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2.異世界
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「ぐあっ!寝ちゃってた!!」
有結は伏せていた頭を勢いよく上げた。まだ寝足りないはずの瞼が、焦燥感に襲われて無理やり開かれる。と同時に、視界全体に緑色が映りこんできた。
...しかし、寝起きの脳というのは本当に鈍い。
(何これ、画面バグった?)
寝起きの脳は、PCの画面がバグって緑色になったものと判断したようだ。有結は咄嗟にマウスに手をかけようとする。がしかし、そこにマウスはない。
マウスを探す動作とともに、徐々に脳が目を覚ます。
「な、なん、こ、ここどこ?!」
緑色の正体は、無限に広がった草原。
見渡す限り何も無く、まさしく"無限"と言うのが相応しかった。そしてそこに1人、ぽつんと座っているのが星乃有結である。
言いたいことが沢山あるのか、独り言ですら言葉が詰っている。
(え、本当にどこ...?なんで?会社は?)
周りに何も見当たらず、何も分からないという恐怖が襲ってくる。草原という見慣れないものが尚更、彼女を追い詰めていた。まだ、知らないマンションの一室の方が冷静だったかもしれない。
見える範囲全てを見尽くし、もっと辺りを確認したい本能で、不安で震える足を支えながら立ち上がる。同時に、ある影が視界に映りこんだ。
「...?!ヒッ、?!」
咄嗟に、見てしまったものと逆の方向に後ずさる。
狼のような見た目だが、彼女が知っている狼より2回りほど大きく、牙が顎くらいまで伸びている獣と目が合ってしまったためだ。
"この世のものでは無い。"
すぐにそう悟った。
しかしあの狼を目にした以上、それは"そんなこと"に過ぎず、生存本能の方が優先される。
(殺される...っ。)
脚だけでなく全身が震えだし、呼吸が荒くなっているのにも気づかないほど、気が動転する。
(立て!立たないと死ぬ!!
でもどうすれば?!走っても追いつかれるだけ!
むしろ、走った方が追われるかもしれない!
でもここにただっているなんてこと…!)
頭の中で自問自答を繰り返すが、答えを見つけることはできない。それもそのはずだ。一般人であれば、命を狙われたことなんてないし、ましてや獣に対処する方法なんて知るはずもない。
...どうしようもない。
「獄炎」
異質な言葉のすぐ後に、アオーンという狼らしい声が背後から聞こえる。
(倒された...?!)
そう即断するに見合う鳴き声だった。一気に体の力抜け、ヘナヘナとその場に倒れ込む。助かった、その一心だった。
異質な言葉のことなど、後回しになるほどに。
「あのー、大丈夫?」
「はひっ、大丈夫です!!」
有結は、背後から聞こえる声に咄嗟に立ち上がった。
人がいることなど分かっていたはずなのに、死という恐怖から解放された喜びで一瞬にして忘れ去っていたのだ。そして、ロボットのようにギギギと後ろを振り返る。まだ狼を見た恐怖が筋肉を硬くしている。
(うわ、イケメン...。)
日本人を見慣れた有結には刺激が強かった。
太陽の光を浴びて輝く、結ってある長い白髪に、コバルトブルーの大きな瞳。...にボロボロの服。
(...ん??)
もう1度顔と服装と確認する。イケメン。ボロボロ。イケメン。ボロボロ。イケメン...
