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最後の手紙は、消えな

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「先生、また来ちゃいました」
 雨上がりの墓地に、私は一人で立っていた。苔むした墓石の前に置かれた花束は、先週私が供えたものだ。もう萎れかけている。
 高校の恩師、佐々木先生が亡くなって三年が経つ。
 先生は国語教師で、いつも生徒に「言葉は魔法だ」と言っていた。適切な言葉は人を救い、不適切な言葉は人を傷つける。だから言葉を大切に選びなさい、と。
 私が先生に最後に会ったのは、大学二年の夏休みだった。母校を訪ねると、先生は職員室で一人、生徒の作文を添削していた。
「久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
 先生は相変わらずの笑顔で私を迎えてくれた。でも、どこか疲れているように見えた。
 あの日、私は先生に相談したかったことがあった。大学で何を学んでも、自分の将来が見えない。このまま進んでいいのか分からない。そんな不安を抱えていた。
 でも、先生の様子を見て、私は何も言えなかった。
「先生、お忙しそうですね」
「ああ、いつものことさ」
 それだけ話して、私は帰ってしまった。
 その二ヶ月後、先生は心臓発作で急逝した。
 葬儀の日、先生の奥さんが私に封筒を渡してくれた。
「あなた宛てに、主人が残していたものです」
 封筒の中には、一枚の便箋が入っていた。
『人生に迷うのは、真剣に生きている証拠だ。答えはすぐには見つからない。でも、君なら大丈夫。君の書く文章には、人を思いやる温かさがある。それが君の武器だ。自信を持ちなさい』
 私は何も相談していなかったのに、先生は全部分かっていたのだ。
 あの時の私の表情を見て、先生は手紙を書いてくれたのかもしれない。でも、先生自身が忙しくて渡すタイミングを逃したのか。それとも、私が自分で答えを見つけるまで待とうとしていたのか。
 今となっては分からない。
 でも、この手紙のおかげで、私は今、地方新聞社で記者として働いている。人の物語を取材し、言葉にする仕事だ。
「先生、報告があります」
 私は新しい花束を供えながら、ポケットから一枚の紙を取り出した。
「私の記事が、県のジャーナリズム賞をいただきました。地域の高齢者を支える若者たちの特集で」
 風が吹いて、木々が揺れた。
「言葉は魔法だって、先生の教えは本当でした。私の記事を読んで、ボランティアに参加してくれた人が増えたんです」
 空を見上げると、雲の切れ間から光が差し込んできた。
 先生からの最後の手紙は、今も私の机の引き出しに大切にしまってある。疲れた時、迷った時、いつも読み返す。そのたびに、先生の声が聞こえてくる気がする。
「君なら大丈夫」
 その言葉が、私を前に進ませてくれる。
 言葉は魔法だ。時を超えて、人の心に残り続ける。
 だから私も、誰かの心に残る言葉を紡いでいきたい。先生がしてくれたように。
「また来ます。先生」
 私は深く頭を下げて、墓地を後にした。
 雨上がりの空は、どこまでも青く澄んでいた。​​​​​​​​​​​​​​​​
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