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ゼル

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  ゼル・ガードナーの邸宅までは徒歩だと少し遠いようなので、ちょうど同じ方角に行くという商会の馬車に乗せてもらうことにした。馬車のなかではアルゴスが昔、媚薬を怪しげな婆さんから買ったときの話を聞いていた。買った媚薬は試せる相手がいなかったので父親に使ってみたらしいが、何時間経っても効果という効果が見られなかったため、残りは川に捨てたそうだ。

「いやぁ、違法だって知らなくて、さっき聞いたときはビビりましたよ!あっはっはっは!」

 正直突っ込みどころが多すぎて処理しきれないが、わかったことは、今後こいつは何かしらの厄介事を持ち込んでくるだろう、ということだ。ていうか媚薬を父親に使うな。
 なんていうアホな話をしているうちに目的地に着いた。街の郊外に建てられているが、なかなか立派な屋敷だ。ポーション作りも自宅で行っているらしいので、工房も兼ねての大きさなのだろう。
 少し緊張しながら呼び鈴を鳴らすと、使用人と思われるメイド服姿の女性が出てきた。用件を聞かれ、ゼル・ガードナーに会って話がしたいこと、急ぎの用事ではないので都合が悪ければ日を改めることを伝えると、メイド服姿の女性は「ゼル様は今ちょうどお手すきかもしれないので、少しお待ちいただけるのであればカイト様とお会いできるか伺ってきます」と言った。待つことを伝えると、女性は屋敷の中へと戻って行った。数分後、メイド服姿の女性が出てきて、今すぐ会えるとのことで、客間へと通された。
 屋敷に入ると正面に、ゼル本人とおぼしき老人の肖像画がでかでかと飾られていた。立派な白い髭を蓄え、威厳のある顔つきにはまさに「権威」と呼ばれる風格がある。
 思えば前世では普通の人生を送ってきた僕にとって、肩書きが大きい人と話したことなんて、校長先生におはようございますの挨拶をしたことくらいしかない。そんなことを考えているとそわそわしてきてしまうのだが、隣でアルゴスは「置いてあるお菓子うめぇーなぁー!」なんて言いつつ、来客用のお菓子をガツガツ食べている。やめなさい恥ずかしい!

 そうこうしていると、トントンというノックと共に先ほどの女性がドアを開くと、入り口の肖像画に描かれていた老人が部屋に入ってきた。

「お待たせして申し訳ない。わしがゼル・ガードナーだ」
「こちらこそお忙しいところ突然お邪魔して申し訳ありません。私はファーレンハイト商会でユグルドさんと共にお仕事をさせていただいております、カイトと申します。隣にいるこちらは私の護衛のアルゴスです。ポーションについて調べていたところ、ゼルさんがこの国で回復薬の権威と呼ばれていらっしゃると伺いましたので、ユグルドさんの紹介でお邪魔させていただきました」

 よし、考えてきた自己紹介は噛まずに言えたぞ。こういうのって大人な感じがして緊張するよな。

「ほう!ユグルド坊っちゃんか!ということは、君が噂の遠い国から来たという若者かね。なかなか良い働きをするとかで商会の連中が話しておったぞ」
「そう言っていただけるとは恐縮です。しかし、まだまだ浅学のため本日はゼルさんにご教授いただけないかと思い参った次第です」
「それは勤勉じゃな!わしとしても若者と話せるのは嬉しい限りじゃ。ささ、座りたまえ」

 見たところゼルはかなりはつらつとした老人で、肖像画の威厳のある顔つきとは裏腹に話しやすいタイプのようだ。いかにもな魔法使いといった感じで気難しい見た目だったが、緊張していた僕にとっては嬉しい誤算だ。

「さて、何から聞きたいかね」
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