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開闢の始まり
異変3
しおりを挟むメイが湖に手を翳すと、最高硬度のダマスカス模様のフィルターが水面を覆う。
それは現代社会で鍛造された異種金属を積層させた物では無く、ウーツ鋼という太古の技術により生成された金属である。
これで湖から魔物が量産される事を防ぐ事が出来る。
すると、湖の中心に浮かぶピンク色の球体はブルンと震えた。
そして、肉塊をかき分けるグロテスクな音と共にカモノハシの様な嘴を持つ細い頭部が現れる。
その頭部にある巨大な両眼はグルリと非対称な動きで周りを確認し、大きく嘴を開いた。
『ピギェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッッッッ!!!!!!!』
思わず5人は耳を塞いだ。
国中に響いたかと思われる程の大きな鳴き声は、掌という肉壁をも貫通し、鼓膜を大きく揺らした。
「あっ...あぁ...!!!」
膝を着いていたフェイリスは、呆けた様子で耳を確認する。
メイやデミドランを始めとして、龍人の2人までは身体の造りが頑丈な為に問題は無かった。
しかし、フェイリスはハーフエルフ。
普通の人類よりも聴力は鋭い。
大きく揺れた鼓膜は耳小骨を粉砕し、外耳道からは鮮血が流れ出ていた。
「フェイリス!!...っあぁ!聞こえねぇか!」
デミドランは呆けるフェイリスを抱え、火口壁の上を目指し跳躍する。
しかし一本の触手がデミドランの足首に絡みつき、それを止めた。
「舐めるなッッ!!!」
伸びた触手を、爪先を使い逆に絡めとる。
そしてその微細な動きのみでピンク色の鳥頭をダマスカス鋼の湖面に叩きつけた。
力の緩んだ触手から脱出し、無事に火口壁へとフェイリスを送り届ける。
「今の咆哮はやばかったですねぇッッ!」
「あぁッ!だが、我ら龍人には効かぬ様だなッ!」
2人は跳躍し、テンニーンはその手に呼び込んだフルルカンガスを構える。
エドガーは鈍色の龍鱗に覆われた拳に力を込めた。
そしてピンク色の鳥頭へと叩き付ける。
ガキィィイイイイインッッ
その連撃は、何らかの障壁に阻まれた。
隙だらけの2人の懐に触手の腹が打ち込まれ、大きく吹き飛ばされた。
「ぐあッッ!!」
「うごッッ!!!」
腹部が潰される圧力により、内蔵が大きく移動する。
圧迫された胃は2人の口へと胃液を逆流させた。
ズドンと軽くクレーターを作りながら壁面に2人は叩きつけられる。
龍人と言えども邪悪な触手による一撃には多大なダメージを受けた。
触手に触れた腹部は打撲により内部で出血を起こし、叩きつけられた衝撃で肩甲骨や肋骨にはヒビが入っている。
「くッッ...ハッ!!!」
テンニーンは壁面から転げ落ちながらも、フルルカンガスを支えに立ち上がった。
エドガーは遅れて隣に落ちて来たが、息はあるものの意識が無い。
「だ、大丈夫!?」
メイがすぐさま飛んで来て、治癒魔法を2人にかける。
「ほ、本当に何でもできるんですね…!こんな高度な技術まで扱えるなんて!」
先程受けたダメージがウソの様に回復する。
内蔵の出血もすっかり止まり、流れ落ちた血も回収されている。
ヒビが入ったであろう背中も肋骨も、すっかり痛みが引いていた。
「エドガーは暫く起きないだろうけど、テンニーンも無理しないでね。あれは何かしらの神の類だと思うし、ランちゃんも知らないって事は、私と同じ様に『異世界』から来た確率が高いから。」
「ったく、中途半端な攻撃するからだぞ。」
デミドランもフェイリスを置いて戻って来た。
3人はもう一度湖に浮かぶ鳥頭を見据える。
5分も経たずにこちらのパーティーは壊滅的なダメージを受けたのだ。
しっかりと気を引き締める必要がある。
『我ガ名ハ...ラプシヌプルクル。』
ピンク色の鳥頭は触手をうねらせながら自身を『ラプシヌプルクル』と呼んだ。
しかし、デミドランもテンニーンもポカンとしている。
「あなた、日本語が上手ね。」
鳥頭と同じ言語であろう物を話し始めたメイ。
2人は驚愕し、顔を見合わせた。
この世界の言語は日本語ではない。
ミストリア帝国に古くから伝わる言語が使われている。
メイには5歳までの記憶がある為に、ミストリアの言葉を喋る事が出来ていた。
しかし、目の前のラプシヌプルクルと名乗ったそれは、日本語を話したのだ。
「あー...メイさん?何を喋ってるんですか?」
「んー、わたしの元居た世界の言語なんだよね。」
「なるほど。そういう事か。」
訳が解らないテンニーンの疑問にメイが答える。
それと同時にデミドランは察した。
この相手は異世界の住人なのだと。
「んで?その鳥頭はなんて言ってんだ?」
「とりあえず『ラプシヌプルクル』って名乗ったよ。」
『何ヲ話シテイル。何故邪魔ヲスル。敵ハ排除スル。』
ラプシヌプルクルから、大量の紫の霧が溢れた。
「あれは何だ?」
敵意を向けてくるラプシヌプルクルから漏れる霧を見て、デミドランは顔を顰める。
テンニーンも訳が解っていない。
「2人共!!わたし達は敵と認識されてる!!あの霧は多分猛毒よ!!」
メイの叫びでデミドランは左方へ、テンニーンは右方へ展開する。
そしてメイは両手を広げ、前へ突き出す。
『大嵐乃閃光!!!!』
緑色の閃光が渦を巻き、突風を引き連れながらメイの掌から放たれる。
それは塵や小石をも巻き上げ、ラプシヌプルクルへと迫った。
勿論攻撃は障壁に防がれるが、ピシピシとヒビが入り、遂には割れた。
大質量の攻撃がラプシヌプルクルを襲う。
突風は毒霧を霧散させ、砂埃を巻き上げた。
『我ニハ効カヌ!!』
4本の触手が高速で動いて攻撃を防ぎ、4本の翅は砂埃を飛ばす。
「それはどうかなっ!?」
ラプシヌプルクルの右方には『グラナート・クライノート』を首から下げ大口を開けたテンニーン。
左方には、片掌を構えたデミドラン。
赤と紫の熱線が、ラプシヌプルクルを挟む様に衝突した。
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