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開闢の始まり

初任務3

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「へぇ~、色んな種類の依頼がありますねぇ!」

興味深そうにテンニーンが掲示板に顔を近づける。
確かに、素材収集から魔物討伐まで多岐に渡る幅広い依頼がある様だ。

「私もハンターズギルドの存在は知っていたが、こういった依頼書は初めて見る。興味深いな。」

フェイリスも興味津々で、気になったものを手に取って見ている。

そんな中、1人の強面の男がニヤニヤしながら近付いて来た。
普遍的な大剣と大きな皮の盾を持ち、皮の鎧を身につけている。

「おうおう、お嬢ちゃん達。」

声をかけられた。
反射的に、メイとデミドランが侮蔑的な目を向けたが、どうやら気づいていない。

「初仕事なら俺らと来な!そこの丸腰の兄ちゃん達よりも守ってやれるし、色々おしえてやるよ!」

明るく話してはいるが、その表情からは下心が丸見え。
フェイリスは思わず「下衆が...。」と小さく呟いた。

そうこうしている内に、先陣を切られたと思った他の男達も我先にと群がってくる。

「俺んとこ来いよ!」
「俺らの所はレディファーストだぜ!?」
「そんな奴らより、こっちに来るのが正解だ。色々楽しませてやるよ。」
「んだとォ!?」
「やんのか!?」

どうやらちょっとした騒ぎになってしまった様だ。
テンニーンもフェイリスも、こんな事態は初めてでしどろもどろしてしまっている。

「フェイリス、デュランダル貸して。」

静かに、メイが言う。
渡されたデュランダルを、鞘ごとテーブルに叩きつけた。

ドガンッッ


一瞬で静まり返る集会所。
皆の視線の先には、剣の鞘でテーブルを粉砕した少女に集まる。

「パーティー勧誘は結構です。このテーブルの二の舞になりたいのでしたら、どうぞご自由に。」

テーブルを粉砕する事は、大人のハンターであれば容易い。
しかし、この野蛮な行動を取った少女に恐れを成して男達は自分の居場所へと帰って行く。

「ハハッ、あんまりやり過ぎんなよな。」

男達が目を逸らした隙に、粉砕されたテーブルを一瞬で元に戻すデミドラン。
そしてそこに腰掛けた。

「いいのよ、ああいう奴等は。」

鼻息を荒くし、掲示板へと視線を戻したメイは、1枚の依頼書を手に取る。
他のとは違い、紫色の紙に書かれた依頼書。

「みんな、私これがいいと思うな。」

テンニーン、フェイリス、デミドランがそれを覗き込む。

「なるほど、いいですね。」

「私もそう思う。この魔物くらいなら楽に倒せる。」

「あー、まぁ初任務だしな。いいんじゃないか?」

「よしっ!じゃあ決まりね!」

メイ達4人は、その紙を持って受付へ向かった。



受付嬢は目を丸くする。
初心者4人組が持ってきた紫色の依頼書。
それは『レイドミッション』という種類で、大勢のハンター達が参加し、1つの目的の為に共に戦うという任務。
そしてこの依頼は、内容はCランクながら挑戦したハンター達は全員帰って来ず、その度に難易度が上がりAランク扱いになった曰く付きの代物だ。

「だからいいんじゃねーか。」

受付嬢の説明に食ってかかるデミドラン。
そんな説明はハナから依頼書に書いてあると。
それを承知で4人は受けようとしているのだ。

「で、ですが、参加するパーティーは他に居ないし、流石にパーティーバランスも悪すぎますし、新米ハンターを初任務で死地へ送ったとなれば私の立場が.....!」

依頼書の内容は、ブレイク領国・ワン領国・ドレイム王国の北に聳える『岩山丘』。
そこに大量発生したゴブリンの討伐依頼だ。
ゴブリン自体はDランクの魔物であり、狡猾ではあるが攻撃力はほぼ無い。
だが、田畑を荒らすので討伐依頼が良く出るのだ。

受付嬢が断固として断ろうとしていると、メイ達の後から声がかかる。

「その子達の実力は俺が保証する。行かせてやってくれ。」

聞き覚えのある声。
振り向いたそこには、黒い眼帯をした青年が立っていた。
姿形は変わって居ても、メイとデミドランにはひと目でわかる。

「お前は...。」

「メリルっ!!!!」

思わずメイが飛びついた。
この世界で、初めて共に行動し、世話になったハンター。
『宵の三日月』の『大剣使い(バスター)』であるメリルだった。

「ははっ、やっぱりメイちゃんだったな!」

学園都市にメイが来てから、怪我の為に別れも言えなかったメリル。
今は黒い短髪、そして黒いマントを羽織り、黒い鎧に身を包んでいる。
風貌は変わったが、彼が持つ雰囲気は変わらない。

「あ、貴方様は!Aランクハンターのメリル様っ!」

受付嬢が声を上げて驚き、集会所の視線も集まる。

「え、いつの間にAランクに?」

その質問に一瞬顔を曇らせるメリル。
メイとデミドランは、何か嫌な予感を察する。

「『宵の三日月』がそのレイドミッションに参加した時にAランクになったんだ。奇跡的に生き残った1人としてな。」

これにはテンニーンとフェイリスも心を締め付けられた。

「え...。」

メイにはかなりショックが大きかった。
あの楽しげな仲間達、リヒャルドにカンジュにマークス、それに短い間でも姉の様に面倒を見てくれたレヴィ。
みんな戦死したというのだ。

「お姉さん...。私達、絶対その任務受けるよ。」

「俺からも頼むよ。メイちゃんのパーティーならきっと大丈夫だ。」

メイの横で、メリルが頭を下げる。
それには流石に受付嬢も折れた様だ。

「分かりました。特別に許可します。ですが、危なくなったら必ず任務放棄して下さい!必ずです!!!」






幾つかの処理をした後に、依頼書のコピーを貰ってハンターズギルドを後にする。

「ねぇ、メリルも一緒に行かない?」

メイの質問に顔を伏せるメリル。
メリルは前回の任務で数多くのトラウマを負ってしまったのだろう。
眼帯の下は今でもその時の状況を映し出しているに違いない。

「俺はもう彼処へは行けないよ...。」

悲しげに漏らすメリルに見送られ、メイ達4人は依頼先の岩山丘を目指し歩き出した。



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