美しい顔立ちとボロボロの服のあまりの差に脳が追いつかない。
「お前今失礼なこと考えてるだろ。」
「はっ、ソンナコトハ!」
考えています。と言わんばかりの棒読みが炸裂する。綺麗な瞳でジロリと疑われ、照れと罪悪感で複雑な気持ちに襲われる。
「まーいいや。じゃ、俺はこれで。」
「はい!本当にありがとうございました!」
社会人として感謝の気持ちを伝えるのは常識だ。しかも命の恩人である。心からの笑顔を見せられた。
死からも逃れたし、家に帰ってゆっくりしようと、男が歩き出した反対の方向に一歩踏み出す。
つもりだった。
「あ"ー!!!!」
「ぉわっ?!なんだよ!!」
男の方を勢いよく振り返り、しゃがみ、両膝をつき、両手をつき、頭をつける。
「助けてください!!!」
完璧な土下座である。
帰りたいなんてセキスイハ○スのCMみたいなお気楽な気持ちでいられた自分を心底尊敬する。たぶん自分は根っからの馬鹿なんだと、有結は泣きたい気持ちに襲われる。ここには帰る家などないのだから。
10秒ほど頭を下げた後、何も言われなかったため、恐る恐る頭を上げる。
(...あれ?)
だがそこには、誰の姿もなく、もう少し頭を上げると、さっきの男がコソコソ歩いていくのが目に入った。
「え、ちょっと!待ってください!」
「ゲッ、面倒くさそうだから逃げたのに!!」
有結が立ち上がったのをみると、男はスピードを上げて走り出した。咄嗟に有結も走り出す。だがそれは、助けてほしいと言うより、面倒くさそうと言われたのが少しムカついたからだ。
(逃がさん...っ!)
無限の草原は本当に無限で、いくら走っても終わりはないように思えた。しかも、男が思っていたよりだいぶ遅い。
(というか、なんか、止まってない?)
「ギブ!ギブギブ!これ以上走れねーよ!!」
男は両膝に手を置き、まるで何十キロも走ったかのような様子で息を整えている。まだ20秒も走っていないはずなのだが。
有結は命の恩人であろうと、その隙を見逃さなかった。
「フッフ、捕まえましたよ。」
「あーもーなんの用だよ!金ならないぞ!1文無し!ほーれ!」
追いついた優越感に浸っていると、ボロボロのズボンのポケットを裏返し、何も入っておりませんアピールをされる。
(なんかいちいちムカつくなぁ...。)
「いや、お金はいらないんですけど...。ちょっと教えてほしくて。」
「んぁ?金じゃないならいいぞ。俺はこれでも、知識はある方だと思っている!!」
フフンという擬音語が似合うドヤ顔をされる。お金がないのを棚に上げているのがみっともない。
しかし助かるのも事実だ。何より有結は、自分のこと以外何もわからない状態だ。地名だけでも十分助かるのだ。
「あの、ここ、どこなんでしょう?いつの間にかここに座っていて...。帰り方も分からなくて。」
...有結は心では分かっていた。帰ることなんてできないことを。異質な言葉といい、狼といい、彼女の知っている世界ではない。だがそれは、すぐに認められるほど軽いものではない。有り得ない...そう思っていたものだからだ。
だからこそ、他人から言ってほしかった。確信を持ちたかった。続く言葉に少し不安はあるが、有結には期待の方が大きかった。
「はぁ?ここはアーベル王国の北にある草原だよ。知らねーでこんなとこ来たのか?」
呆れて口をへの字にする男を目の端に置いき、アーベル王国というまたもや異質な言葉が有結の脳は興奮していた。
点が線で繋がったように、密かに期待していた事実が足から全身を震わせる。さっきとは違うドキドキが、喉元から出たがっている。
「お、おい大丈夫かよ。鼻息荒いぞ。」
「やっ...」
「え?」
「やった…っっ!!!これ!夢じゃないよね!異世界なんだ…!!」
男に同意を求め、輝く目を向ける。大声が出ると思っていたが、本当に嬉しい時って言葉を飲み込むものなのだと知った。
有結の言動に口をぽっかり開けた男に。しかしそれは一瞬で、喜ぶ有結に対し、男は鋭い目つきになった。
「お前もしかして...転生者か?」
「...!やっぱり!そういうのあるんだ…!そうだと思います!」
「...すまん。ちょっと眠っとけ。」
「え?」
有結の視界が突き出された手の平で埋まる。理由を考える間もなく、有結は膝から崩れ落ちた。
「あーぁ、こりゃ面倒なことに巻き込まれたわ。」
そう呟いた男は有結をひょいと担ぎ、また草原を歩き始めた。
有結は伏せていた頭を勢いよく上げた。まだ寝足りないはずの瞼が、焦燥感に襲われて無理やり開かれる。と同時に、視界全体に緑色が映りこんできた。
...しかし、寝起きの脳というのは本当に鈍い。
(何これ、画面バグった?)
