GalacXER 銀河の執行者

BoomBlaze_6174

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第一章2"失われた希望"

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地下クリニックで数日が過ぎた…。

 ライトは、古びた金属の天井をただ退屈に見つめていた。傷の痛みはまだ残っているが、それ以上に彼を苦しめているのは、自らの無力感だった。『こんな風に、ただ寝ているだけでは何の役にも立たない…』彼は心の中で思った。『どうすれば、こいつらに受け入れられ、信用してもらえるんだ?』



 そして、その日は来た…。

 再び、ホログラム・プロジェクターから緊急警報が鳴り響いた。

 <「最新状況を報告します…機械化部隊の群れが惑星サムの大気圏に侵入しました。小規模な部隊ではありますが、既に連邦の司令部であるDECビルへの攻撃を開始。現在、全ての通信は遮断されています。全市民は冷静に行動し、増援部隊の到着を待ってください」>



「増援だと!」

 ライトは思わず叫んだ。「ここまでやられておいて、まだ待てと言うのか!これはもう、ただ事じゃないぞ!」

 彼の頭の中では、状況は明白だった…。

 連邦は、誰も助けになど寄越さない。奴らはこの惑星を「見捨てる」気だ!



「…やってやる」ライトは固く決意した。「あのいまいましい司令部に乗り込んでやる…。まだ生き残っている奴らがいるかもしれないし、何より、俺がスパイじゃないとこいつらに証明するためにも!」

 その考えが、彼に火をつけた。

 彼は地下の倉庫から使えそうな古い武器を探し出し、誰にも気づかれずに隠れ家を抜け出した。彼の目標は、DEC司令部を破壊し、機械化部隊の通信を遮断して奴らの巣作りを遅らせること。

 時間を、一秒でも長く稼ぐために…。



---



 ――DEC司令部にて。



 ライトが目にした光景は、悪夢そのものだった。

 路上には血痕と、おぞましい死体の残骸が散乱している。一部の人々は、うなじに小型の機械を取り付けられ、魂のないゾンビのように歩かされていた。ライトは躊躇なく、身を守るためにブラスターの引き金を引いた。

 彼は機械化されたゾンビの群れを突破してビルへの侵入に成功し、医務室へと直行した。

 隠されていた薬品や化学物質を大量に盗み出し、即席の爆弾を組み立てる。そして、それをビルの中枢である通信システムの心臓部に設置した。



 ドォン!



 DECビルが、内部から爆発四散した。

 ライトは間一髪で爆風から逃れたが、安堵する暇もなかった。

 空から眩い光が降り注ぎ、数隻の連邦戦闘艦が素早く降下してくる。

「増援だと!何で今頃になって現れるんだ!」

 その思考が終わる前に、完全武装の連邦兵たちが一斉に降下し、彼のうなじにライフル銃のストックが叩きつけられた…。

 彼が見た最後の光景は、ぐにゃりと歪んで迫ってくる路面だった…。



 彼が意識を取り戻した時、両腕は後ろ手に縛られていた。頭上を浮遊する旗艦から、威圧的な声が植民地全域に響き渡った。

 <「これは連邦総督からの声明である!テロリストは植民地法に違反し、連邦の資産を破壊した!命令を待たずに行動する者は、反逆者とみなし、安全保障への脅威と判断する!武器を捨てよ!」>

 家々に隠れていたサムの住民たちは、その声をはっきりと聞いた。そして、残酷な真実を悟った…連邦は助けに来たのではない。奴らの「資産を破壊した」者を、逮捕しに来たのだと。



 <「法は、法だ!」>総督の声は、冷酷に続けた。<「今後、これ以上の騒乱を起こす者は、重大な犯罪とみなす。全部隊に対し、惑星サムからの撤退を命じる…。貴様らを孤立させ、腐り果てて死なせてやる、この田舎惑星のクズどもが!」>

