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ユグルド

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  部屋に入ると書類に目を通していたユグルドが顔を上げ、こちらに気づくとにっこりと微笑んだ。ユグルドは端正な顔立ちと綺麗な銀髪の持ち主で、この微笑みで何人の女性を虜にしてきたのか想像もつかない。

「やぁユグルド、突然すまないね」
「君はいつでも来ていいって言っただろう。ところでポーションは美味しかったかい?」

 …ユグルドにポーションの話はしていない。いきなりぶっこんできやがったな。ネーヴェでユグルドに隠し事はできないってか。いや、隠してもなかったんだけど。

「えっ!?旦那どっか怪我したんですかい!?」

 後ろからアルゴスのすっとんきょうな声が聞こえてくる。なんか説明するの恥ずかしくなってきた···。
 ていうか恩人に言っちゃあなんだけど、ユグルドってなかなか性格悪いなこいつ。

「いやアルゴス君、安心してくれていい、カイト君はただポーションを飲みたかっただけらしいよ」
「はー、じいちゃんの乳首みたいな味するもん飲みたがるなんて、旦那も物好きっすねー」
「あんなに不味いなんて知ってたら好き好んで飲まんわ!!!ていうかここの世界の人は味の表現に家族を引き合いに出さなきゃいけない決まりでもあるんか!」

 そもそもじいちゃんの乳首って何味だよ。アルゴスはじいちゃんを舐め回したんか。

「君がポーションを飲んでここに来たってことは、ポーションの製造方法でも知りたくなったのかな。確か…君が買ったやつはゼル爺のやつだったかな」

 話が早いどころではない、感心を通り越して気持ち悪いな。

「まぁ製造方法というか、ざっくりポーションってどんなものなのか聞きたい感じかな」
「それならゼル爺が適任だね。あの爺さんは回復薬の権威って呼ばれてるから」

 そんな人物だったのか、だとしたら腕が悪いせいであの味ではないことは確かだろう。

「あの人はうちの商会で雇ってる人だから、ユグルドの紹介で会いに来たって言えば問題ないよ。爺さん自身、かなり気さくだからいろいろ話してもらえると思うし、地図渡すから行っておいで」

 そう言うと机の引き出しから紙を1枚取り出し、こちらに渡してきた。紙には今いる商会の本部から、ゼルさんの家までの道のりが書かれている。

「…なんつーか、さすが用意周到というか、手のひらの上というか…」
「それは褒め言葉として受け取っておくよ」

 ニコニコしながらユグルドは返事をした。もう何も言うまい。

「ちなみにいくら回復薬の権威とはいえ、媚薬の製造は法に触れるから頼んでも無駄だよー」

 やかましい!僕だってモテたいけど薬には頼らんのだ!いつかきっと僕の良さを理解してくれる人が現れるはず!それまで待つのだ!

「待ってるだけじゃ女性は振り向いてくれないからね、法の範囲内でアタックしようね」
「心を読むのはやめてくれよ…」

 クスクス笑っているユグルドを見ていると、なんだか怒る気にもならない。イケメンめ、いつか絶世の美女を連れてきてギャフンと言わせてやるからな。

「これ以上お邪魔するのもなんだし、ゼルさんに会いに行ってくるよ」
「君をお邪魔とは思わないから、いつでもおいでね」

 地図を手に部屋を後にするとアルゴスがぽつりと

「媚薬って違法だったんすねぇ…」

使ったことがあるなんて言わないでくれよ。
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