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パリスタン祭
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この時期に行われるネーヴェの祭りは、ミルドラスト王国の国教である「ジル教」における、商業を統べる神から名を取って「パリスタン祭」と呼ばれている。パリスタン祭は約2週間ほど続き、国内外問わず様々な人種・種族が集まり、露店を開いて儲けるもよし酒に明け暮れるもよしの、街全体がどんちゃん騒ぎとなる。初日はユグルドから「祭りの間は遊んで良い」と言われていたが、さすがに何もしないのは気が引けるので、商会の物販運びや露店で店番などを手伝ったりしていた。手伝ってる間は国外から来た商人や、ファーレンハイト商会を贔屓にしてくれている顧客と話す機会が多く、今年の祭りの目玉や見て回るべき店なんかを聞けたのはなかなか有益だった。今年の目玉はなんと言っても、西方の国から来た劇団の演劇らしい。娯楽が決して多くはないこの世界において、たまに見れる演劇は民衆にとって一番の娯楽と言っても過言ではないようだ。演目は恋愛物だそうで、気になっている女を連れて見に行ってこいなどと、とやかく言われたが、この世界でいうところの演劇デートは前世でいう映画デートに近いのかもしれない。
初日は仕事の手伝いで終わったが、2日目はリタとアルゴスを連れて祭りを回る約束を3人でしていた。仕事が終わり自宅に戻ると、アルゴスが飲みに行きたそうにしていたが、僕は仕事でヘトヘトだったので1人で行かせることにし、僕はすぐ寝ることにした。前世で受験勉強漬けだった僕が貧弱なのか、この世界の人々がエネルギッシュなのか、とにかく皆よく働きよく遊んでいる。僕もそのうち周りに染まっていくのだろうか。ちなみに、僕はこちらではとっくに成人の扱いなので、酒を飲む機会があれば遠慮なく飲んでいるが、ハマりすぎてしまいそうになるほど酒が好きだと判明したのでほどほどを心がけている。
「遅くならないうちに帰ってくるっす!」なんて言いながら家を出ていったアルゴスだが、ベロベロに酔ったアルゴスが見知らぬ男2人に支えられて帰ってきたのは朝の4時頃だった。まったくこの男は、飲んでいる途中に約束のことなど忘れてしまったのだろう。リタとせっかく約束をしているし、2人だけで行ってしまおうなどと考えたところで、僕はハッと重大なことに気づいた。
これってもしやデートなのでは。
いや待て!僕とリタは雇用主と従業員の関係でお互い好きあっているなどとは一度も思ったことはない!!!そもそも!僕なんかにあんな有能美人が見向きもするはすがない!
何を隠そう僕は女性経験が皆無なのである。通っていた学校は全て共学であったが、自信のなさとその性格の奥手さのせいで女性を引き寄せることがまるでなかった。そんな僕にとって母親以外の女性と2人きりで買い物に行くことなど、未経験ゆえに耐性がまるでないのである。異世界に来て気に留める暇がなかったからか、あんな美人がずっとそばにいただけでも夢みたいなことだ。
落ち着け!紳士になるのだ僕よ!
自らにそう言い聞かせ、いつもより念入りに身支度を整え、アルゴスのために消化の良い食事を用意し部屋でバケツに吐きまくっているアルゴスを見届けた後、僕は自宅を出た。正午に街の広場で待ち合わせをしていたが、約束していた広場の噴水の前に着き時計を見ると約束の時間よりも30分ほど早い。思ったよりも早く着いてしまったようだ。辺りを見渡すと、初日よりも人が多く感じられ、リタが来たとしてもすぐには見つからなさそうに感じられる。デートじゃないけど女の子との待ち合わせって緊張するのな!デートじゃないけど!