 声明が終わると、戦闘艦は一斉に空へと舞い上がり、死の機械の群れに立ち向かう惑星サムを、ただ見捨てていった…。



---



 ――地下クリニックにて。



 エララと残された仲間たちは、ホログラムの映像を通して、ライトが連行される姿を様々な感情で見つめていた…。

 驚き、混乱、そして絶望。「彼は…一体、何のために…」

 だが、連邦の信号が消えたその瞬間、これまでになかった割り込み信号が鳴り響いた。

 そこに映し出されたのは、一人の男…ライトがかつて連邦のプロパガンダ映像で見た男だった。だが今、彼は連邦総督の制服を身に着けてはいなかった。



 <「こんにちは…自由を愛する惑星サムの市民諸君…。私はジャック。惑星インワンのレジスタンス、『インワン・フリーダム』のリーダーだ」>

 その声は力強く、希望に満ちていた。

 <「今日、連邦が諸君に対して行ったことは、かつて我々が経験したことだ…。だが、我々は屈しない!そして、諸君もだ!我々は、機械の群れと戦う諸君を助けるために、増援部隊を送っている…。30分後、我々の輸送船が合流地点に到着する…。それまで…持ちこたえてくれ!可能な限り長く!」>



 放送が終わり、地下室にはザーッというノイズと、全てを飲み込むような静寂だけが残された…。

 消えかけた希望が、予期せぬ形で、再び灯されたのだ…。



 <「…それまで…持ちこたえてくれ!可能な限り長く!」>

 ジャックの声が途絶えると、ホログラムは砂嵐の映像に変わり、冷たい地下室に再び静寂が訪れた。エララ、サトウ、リヒター、そして生き残った二人の屈強な男たちは、先ほどまで反乱軍のリーダーの固い決意に満ちた顔が映っていた虚空を、ただ見つめていた。

 誰も口を開かない。まるで、何かを口にすれば、その希望の幻が夢のように消えてしまうのを恐れているかのようだった。



 最初に沈黙を破ったのは、修理店の老人、サトウだった。その声は、わずかに震えていた。

「一体どうなっているんだ…インワン・フリーダムだと…奴らは十年前に、連邦に掃討されたものとばかり…」

「連邦の罠かもしれん」ガーと名乗る男が、不信に満ちた目で言った。「俺たちを誘き出して戦わせ、一網打尽にするつもりだ」

「時間もだ!」もう一人が付け加えた。「30分だと!上の音を聞いてみろ!3分持ちこたえられるかどうかも怪しいぞ!」



 その言葉は、残酷な真実だった。上からは、プラズマ銃の音、爆発音、そして人々の悲鳴が、まるで地獄からの響きのように、断続的に聞こえてくる。

 消えかけた絶望が、再び全員の心に忍び寄り始めた。

 だが、エララだけは違った…。

 かつて涙に濡れていた少女の瞳は今、挑戦的な炎を宿していた。彼女は、指の関節が白くなるほど、きつく拳を握りしめた。

「これが真実か罠かなんて、私には分からない…」彼女は、はっきりと、力強く言った。「でも、今の私たちにどんな選択肢があるの?この穴ぐらで、死を待つだけ?あの機械どもがドアをぶち破って、一人ずつ殺されるのを待つっていうの?」

 彼女は、全員の目を見据えた。

「あの人…ライト…彼は、奴らの巣を破壊するために、たった一人で乗り込んでいった。彼が連邦に捕まったのは、私たちがここで希望を失って座っているためじゃない!彼の行動が…この最後のチャンスを掴むための時間を、稼いでくれたのかもしれない!」



 彼女の言葉が、全員を覚醒させた。

 そうだ…DECビルの爆発が、機械の群れの連携を一時的に麻痺させた。だからこそ、まだここまでは奴らが到達していないのだ。

「30分…それは、不可能かもしれない」エララは続けた。「でも、戦わずに諦めるなんて…それ以上にあり得ないことよ!私は戦う!私と一緒に戦う人は!?」

 彼女の声が終わると、最も絶望的に見えた男、ガーが、鉄のテーブルに拳を叩きつけた。「ああ!やってやろうじゃねえか!死を待つより、ずっとマシだ!」

 サトウが、ゆっくりと頷いた。その瞳に、策略家の光が戻る。「ありったけの武器を準備しろ!生き残っているネットワーク全員に連絡だ!西の旧貨物船ドックに集まるよう伝えろ。あそこなら、遮蔽物もあるし、輸送船が着陸できるだけの開けたスペースもある!」

