婚約破棄された王太子妃候補ですが、私がいなければこの国は三年で滅びるそうです。

カブトム誌

文字の大きさ
18 / 34

18

しおりを挟む
 王都の朝は、静かだった。

 結界の光が消えた空は、驚くほど澄んでいる。
 人々は恐る恐る外に出て、空を見上げていた。

「……本当に、何も起きていない」
「息が……楽だ」

 ざわめきの中に、戸惑いと安堵が混じる。

 だが、王城と魔導院では、別の緊張が走っていた。

「新結界の展開を確認」
「第一層、起動準備完了」

 これは、再建ではない。
 “再設計”だ。

 王都から遠く離れた辺境ルーンフェルト。

 結界制御塔の最上階で、エリシアは静かに立っていた。
 眼下には、複雑に重なり合う魔導式。

「始めます」

 彼女の声は、落ち着いている。

「今度は、閉じません」
「世界と、繋ぎます」

 カイルが息を呑む。

「結界って……遮断するものじゃ?」

「それは、旧式の考え方です」

 エリシアは、魔導盤に手をかざした。

「脅威を拒絶するから、歪みが生まれる」
「なら――拒絶しなければいい」

 指先が、軽く動く。

 その瞬間。

 王都の地下深く、目に見えない流れが変わった。

 魔力が“溜まる”のではなく、“巡る”。

「新結界は、壁ではありません」
「水路です」

 世界に満ちる魔力を、都市へ。
 都市で生まれる余剰を、再び世界へ。

 循環。

 それは、生き物が呼吸するのと同じ構造だった。

 王都の上空に、淡い光の輪が浮かび上がる。

 だが、それは以前のような圧迫感を伴わない。
 柔らかく、温かい。

「……結界、展開確認」
「魔獣反応……無効化されています」

 管理局の報告に、ざわめきが走る。

「無効化?」
「排除じゃなくて……?」

 老魔術師が、震える声で呟いた。

「……理解された、のか」
「魔獣と、敵対しない仕組みを……」

 新結界は、魔獣を“弾かない”。

 魔獣が持つ過剰魔力を、自然に中和する。
 結果として、侵入理由そのものが消えるのだ。

「なんて……発想だ」
「今までの結界理論を、全部否定している……」

 王太子レオンハルトは、光の輪を見つめていた。

「いや」
「否定ではないな」

 彼は、静かに言った。

「……ようやく、理解しただけだ」

 守るとは、閉じ込めることではない。
 共に、生きること。

 王都の大聖堂。

 聖女リリアは、窓辺に立ち、その光を見ていた。

「……綺麗」

 もう、胸を締め付ける痛みはない。
 魔力を吸い上げられる感覚も。

「これが……本当の守り……」

 彼女は、知らず微笑んでいた。

 誰かの犠牲の上に成り立つ奇跡ではない。
 仕組みとして、続いていく未来。

 辺境の塔で、エリシアは深く息を吐いた。

「……成功ですね」

「はい」
 カイルが、感情を隠しきれずに答える。
「歴史が……変わりました」

「いいえ」

 エリシアは、首を振る。

「やっと、進み始めただけです」

 この結界は、彼女一人のものではない。
 引き継がれ、育てられ、改良されていく。

 だからこそ。

「私は――管理者にはなりません」

「え?」

「“仕組み”に、個人は要らない」

 それが、彼女の答えだった。

 王都に、新しい朝が広がる。

 恐怖ではなく、信頼で支えられた守り。
 搾取ではなく、循環で成り立つ世界。

 人々はまだ知らない。

 この日を境に、
 王国が“守られる国”から
 “世界と共に生きる国”へ変わったことを。

 そして――

 その変革の中心にいたのが、
 かつて婚約を破棄され、追い出された令嬢だったことを。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

王妃ですが都からの追放を言い渡されたので、田舎暮らしを楽しみます!

藤野ひま
ファンタジー
 わたくし王妃の身でありながら、夫から婚姻破棄と王都から出て行く事を言い渡されました。  初めての田舎暮らしは……楽しいのですが?!  夫や、かの女性は王城でお元気かしら?   わたくしは元気にしておりますので、ご心配御無用です!  〔『仮面の王と風吹く国の姫君』の続編となります。できるだけこちらだけでわかるようにしています。が、気になったら前作にも立ち寄っていただけると嬉しいです〕〔ただ、ネタバレ的要素がありますのでご了承ください〕

義妹に婚約者を奪われ追放された私。実は国を支えていたと気づいても遅いです。隣国で能力を開花させたので、今さら泣きつかないで。

瀬戸 ゆら
恋愛
「無能な置物はいらん。国外追放だ」 王太子の冷酷な宣告。隣には、私のすべてを奪った義妹の勝ち誇った笑み。 私が寝る間を惜しんで維持してきた国の結界は、私がいなくなった瞬間に崩壊を始めるでしょう。 泥水をすすり、辿り着いた隣国。そこで出会ったのは、冷徹と恐れられる漆黒の皇帝陛下でした。 「これほどの魔導回路を一人で?……君、我が国に来ないか」 捨てられた魔道具師が、隣国で「伝説の聖女」として覚醒する一方で、結界を失い魔物の脅威に晒された母国が泣きついてきますが……。 「今さら戻ってきて?……お断りです。私はここで、世界一幸せになるんですから」

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章をゆっくり更新中です。書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

聖女は神の力を借りて病を治しますので、神の教えに背いた病でいまさら泣きついてきても、私は知りませんから!

甘い秋空
恋愛
神の教えに背いた病が広まり始めている中、私は聖女から外され、婚約も破棄されました。 唯一の理解者である王妃の指示によって、幽閉生活に入りましたが、そこには……

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました

ゆっこ
恋愛
 ――あの日、私は確かに笑われた。 「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」  王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。  その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。  ――婚約破棄。

処理中です...