Messiah~底辺召喚士の異世界物語~

小泉 マキ

文字の大きさ
44 / 85
開闢の始まり

異変3

しおりを挟む


メイが湖に手を翳すと、最高硬度のダマスカス模様のフィルターが水面を覆う。
それは現代社会で鍛造された異種金属を積層させた物では無く、ウーツ鋼という太古の技術により生成された金属である。
これで湖から魔物が量産される事を防ぐ事が出来る。

すると、湖の中心に浮かぶピンク色の球体はブルンと震えた。
そして、肉塊をかき分けるグロテスクな音と共にカモノハシの様な嘴を持つ細い頭部が現れる。
その頭部にある巨大な両眼はグルリと非対称な動きで周りを確認し、大きく嘴を開いた。


『ピギェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッッッッ!!!!!!!』


思わず5人は耳を塞いだ。
国中に響いたかと思われる程の大きな鳴き声は、掌という肉壁をも貫通し、鼓膜を大きく揺らした。

「あっ...あぁ...!!!」

膝を着いていたフェイリスは、呆けた様子で耳を確認する。
メイやデミドランを始めとして、龍人の2人までは身体の造りが頑丈な為に問題は無かった。
しかし、フェイリスはハーフエルフ。
普通の人類よりも聴力は鋭い。
大きく揺れた鼓膜は耳小骨を粉砕し、外耳道からは鮮血が流れ出ていた。

「フェイリス!!...っあぁ!聞こえねぇか!」

デミドランは呆けるフェイリスを抱え、火口壁の上を目指し跳躍する。
しかし一本の触手がデミドランの足首に絡みつき、それを止めた。

「舐めるなッッ!!!」

伸びた触手を、爪先を使い逆に絡めとる。
そしてその微細な動きのみでピンク色の鳥頭をダマスカス鋼の湖面に叩きつけた。
力の緩んだ触手から脱出し、無事に火口壁へとフェイリスを送り届ける。


「今の咆哮はやばかったですねぇッッ!」

「あぁッ!だが、我ら龍人には効かぬ様だなッ!」

2人は跳躍し、テンニーンはその手に呼び込んだフルルカンガスを構える。
エドガーは鈍色の龍鱗に覆われた拳に力を込めた。
そしてピンク色の鳥頭へと叩き付ける。

ガキィィイイイイインッッ

その連撃は、何らかの障壁に阻まれた。
隙だらけの2人の懐に触手の腹が打ち込まれ、大きく吹き飛ばされた。

「ぐあッッ!!」

「うごッッ!!!」

腹部が潰される圧力により、内蔵が大きく移動する。
圧迫された胃は2人の口へと胃液を逆流させた。
ズドンと軽くクレーターを作りながら壁面に2人は叩きつけられる。

龍人と言えども邪悪な触手による一撃には多大なダメージを受けた。
触手に触れた腹部は打撲により内部で出血を起こし、叩きつけられた衝撃で肩甲骨や肋骨にはヒビが入っている。

「くッッ...ハッ!!!」

テンニーンは壁面から転げ落ちながらも、フルルカンガスを支えに立ち上がった。
エドガーは遅れて隣に落ちて来たが、息はあるものの意識が無い。

「だ、大丈夫!?」

メイがすぐさま飛んで来て、治癒魔法を2人にかける。

「ほ、本当に何でもできるんですね…!こんな高度な技術まで扱えるなんて!」

先程受けたダメージがウソの様に回復する。
内蔵の出血もすっかり止まり、流れ落ちた血も回収されている。
ヒビが入ったであろう背中も肋骨も、すっかり痛みが引いていた。

「エドガーは暫く起きないだろうけど、テンニーンも無理しないでね。あれは何かしらの神の類だと思うし、ランちゃんも知らないって事は、私と同じ様に『異世界』から来た確率が高いから。」

「ったく、中途半端な攻撃するからだぞ。」

デミドランもフェイリスを置いて戻って来た。
3人はもう一度湖に浮かぶ鳥頭を見据える。
5分も経たずにこちらのパーティーは壊滅的なダメージを受けたのだ。
しっかりと気を引き締める必要がある。

『我ガ名ハ...ラプシヌプルクル。』

ピンク色の鳥頭は触手をうねらせながら自身を『ラプシヌプルクル』と呼んだ。
しかし、デミドランもテンニーンもポカンとしている。

「あなた、日本語が上手ね。」

鳥頭と同じ言語であろう物を話し始めたメイ。
2人は驚愕し、顔を見合わせた。

この世界の言語は日本語ではない。
ミストリア帝国に古くから伝わる言語が使われている。
メイには5歳までの記憶がある為に、ミストリアの言葉を喋る事が出来ていた。

しかし、目の前のラプシヌプルクルと名乗ったそれは、日本語を話したのだ。

「あー...メイさん?何を喋ってるんですか?」

「んー、わたしの元居た世界の言語なんだよね。」

「なるほど。そういう事か。」

訳が解らないテンニーンの疑問にメイが答える。
それと同時にデミドランは察した。
この相手は異世界の住人なのだと。

「んで?その鳥頭はなんて言ってんだ?」

「とりあえず『ラプシヌプルクル』って名乗ったよ。」

『何ヲ話シテイル。何故邪魔ヲスル。敵ハ排除スル。』

ラプシヌプルクルから、大量の紫の霧が溢れた。

「あれは何だ?」

敵意を向けてくるラプシヌプルクルから漏れる霧を見て、デミドランは顔を顰める。
テンニーンも訳が解っていない。

「2人共!!わたし達は敵と認識されてる!!あの霧は多分猛毒よ!!」

メイの叫びでデミドランは左方へ、テンニーンは右方へ展開する。
そしてメイは両手を広げ、前へ突き出す。

大嵐乃閃光ストームバースト!!!!』

緑色の閃光が渦を巻き、突風を引き連れながらメイの掌から放たれる。
それは塵や小石をも巻き上げ、ラプシヌプルクルへと迫った。
勿論攻撃は障壁に防がれるが、ピシピシとヒビが入り、遂には割れた。
大質量の攻撃がラプシヌプルクルを襲う。
突風は毒霧を霧散させ、砂埃を巻き上げた。

『我ニハ効カヌ!!』

4本の触手が高速で動いて攻撃を防ぎ、4本の翅は砂埃を飛ばす。

「それはどうかなっ!?」

ラプシヌプルクルの右方には『グラナート・クライノート』を首から下げ大口を開けたテンニーン。
左方には、片掌を構えたデミドラン。
赤と紫の熱線が、ラプシヌプルクルを挟む様に衝突した。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...