「私は、できる限りの救急キットと覚醒剤を準備しよう」リヒターが付け加えた。



 絶望は、生き残るための闘争心がもたらすアドレナリンに取って代わられた。

 武器を点検し、装備を整える音が、外の戦争の音と競うように響き渡る。

 30分…。

 惑星サムの全ての未来が、その糸にかかっている…。

 最後の生存を賭けた戦いが、今、始まった。



---



**[最初の10分:死の波]**



 西の旧貨物船ドック…。そこは、乗り物の墓場だった…。

 廃棄された貨物船の残骸が、即席の鉄の壁となり、コンテナがバンカーとして積み上げられている。生き残った百人にも満たないサム解放戦線のメンバーが、配置についた。

 彼らが手にしているのは、密造ブラスター、狩猟用ライフル、そしてサトウが数分前に組み立てたばかりの爆弾まで、ありとあらゆる武器だった。

 そして、奴らが来た…。

 それは行進ではなく、黒い奔流のような殺到だった。第一波として、流線形の体を持つ四足歩行の「機械化猟犬」が、高速で先行してくる。その赤い光学センサーが、夜の闇に不気味に光る。

 それに続くのは、うなじに機械の寄生生物を取り付けられた、不運な市民たちの成れの果て、「ゾンビ兵」。彼らの動きは、不自然に歪んでいた。そして最も恐ろしいのは、両腕に連装プラズマ砲を装備した、二足歩行の中型戦闘ロボット、「リーパー」だった。



「撃ち方、始め!」

 エララの声が響き渡り、即座に戦闘が勃発した!

 赤と緑のレーザー光線が、狂ったように撃ち交わされる。爆発音が轟き、大地が震えた。

 サムの戦士たちは、命を懸けて戦ったが、敵の数はあまりにも多すぎた。

 猟犬の一匹が遮蔽物を飛び越え、戦士の一人の腕に噛みついた。仲間がそれを撃ち殺したが、既に手遅れだった。

 エララは、ライフルの引き金を休むことなく引き続けた。彼女はゾンビの頭を正確に狙撃したが、一人を倒せば、三人がその代わりを務めた。彼女は、新しいエネルギーセルをリロードしながら、きつく歯を食いしばった。

 一機のリーパーが、彼女のいる地点に掃射を加えようとしている!

「くそっ!ライトがいてくれたら、もっと上手くやれたはずなのに!」彼女は心の中で悪態をついた。

 その考えが、不意に頭をよぎる。彼女は、あの男の戦場での冷静な立ち振る舞いと、鋭い眼差しを思い浮かべ、そしてそれを振り払うと、間一髪で新しい遮蔽物へと飛び込んだ。

 防衛線は、崩壊し始めていた。彼らは、徐々に後退を余儀なくされていく。まだ10分しか経っていない。だが、それは永遠のようにも感じられた。既に二十人近くの仲間を失っている…。

 希望が、薄れ始めていた。



---



**[11分~25分:空からの天使]**



「奴ら、突破してくるぞ!」

 ガーが叫んだ。彼は、壁を乗り越えてきたゾンビの頭を、ライフルのストックで殴りつけた。

 誰もが、これが最期だと思った、その瞬間…。

 空から、異質な轟音が響き渡った。

 連邦の船の音ではない。機械の群れの叫び声でもない。突如、オリーブドラブに塗装された、流線形のガンシップ二隻が、プラズマの雨と共に雲を突き破って降下してきた!

 ドォン!ドォン!ドォン!

 機体下部の機関砲が、機械の群れに容赦なく炸裂弾を浴びせた。数機のリーパーが一瞬で引き裂かれる。そして、一隻が側面ハッチを開き、敵陣の中央に小型ミサイルを叩き込んだ。

 大規模な爆発が、猟犬とゾンビの半分近くを吹き飛ばした!



