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午後三時の猫と約束

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駅前の小さな喫茶店「ティアラ」の窓際に、毎日午後三時きっかりに現れる三毛猫がいる。
店主の私は、その猫を「サンジ」と呼んでいた。誰が飼っているのか、どこから来るのか、七年間この店を営んできたが一度も分からない。ただ、雨の日も雪の日も、必ず午後三時に窓の外に座り、じっと店内を見つめている。
今日も時計の針が三時を指すと、サンジが現れた。いつものように窓ガラス越しに目が合う。私は軽く手を振った。
「今日もいらっしゃい」
常連の老紳士が新聞を読みながら言った。
「あの猫、本当に時間に正確ですねぇ」
私が頷こうとした瞬間、入口のドアベルが鳴った。
「あの、すみません」
二十歳くらいの女性が立っていた。目を赤く腫らしている。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
彼女は迷わず窓際の席を選んだ。サンジのすぐ目の前だ。注文を取りに行くと、小さな声で「ホットココアを」と言った。
ココアを運ぶと、彼女は窓の外のサンジを見つめていた。
「この猫、毎日来るんですか?」
「ええ、七年間、毎日午後三時に」
彼女の目から涙がこぼれた。
「七年前、ここで母と最後にお茶をしたんです。午後三時でした。母は猫が大好きで…」
私は黙って聞いていた。
「母が亡くなってから、一度もここに来られなくて。でも今日、どうしても来たくなって」
窓の外でサンジが小さく鳴いた。まるで彼女に何か伝えようとするかのように。
「お母さまも、きっと…」
私が言いかけた時、彼女が微笑んだ。
「母がよく言っていました。『大切な約束は、誰かが必ず覚えていてくれる』って」
サンジはゆっくりと立ち上がり、一度だけ振り返ってから、いつものように去っていった。
それから彼女は毎週火曜日の午後三時に来るようになった。サンジも相変わらず毎日現れる。二人が窓越しに見つめ合う時間は、まるで七年前から続く静かな約束のようだった。
ある日、彼女が小さな猫の置物を持ってきた。
「これ、母の形見なんです。でも、もうお守りは必要ないかもしれません」
そう言って、レジ横の棚に置いていった。
今でもその置物は店にある。そしてサンジは今日も午後三時に現れる。
時に、約束は言葉を超えて受け継がれていく。この小さな喫茶店の、午後三時の静かな奇跡のように。​​​​​​​​​​​​​​​​
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