとアリシア。これからの物語の主人公である。
さすがに驚くのに慣れてきたのか、星乃有結は見慣れない部屋で目覚めたとは思えないほど冷静だった。眠りが強制的だったためか、寝る前のことも鮮明に思い出せる。
目覚めたのは、約20帖ほどのログハウスで、木の香りが新築を思わせる。見える範囲に家具はなく、昨日引っ越しました言われても驚かないほど簡素だった。
(にしても...。)
後ろで聞こえる鼾の主に目を向ける。
(女の子が床で男がベッドとは...扱いが雑にも程がある...。)
唯一の家具のベッドの横に、有結は寝かせられていた。そのせいか腰が痛く、頭だってヒリヒリしている。彼女が言うには、こういうのは女の子がフカフカのベッドで寝ているのが普通らしかった。
だがその思いは、窓から入り込んだ夕日によってすぐにかき消される。橙色の光で、影がくっきりと浮かび上がる。それに男の寝顔が相まって、
「平和だな...。」
有結にそう思わせた。
「なーにが平和だ。俺の人生の中でも2番目くらいにピンチだっつーの。」
起きてたんですか!と呟きを聞かれていた恥ずかしさに任せて、つい怒鳴る。そんな有結を無視して、男は大きな口を開けてあくびをかます。
「ていうかピンチってどういうことですか?はっ、まさか借金取りに追われてるとか...?」
有結は1文無しシーンを思い出し、顔が青ざめる。それにつられて、なぜか男の顔も青ざめた。
「いや、もう返済したわ!びっくりさせるな!今はお前の存在がピンチなんだよ。」
やっぱり借金はあったみたいだ。
存在がピンチという一般人には理解できない言葉に、有結は頭にはてなマークを浮かべる。すると男が面倒くさそうに頭を掻き、あのなぁ、と話し始めた。
「...要するに、異世界人を転生させるのはすっごい大掛かりな魔法で、その魔法中に何かしらのアクシデントがあり、私が草原で転生してしまった...と?」
「そうだ。本当は転生の魔法で使われた魔方陣上にお前が現れるはずなんだよ。お前の世界とのパイプがズレたんだろうな。」
有結には魔法の仕組みはよく分からず、へぇ...とへんてこな声を漏らす。
「まぁそれはいい。だけどな、重要なのはここからだぞ。よく聞け、ピンチなのはお前がその魔法を使った奴らに追われてるからだ。これを見ろ。」
どこから取り出したのか、有結の顔面に紙が突きつけられる。もう少し丁寧に扱ってほしいものだと男を少し睨み、顔に張り付いた紙を剥がす。
報告
アーベル自衛軍 本部
本日、勇者の復活を目標に、転生者召喚の儀を行った。しかし、何らかの不具合により転生者が魔法陣上に現れず、どこか他の地に転生したと思われる。
そこで、国民には転生者の捜索を頼みたい。我々アーベル国民と違い、転生者は漆黒の髪色をしているため、すぐ見分けがつくだろう。保護してくれた者には、報奨金として金貨50枚を約束する。
視界にうつる黒髪に、冷や汗が流れる。異世界人の有結には金貨というのがどれほどの価値なのか分からなかったが、"金"が安価な訳が無い。今までのゲームの経験がそう告げている。
(なんかこれ、私が脱獄者みたいだし...。)
読んでいる間、あまりの情報量に息をするのを忘れていたらしく、有結は胸いっぱいに息を吸い込む。そしてゆっくり吐いた。
良いイメージではない。保護と書いてあるが、捕虜と感じられる文面だ。大金をめがけ、たくさんの人々が自分を探していると思うと、ゾッとする。
「...でもこれって、1文無しのあなたにとっては、美味しい話なんじゃ...。私、ここにいますよ?」
有結の発言に目を丸くした男は、そのままひっくり返り、笑い転げる。お腹に手を当てて、自分の腹筋を落ち着かせようと必死だ。
しかし、誰だっていきなり笑われたら腹が立つ。
「ちょっと!私真剣なんですけど!」
「ヒヒヒ、わりぃわりぃ。そこは普通俺を疑って怯えるところだろ?なんで自分を差し出してんだよ。あーお前変なやつだな。」
有結は変なやつと言われたことに尚更腹を立てる反面、確かに一理あると恥ずかしさを覚えた。
「...それにな、俺はあいつらが嫌いなんだよ。詳しくは言わないが、あいつらは人を物同然に扱う。そんなのに俺は手を貸したくない。」
過去に何かあったのだろうか。男は俯いて何かに思いを巡らせているようだ。気まずい雰囲気だ。有結は少し考えて、暗くなった空気を和ませようと自己紹介をする。
「えーっと、私、星乃有結って言います。17歳、日本人です!」
狙われていると言っているのに、堂々と異世界人を名乗る有結に、男は頭を悩ます。なんてお調子者なんだろうと。しかし、諦めたのか自分も名を告げた。
「俺はフィル。愛称だが、本名は長いからフィルでいい。お前の呼び方は...アユでいいのか?」
「はい!よろしくお願いします!フィルとか、かっこいいですね。」
フィルはこっちではよくいる名前だぞと付け加え、またベッドに寝転ぶ。と思えば何かを思い出したようにまた起き上がった。
「外でお前の名前使うのはやめろ。かなり目立つ。こっちでの偽名を考えておけ。」
「偽名...。」
(なんかファンタジーっぽいのがいいけど...。有結...有結...)
有結は自分の名前を文字ってみるが、中々しっくりくるものがなく、眉間にシワがよる。これから使っていく名前と思うと、そう簡単に決められない。
しかし、名案というのは突然降りてくるものだ。
「...アリシア...。」
なんだか清楚っぽいイメージもあるし、女性らしいし、"有"を"アリ"と置き換えて、親近感も湧く。
(これだ。これ以外考えられない!)
大袈裟だが、彼女は本当にそう思ったのだ。
「いいんじゃねーの。」
そう呟いてそっぽを向くフィルに、有結...アリシアは少し顔が緩む。普段褒め慣れていないであろうその素振りに、少し可笑しくなった。
フィルとアリシア。これからの物語の主人公である。
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