「インワン・フリーダムの船だ!」サトウが、歓喜の声を上げた。

 航空支援の出現は、戦況を完全に覆した。

 それは、地上の戦士たちに、時間と、そして計り知れないほどの士気をもたらした。彼らは、その隙を突いて反撃し、防衛線を再構築した。

「信じられない…本当に来たんだ」エララは、頭上を旋回して護衛するガンシップを見上げながら、呟いた。

「あるいは…」サトウは、新しいエネルギーセルを銃に込めながら言った。「あのライトという若者の行動が、インワンが待ち望んでいた狼煙のようなものだったのかもしれない。奴らは状況をずっと監視していて、元連邦の第七部隊の男が自ら反旗を翻したことが、この惑星が戦う準備ができたという、明確な合図になったんだ」

「それって…彼が捕まったのは…」エララが言いかけた。

「彼の犠牲は、決して無駄ではなかったということだ」サトウが、彼女の言葉を締めくくった。

 その言葉に、エララの胸が締め付けられた…。

 罪悪感と感謝が入り混じり、彼女の心をかき乱した。



---



**[26分~30分:最後の抵抗]**



 機械の群れが、適応し始めた。

 無秩序な突撃をやめ、残ったリーパーがガンシップへの迎撃射撃を開始する。その間に、ゾンビと猟犬が、最後の突撃のために再集結した。

 突如、地面が激しく振動した。

 そして、数多の船の残骸と死体を融合させて生まれた巨大な機械の怪物が、地中から姿を現した。それは咆哮し、破壊的なエネルギー光線をガンシップの一隻に放ち、撃退した。



「航空支援がやられた!奴らがまた来るぞ!迎え撃て!」ガーが叫んだ。

 これが、最後にして、最も激しい攻撃になる。

 これを凌げなければ、全てが終わることを、誰もが知っていた。

 彼らは、狂ったように戦った。最後の一発の弾丸、最後の一つ爆弾を使い果たすまで。

 エララは最前線に立ち、銃が焼き付くほど撃ち続けた。彼女は、自分たちが限界に近いことを悟っていた…。

 もう、持ちこたえられない…。



 そして、最後のコンテナの壁が破壊された、その瞬間…。

 機械の群れが、彼らの元へなだれ込もうとした、その瞬間…。

 彼らの頭上の空が、再び閃光に包まれた…。



 だが、今度は二隻だけではなかった…。

 インワン・フリーダムの数十隻からなるフリゲート艦隊が、一斉に次元から跳躍してきたのだ!

 巨大な輸送船のハッチが空中で開き、オリーブドラブの戦闘装甲に身を包んだ数百人の兵士が、ジェットパックで降下してくる。

 軌道上の戦闘艦からの裁きの光が、機械の怪物を撃ち抜き、その体を一瞬で粉砕した。



 その光景は、奇跡のようだった…。

 暗闇と絶望の只中に…希望の軍隊が、本当に現れたのだ。

 エララは、安堵のあまり、その場に崩れ落ちた。

 彼女は、インワン・フリーダムの軍隊が、素早く状況を制圧していくのを見つめていた…。

 30分間の生存を賭けた戦いは、終わった…。

 だが、惑星サムを解放するための戦いは、まだ始まったばかりだった。



---



 ジェットパックのエンジン音が、空に轟いた。

 オリーブドラブの装甲に身を包んだ数百人の兵士が、プログラムされたかのように整然と地上に降下する。彼らは小隊単位で動き、素早く陣地を確保し、新たな防衛線を構築していった。

 彼らが手にする武器は、エララたちが持っていたものより、明らかに新しく、そして強力だった。

「アルファ部隊、東セクターを掃討!」「ブラボー部隊、防壁ラインに重火器を設置!」「チャーリー部隊、民間人を護衛しろ!」

 空に浮かぶ戦闘艦も、正確無比なレーザーで残存する機械の群れを次々と破壊していく。

 それは、効率性と威厳に満ちた軍事作戦だった。絶望的な戦いを生き抜いたばかりのサムの戦士たちは、疲労と、そして畏敬の念を抱きながら、その光景をただ見つめていた。



 ほどなくして、一隻の輸送船が宇宙港の中央に着陸した。ランプが開き、一般兵とは異なる指揮官用の装甲をまとった男が、二人の護衛兵と共に降りてくる。彼は、立ち上がろうとしていたエララ、サトウ、そしてガーの元へと、まっすぐに歩いてきた。