寝起きの脳は、PCの画面がバグって緑色になったものと判断したようだ。有結は咄嗟にマウスに手をかけようとする。がしかし、そこにマウスはない。
マウスを探す動作とともに、徐々に脳が目を覚ます。
「な、なん、こ、ここどこ?!」
緑色の正体は、無限に広がった草原。
見渡す限り何も無く、まさしく"無限"と言うのが相応しかった。そしてそこに1人、ぽつんと座っているのが星乃有結である。
言いたいことが沢山あるのか、独り言ですら言葉が詰っている。
(え、本当にどこ...?なんで?会社は?)
周りに何も見当たらず、何も分からないという恐怖が襲ってくる。草原という見慣れないものが尚更、彼女を追い詰めていた。まだ、知らないマンションの一室の方が冷静だったかもしれない。
見える範囲全てを見尽くし、もっと辺りを確認したい本能で、不安で震える足を支えながら立ち上がる。同時に、ある影が視界に映りこんだ。
「...?!ヒッ、?!」
咄嗟に、見てしまったものと逆の方向に後ずさる。
狼のような見た目だが、彼女が知っている狼より2回りほど大きく、牙が顎くらいまで伸びている獣と目が合ってしまったためだ。
"この世のものでは無い。"
すぐにそう悟った。
しかしあの狼を目にした以上、それは"そんなこと"に過ぎず、生存本能の方が優先される。
(殺される...っ。)
脚だけでなく全身が震えだし、呼吸が荒くなっているのにも気づかないほど、気が動転する。
(立て!立たないと死ぬ!!
でもどうすれば?!走っても追いつかれるだけ!
むしろ、走った方が追われるかもしれない!
でもここにただっているなんてこと…!)
頭の中で自問自答を繰り返すが、答えを見つけることはできない。それもそのはずだ。一般人であれば、命を狙われたことなんてないし、ましてや獣に対処する方法なんて知るはずもない。
...どうしようもない。
「獄炎」
異質な言葉のすぐ後に、アオーンという狼らしい声が背後から聞こえる。
(倒された...?!)
そう即断するに見合う鳴き声だった。一気に体の力抜け、ヘナヘナとその場に倒れ込む。助かった、その一心だった。
異質な言葉のことなど、後回しになるほどに。
「あのー、大丈夫?」
「はひっ、大丈夫です!!」
有結は、背後から聞こえる声に咄嗟に立ち上がった。
人がいることなど分かっていたはずなのに、死という恐怖から解放された喜びで一瞬にして忘れ去っていたのだ。そして、ロボットのようにギギギと後ろを振り返る。まだ狼を見た恐怖が筋肉を硬くしている。
(うわ、イケメン...。)
日本人を見慣れた有結には刺激が強かった。
太陽の光を浴びて輝く、結ってある長い白髪に、コバルトブルーの大きな瞳。...にボロボロの服。
(...ん??)
もう1度顔と服装と確認する。イケメン。ボロボロ。イケメン。ボロボロ。イケメン...