いつもより少し早い心臓の鼓動を感じつつ、広場のベンチに座って待っていると、少し遠くからリタが走って来るのが見えた。待ち合わせの時間にはまだかなり余裕があるのに、走ってこっちに向かって来るとは僕がいるのが見えているらしい。彼女はかなり目が良いのか、はたまた気配でも察しているのだろうか。
「すみませんカイト様!お待たせしてしまって」
少し息が上がっている様子を見ると、結構離れた距離から走ってきてくれたのだろう。そんなに急がなくても良いのに。
「僕も着いたばっかりだし全然気にしなくていいよ。じゃあ息が整ったら行こうか」
「ふぅ…。はい!もう大丈夫です!あれ、そういえばアルゴスさんは?」
「あいつは二日酔いでぶっ倒れてるから置いてきたよ」
「そうなんですね!少し残念ですけど、アルゴスさんらしいですねっ」
残念とは言いつつも、面白そうに笑っているリタはとても上機嫌に見える。今日を楽しみにしていてくれていたのだろうか。
ふとリタの服装に目を向けると、紺の花柄のスカートにダークグレーのシャツを着ており、肩から提げている小さなバッグがベージュで全体の色を整えている。狐耳や髪の色も込みで考えられたおしゃれだ。ぶっちゃけ超可愛い。いつもの地味目な服装は、このギャップを演出するためだったのかもしれないと考えてしまうほどだ。
なんだか本当に緊張してきた。
そう考えていると不意にリタが
「私、カイト様とお祭り見に行くの楽しみにしてたんです!目一杯遊び尽くしましょ!」
と言った。
いつもの仕事のときには見せない笑顔を見て、本当に楽しみにしていてくれたのだということが伝わってくる。
そうだな、楽しまないとな。
初日は仕事の手伝いで終わったが、2日目はリタとアルゴスを連れて祭りを回る約束を3人でしていた。仕事が終わり自宅に戻ると、アルゴスが飲みに行きたそうにしていたが、僕は仕事でヘトヘトだったので1人で行かせることにし、僕はすぐ寝ることにした。前世で受験勉強漬けだった僕が貧弱なのか、この世界の人々がエネルギッシュなのか、とにかく皆よく働きよく遊んでいる。僕もそのうち周りに染まっていくのだろうか。ちなみに、僕はこちらではとっくに成人の扱いなので、酒を飲む機会があれば遠慮なく飲んでいるが、ハマりすぎてしまいそうになるほど酒が好きだと判明したのでほどほどを心がけている。
「遅くならないうちに帰ってくるっす!」なんて言いながら家を出ていったアルゴスだが、ベロベロに酔ったアルゴスが見知らぬ男2人に支えられて帰ってきたのは朝の4時頃だった。まったくこの男は、飲んでいる途中に約束のことなど忘れてしまったのだろう。リタとせっかく約束をしているし、2人だけで行ってしまおうなどと考えたところで、僕はハッと重大なことに気づいた。
これってもしやデートなのでは。
いや待て!僕とリタは雇用主と従業員の関係でお互い好きあっているなどとは一度も思ったことはない!!!そもそも!僕なんかにあんな有能美人が見向きもするはすがない!
何を隠そう僕は女性経験が皆無なのである。通っていた学校は全て共学であったが、自信のなさとその性格の奥手さのせいで女性を引き寄せることがまるでなかった。そんな僕にとって母親以外の女性と2人きりで買い物に行くことなど、未経験ゆえに耐性がまるでないのである。異世界に来て気に留める暇がなかったからか、あんな美人がずっとそばにいただけでも夢みたいなことだ。
落ち着け!紳士になるのだ僕よ!
自らにそう言い聞かせ、いつもより念入りに身支度を整え、アルゴスのために消化の良い食事を用意し部屋でバケツに吐きまくっているアルゴスを見届けた後、僕は自宅を出た。正午に街の広場で待ち合わせをしていたが、約束していた広場の噴水の前に着き時計を見ると約束の時間よりも30分ほど早い。思ったよりも早く着いてしまったようだ。辺りを見渡すと、初日よりも人が多く感じられ、リタが来たとしてもすぐには見つからなさそうに感じられる。デートじゃないけど女の子との待ち合わせって緊張するのな!デートじゃないけど!
いつもより少し早い心臓の鼓動を感じつつ、広場のベンチに座って待っていると、少し遠くからリタが走って来るのが見えた。待ち合わせの時間にはまだかなり余裕があるのに、走ってこっちに向かって来るとは僕がいるのが見えているらしい。彼女はかなり目が良いのか、はたまた気配でも察しているのだろうか。
「すみませんカイト様!お待たせしてしまって」
少し息が上がっている様子を見ると、結構離れた距離から走ってきてくれたのだろう。そんなに急がなくても良いのに。
「僕も着いたばっかりだし全然気にしなくていいよ。じゃあ息が整ったら行こうか」
「ふぅ…。はい!もう大丈夫です!あれ、そういえばアルゴスさんは?」
「あいつは二日酔いでぶっ倒れてるから置いてきたよ」
「そうなんですね!少し残念ですけど、アルゴスさんらしいですねっ」
残念とは言いつつも、面白そうに笑っているリタはとても上機嫌に見える。今日を楽しみにしていてくれていたのだろうか。
ふとリタの服装に目を向けると、紺の花柄のスカートにダークグレーのシャツを着ており、肩から提げている小さなバッグがベージュで全体の色を整えている。狐耳や髪の色も込みで考えられたおしゃれだ。ぶっちゃけ超可愛い。いつもの地味目な服装は、このギャップを演出するためだったのかもしれないと考えてしまうほどだ。
なんだか本当に緊張してきた。
そう考えていると不意にリタが
「私、カイト様とお祭り見に行くの楽しみにしてたんです!目一杯遊び尽くしましょ!」
と言った。
いつもの仕事のときには見せない笑顔を見て、本当に楽しみにしていてくれたのだということが伝わってくる。
そうだな、楽しまないとな。
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(1件)
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作品、拝見しました。
伸び伸びと優しい作品ですね。
ですが、やはりピンチを作るべきです。
それに興味・固執があるからこそ、大きなピンチも存在している筈です。
頑張って下さい
ご感想いただきありがとうございます。
拙文ですが、他作品も楽しんでいただけると幸いです。