「私が、インワン・フリーダムのヴァレリウス司令官だ」男は、静かだが力強い声で名乗った。「ジャック司令官から、諸君への敬意を預かっている…。我々の予測を、遥かに超えて持ちこたえてくれた」

「我々は…あなた方を、ただの伝説だと思っていました」サトウが、全員を代表して言った。

「伝説は、常に実在する…自由を信じる者がいる限りな」ヴァレリウス司令官は答えた。「これは、始まりに過ぎない。安全な防衛線を構築した。私の部隊の医療班が、諸君の負傷者の手当てに向かっている」

 彼は一瞬、言葉を切り、そしてエララを真っ直ぐに見据えた。「今…状況の全てを報告してもらいたい…。連邦が諸君にしたことから…そして、最も重要なことだ…『ライト』という男について、知っている全てを話してくれ…。DECビルを爆破した、あの男について」

 その言葉に、エララの心臓が跳ねた…。

 ライトの無謀とも思える行動は、彼らに時間を稼いだだけでなく、別の惑星の解放軍にまで、その衝撃を届けていたのだ。



 インワン・フリーダムの医療班が、手際よくエララたちの傷を手当てしていく。小さな傷の痛みが、自分がまだ生きていることを実感させた。彼女は周りを見渡した…。

 システム化されて動くインワンの兵士たち、瞳に希望の光を取り戻し始めたサムの仲間たち、そして、山と積まれた機械の残骸…。

 その全てが、一時間も経たないうちに起こったのだ。

 彼女は、今や来訪者の戦闘艦で埋め尽くされた空を見上げた…。

 もう、一人ではない。だが、この先の道はどうなるのだろう?インワン・フリーダムの到来は、解放か…それとも、より大きな戦争の始まりなのか?

 そして彼女の最後の思考は、再びあの男へと戻っていった…。

 この希望の火を灯し、そして自らは闇へと連れ去られた男…。

 今頃…あなたはどうしているの…ライト。



---



 ――高セキュリティ刑務所「アストレア-07」、惑星サム軌道上。



 暗闇…沈黙…そして、鋼鉄の冷たさ…。

 それが今、ライトが感じられる全てだった。

 彼は独房の片隅で膝を抱え、かつて炎を宿した瞳は、今は虚ろに、ただ金属の壁を見つめている。

 連邦兵に繰り返し殴打された傷の痛みはまだ残っているが、それ以上に、彼の心を苛む痛みがあった。

『終わった…全て、終わった』彼は繰り返した。『正しいことをしようとした…だが、結局、何も変わらなかった…。裏切り者、犯罪者の烙印を押されて…』灯されたばかりの希望は、瞬く間に燃え尽き、絶望の灰だけが残った。



 だが…その静寂の中…。



 ドォォォン!!!



 刑務所のどこかで起こった轟音が、彼の独房を揺るがした。

 ライトは驚愕に飛び起き、顔を上げた。

 廊下中に深紅の警報が点滅し、耳をつんざくようなサイレンが鳴り響く。

「何が起きた!暴動か!」彼の独房の前にいた看守が、慌てふためいて叫び、そして監房ブロックから駆けだしていった。

 次の瞬間、看守が走っていった方向から、ブラスターの銃声が鳴り響いた。激しい銃撃戦の音、爆発音、そして連邦兵の苦痛に満ちた叫び声が、交互に聞こえてくる。

 ライトは独房のエネルギー障壁に這い寄り、小さな覗き窓から外を窺ったが、遠くで明滅するレーザーの光しか見えなかった。

 戦闘は数分間、激しく続いた後、突然、静寂が訪れた…。

 不気味なほどの、静寂が…。

 ライトは息を飲んだ…。

 重々しい装甲の足音が、徐々に近づいてくるのが聞こえる…。

 だが、その歩調は、彼の知る連邦兵のものではなかった。

 そして、その影が、彼の独房の前に現れた…。



 オリーブドラブのコンバットスーツに身を包んだ兵士…。

 その肩には、翼と交差する剣の紋章が…インワン・フリーダム!