美しい顔立ちとボロボロの服のあまりの差に脳が追いつかない。
「お前今失礼なこと考えてるだろ。」
「はっ、ソンナコトハ!」
考えています。と言わんばかりの棒読みが炸裂する。綺麗な瞳でジロリと疑われ、照れと罪悪感で複雑な気持ちに襲われる。
「まーいいや。じゃ、俺はこれで。」
「はい!本当にありがとうございました!」
社会人として感謝の気持ちを伝えるのは常識だ。しかも命の恩人である。心からの笑顔を見せられた。
死からも逃れたし、家に帰ってゆっくりしようと、男が歩き出した反対の方向に一歩踏み出す。
つもりだった。
「あ"ー!!!!」
「ぉわっ?!なんだよ!!」
男の方を勢いよく振り返り、しゃがみ、両膝をつき、両手をつき、頭をつける。
「助けてください!!!」
完璧な土下座である。
帰りたいなんてセキスイハ○スのCMみたいなお気楽な気持ちでいられた自分を心底尊敬する。たぶん自分は根っからの馬鹿なんだと、有結は泣きたい気持ちに襲われる。ここには帰る家などないのだから。
10秒ほど頭を下げた後、何も言われなかったため、恐る恐る頭を上げる。
(...あれ?)
だがそこには、誰の姿もなく、もう少し頭を上げると、さっきの男がコソコソ歩いていくのが目に入った。
「え、ちょっと!待ってください!」
「ゲッ、面倒くさそうだから逃げたのに!!」
有結が立ち上がったのをみると、男はスピードを上げて走り出した。咄嗟に有結も走り出す。だがそれは、助けてほしいと言うより、面倒くさそうと言われたのが少しムカついたからだ。
(逃がさん...っ!)
無限の草原は本当に無限で、いくら走っても終わりはないように思えた。しかも、男が思っていたよりだいぶ遅い。
(というか、なんか、止まってない?)
「ギブ!ギブギブ!これ以上走れねーよ!!」
男は両膝に手を置き、まるで何十キロも走ったかのような様子で息を整えている。まだ20秒も走っていないはずなのだが。
有結は命の恩人であろうと、その隙を見逃さなかった。
「フッフ、捕まえましたよ。」
「あーもーなんの用だよ!金ならないぞ!1文無し!ほーれ!」
追いついた優越感に浸っていると、ボロボロのズボンのポケットを裏返し、何も入っておりませんアピールをされる。
(なんかいちいちムカつくなぁ...。)
「いや、お金はいらないんですけど...。ちょっと教えてほしくて。」
「んぁ?金じゃないならいいぞ。俺はこれでも、知識はある方だと思っている!!」
フフンという擬音語が似合うドヤ顔をされる。お金がないのを棚に上げているのがみっともない。
しかし助かるのも事実だ。何より有結は、自分のこと以外何もわからない状態だ。地名だけでも十分助かるのだ。
「あの、ここ、どこなんでしょう?いつの間にかここに座っていて...。帰り方も分からなくて。」
...有結は心では分かっていた。帰ることなんてできないことを。異質な言葉といい、狼といい、彼女の知っている世界ではない。だがそれは、すぐに認められるほど軽いものではない。有り得ない...そう思っていたものだからだ。
だからこそ、他人から言ってほしかった。確信を持ちたかった。続く言葉に少し不安はあるが、有結には期待の方が大きかった。
「はぁ?ここはアーベル王国の北にある草原だよ。知らねーでこんなとこ来たのか?」
呆れて口をへの字にする男を目の端に置いき、アーベル王国というまたもや異質な言葉が有結の脳は興奮していた。
点が線で繋がったように、密かに期待していた事実が足から全身を震わせる。さっきとは違うドキドキが、喉元から出たがっている。
「お、おい大丈夫かよ。鼻息荒いぞ。」
「やっ...」
「え?」
「やった…っっ!!!これ!夢じゃないよね!異世界なんだ…!!」
男に同意を求め、輝く目を向ける。大声が出ると思っていたが、本当に嬉しい時って言葉を飲み込むものなのだと知った。
有結の言動に口をぽっかり開けた男に。しかしそれは一瞬で、喜ぶ有結に対し、男は鋭い目つきになった。
「お前もしかして...転生者か?」
「...!やっぱり!そういうのあるんだ…!そうだと思います!」
「...すまん。ちょっと眠っとけ。」
「え?」
有結の視界が突き出された手の平で埋まる。理由を考える間もなく、有結は膝から崩れ落ちた。
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