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最後の配達
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雨が降っていた。
2045年の東京で、まだ人間が配達をしているなんて誰も信じないだろう。街を行き交うドローンや自動運転車が荷物を運ぶ中、佐藤は今日も自転車のペダルを漕いでいた。
「おじいちゃん、まだやってるの?」
配達先の子供が不思議そうに見上げてくる。佐藤は微笑んで答えた。
「機械には運べないものもあるんだよ」
その日の最後の荷物は、妙なものだった。差出人の名前はない。宛先は「世田谷区松原3-15-8 アパート青葉203号室」。だが、そのアパートは20年前に取り壊されたはずだ。佐藤は40年この仕事をしている。間違いない。
普通なら返送する。しかし、小包には「必ず人の手で」と赤い文字で書かれていた。
佐藤は雨の中、その住所へ向かった。予想通り、そこは更地になっていた。雑草が生い茂る空き地に、一人の女性が傘もささずに立っていた。
「配達です」
佐藤が声をかけると、女性は振り返った。50代くらいだろうか。雨に濡れた顔に、静かな微笑みが浮かんでいた。
「やっと届きましたね。25年待ちました」
女性は小包を受け取ると、その場で開封した。中から出てきたのは、古い懐中時計と一通の手紙だった。
「私の父が、母に贈るはずだったものです」
女性は語り始めた。25年前、このアパートに若い夫婦が住んでいた。夫は配達員で、妻の誕生日に懐中時計を贈る約束をしていた。しかし、配達中の事故で夫は帰らぬ人となった。
「父は、同僚の方に託したそうです。『必ず人の手で届けてくれ』と。でも、母は父の死を受け入れられず、引っ越してしまって...」
女性は懐中時計を胸に抱いた。
「私は毎年、母の誕生日にここに来ています。もしかしたら、いつか届くかもしれないって」
佐藤は黙って聞いていた。そして、ようやく思い出した。25年前、確かに同僚から預かった荷物があった。しかし、配送先不明で倉庫の奥に眠っていたものを、AIシステムの導入時に発見したのだ。
「AIなら、この荷物は破棄されていたでしょうね」女性は言った。「でも、人間のあなたは届けてくれた」
佐藤は何も言えなかった。ただ、雨の中で二人は立ち尽くしていた。
帰り道、佐藤は考えていた。効率化、自動化、最適化。それらは確かに大切だ。しかし、人間にしかできないこともある。約束を覚えていること。誰かの想いを届けること。たとえ25年かかっても。
翌日、佐藤は退職願を破り捨てた。
まだ、運ぶべきものがある。機械には決して理解できない、人の心という荷物が。
雨は上がっていた。
2045年の東京で、まだ人間が配達をしているなんて誰も信じないだろう。街を行き交うドローンや自動運転車が荷物を運ぶ中、佐藤は今日も自転車のペダルを漕いでいた。
「おじいちゃん、まだやってるの?」
配達先の子供が不思議そうに見上げてくる。佐藤は微笑んで答えた。
「機械には運べないものもあるんだよ」
その日の最後の荷物は、妙なものだった。差出人の名前はない。宛先は「世田谷区松原3-15-8 アパート青葉203号室」。だが、そのアパートは20年前に取り壊されたはずだ。佐藤は40年この仕事をしている。間違いない。
普通なら返送する。しかし、小包には「必ず人の手で」と赤い文字で書かれていた。
佐藤は雨の中、その住所へ向かった。予想通り、そこは更地になっていた。雑草が生い茂る空き地に、一人の女性が傘もささずに立っていた。
「配達です」
佐藤が声をかけると、女性は振り返った。50代くらいだろうか。雨に濡れた顔に、静かな微笑みが浮かんでいた。
「やっと届きましたね。25年待ちました」
女性は小包を受け取ると、その場で開封した。中から出てきたのは、古い懐中時計と一通の手紙だった。
「私の父が、母に贈るはずだったものです」
女性は語り始めた。25年前、このアパートに若い夫婦が住んでいた。夫は配達員で、妻の誕生日に懐中時計を贈る約束をしていた。しかし、配達中の事故で夫は帰らぬ人となった。
「父は、同僚の方に託したそうです。『必ず人の手で届けてくれ』と。でも、母は父の死を受け入れられず、引っ越してしまって...」
女性は懐中時計を胸に抱いた。
「私は毎年、母の誕生日にここに来ています。もしかしたら、いつか届くかもしれないって」
佐藤は黙って聞いていた。そして、ようやく思い出した。25年前、確かに同僚から預かった荷物があった。しかし、配送先不明で倉庫の奥に眠っていたものを、AIシステムの導入時に発見したのだ。
「AIなら、この荷物は破棄されていたでしょうね」女性は言った。「でも、人間のあなたは届けてくれた」
佐藤は何も言えなかった。ただ、雨の中で二人は立ち尽くしていた。
帰り道、佐藤は考えていた。効率化、自動化、最適化。それらは確かに大切だ。しかし、人間にしかできないこともある。約束を覚えていること。誰かの想いを届けること。たとえ25年かかっても。
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雨は上がっていた。
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