 その兵士は一言も発さず、ドアの横のコントロールパネルに電子機器を差し込んだ。エネルギー障壁が、静かな音を立てて消える。彼は、ライフルを独房に向けた。

「出ろ…まだ生きたければな」



 ライトは、目の前の光景が信じられず、呆然と立ち上がった。

 外に出ると、インワンの兵士たちが、他の独房からも囚人たちを解放しているのが見えた。

 そして彼らは、ただの囚人ではなかった…ライトも、ニュースでその顔を見たことがある者たちがいた…。

 連邦に危険視される理論を発表した量子物理学の教授、占領の日に投降を拒否した元惑星サム軍の女性将軍、反体制派の政治家、そして、抵抗を続けた多くの知識人たち…。

 ここは、ただの牢獄ではない。反逆者たちの「頭脳と心臓」を幽閉する場所だったのだ。



「あなたたちは誰だ…なぜ、我々を?」ライトは、彼を解放した兵士に尋ねた。

「我々の任務は、革命において最も価値のある資産を救出することだ」兵士は、平坦な声で答えた。「それには、敵の司令部を爆破する勇気を持った、元第七部隊のメンバーも含まれる…。ジャック司令官が、あなたに会いたがっている」

 その瞬間…ライトは悟った。

 自らの、絶望的で無謀とも思える行動が、失敗に終わったのではなかったことを…。

 それが、始まりだったのだと…。

 彼が想像していたよりも、遥かに大きな解放戦争の…。



 ライトは、今や小規模な戦場と化した刑務所の廊下を、インワン・フリーダムの兵士に続いて歩いた。

 彼の周りは、迅速かつ激しい戦闘の痕跡で満ちていた。壁にはプラズマ弾の焦げ跡、要所には連邦の看守たちの死体が転がり、いくつかの場所では、ステーションの外壁が破壊され、広大な宇宙空間と遠い星々が見えていた。

 彼は、解放部隊の動きを見た…。

 彼らは、まるで戦争機械のように、組織的かつ効率的に動いていた。心と憎しみで戦っていたサムのレジスタンスとは違う。これらの兵士は、高度に訓練された戦術と規律で戦っていた。

 他の元囚人たちが、静かに後に続く。その顔には、安堵、不信、そして新たに灯された希望など、様々な感情が入り混じっていた。



「船に乗れ!急げ!」

 彼らが緊急ドックに到着すると、一人の兵士が叫んだ。

 インワン・フリーダムのドロップシップが一隻、既に待機している。ランプは、宇宙の暗闇に向かって開かれていた。ライトたちは、急いで中へと乗り込んだ。

 最後の人間が乗り込むと、ランプは即座に閉じられ、外の戦闘の音は完全に遮断された。船内には、エンジンの静かなハミングと、薄暗い赤い照明だけが残された。ライトは、冷たい金属の壁に寄りかかって座り込んだ。

 傷の痛みと疲労が、再び彼を襲う。

 一人の兵士が、小さな注射器を持って彼に近づいてきた。

「覚醒剤と鎮痛剤だ」彼は、平坦な声で言った。「司令官の命令だ…旗艦に着くまで、あなたのコンディションを維持しろと」

 ライトは何も答えず、ただ頷き、兵士が腕に注射するのを許した。

 血管を走る冷たい感覚と共に、痛みが急速に和らいでいく…。これは、心配からの手当てではない。ただの、一つの「資産」の「メンテナンス」に過ぎなかった。



 彼は、船の小さな窓から外を覗いた…。そして、その光景に、息を飲んだ。

 インワン・フリーダムの数百隻からなる戦闘艦隊が、燃え盛る宇宙刑務所の残骸を包囲するように、威厳ある陣形で展開していた。そして、その遥か先…。

 惑星サムが見える…今や、その赤茶色の地表に、小さな赤い点が、断続的に明滅している…地上の戦闘の光だ。

 ドロップシップは、艦隊の中で最も巨大な戦闘艦へと直行した…。

 他の船が小さく見えるほどの、巨大な旗艦へと。

 広大な格納庫に着艦すると、そこは、忙しく動き回る兵士や技術者で溢れていた。再び、ランプが開かれる。

「来い」

 同じ兵士が、ライトに言った。「ジャック司令官が待っている」

 ライトは、深く息を吸い込み、そして後に続いた。彼はドロップシップを降り、本物の革命軍の心臓部へと足を踏み入れた。

 彼の目の前には、固く閉ざされた巨大な防爆扉へと続く、長い通路があった…。

 彼と、この戦争の伝説であり、未来である男とを隔てる、その扉へと。



 彼の過去は、あの独房で終わった…。

 だが、彼の現在と未来は…。

 この扉の向こう側で、始まろうとしていた…。



---



### **第一章・エピローグ**



 インワン・フリーダム旗艦「ヴィンディケーター」のブリッジにて…。

 そこは、緊張感をはらんだ安堵の空気に満ちていた。

 数十人の士官が、静かだが効率的に自らの任務をこなしている。中央のメインホログラムには、軌道上から見た惑星サムが映し出され、生存者を最後の輸送船へと移送している味方を示す、緑のシンボルが点滅していた。



「ヴァレリウス司令官より報告」

 地上部隊の司令官の声が、通信システムを通して響いた。

「民間人、及び惑星サム解放戦線の兵員の避難、完了。最後の輸送船が、現在離陸中です、司令官」

「了解した」

 巨大なホログラムの前に立つ男が、応えた。彼こそが、「ジャック」。司令官の制服を身にまとい、眼下の惑星を静かな眼差しで見つめている。

「我々の損害は?」

「予測よりも軽微です。ですが…」ヴァレリウスは、言葉を濁した。「分析チームから、懸念すべき報告が上がっています」

 突如、情報部の士官の一人が振り返った。「司令官!奴らのエネルギーパターンの解読に成功しました…その結果ですが…」

 ジャックは、目を細めた。

「言え」

「我々が地上で交戦した機械化部隊は…その全てが、最低レベルの偵察ユニットでした」

 士官は、震える声で報告した。

「惑星サムの地殻下で、膨大な生体エネルギーと機械エネルギーが拡大しています…奴らは…星を丸ごと、内側から『捕食』しています」

 ホログラムが、エネルギーのスキャン映像に切り替わった。そこには、惑星全体に急速に広がる菌類のように、深紅の繊維が映し出されていた。

 ブリッジを、沈黙が支配した…。

 彼らがついさっき手にした勝利が、今や、全く無意味なものに思えた。

 ジャックは、その映像をしばし無言で見つめ、そして、断固として決断を下した。

「命令だ…全艦、惑星サムの軌道から即時撤退…。予備の集結ポイントへ向かえ」

「しかし、司令官…」

「『しかし』はない」ジャックは、平坦だが、絶対的な声で言った。「惑星サムは…終わった。我々の今の任務は、生存者を一人でも多く生かすことだ…。即時、撤退せよ」



---



 ――一日後。



 インワン・フリーダムの全戦闘艦は、安全な距離まで後退し、長距離望遠鏡で惑星サムを監視していた。

 約三世紀にわたり、人類の故郷であったその惑星は、今や、完全にその姿を変えていた。赤茶色だった地表は、怪物の心臓のように、ゆっくりと脈打つ、どす黒い生体金属の外殻に覆われている…。奴らは、惑星サムの完全な掌握に成功したのだ。



 旗艦「ヴィンディケーター」にて、治療を受け、完全に意識を取り戻したライトは、ジャック司令官が待つ会議室へと向かっていた…。

 彼が命を懸けて守ろうとしたその惑星が、もはや存在しないことを、知らずに…。

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