GalacXER 銀河の執行者

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第二章13 "ライトの傷跡、癒えゆく中で"

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惑星ヴェリディア星系での勝利は、ザン・セクター全域に語り継がれる新たな伝説となった。ライトキャプテンと「幻影ファントム・ストライク」チームによる「トロイの木馬作戦」は、誰もが予想だにしなかったほどの甚大な影響をもたらした。



艦「ヘカトンケイル」へのハッキングと、それに続く機械の群れの制御信号の混乱は、連邦最強の兵器を、自らを滅ぼす災厄へと変えた。強力な護衛艦隊は、制御を失った自らの機械の群れに襲われ、壊滅。そして、ジャック司令官とベアトリス提督率いる同盟艦隊が到着した時、彼らが直面したのは、混乱し、指揮系統を完全に失った連邦の残存艦隊だった。宇宙戦争は、同盟軍の完全勝利で幕を閉じた。



今や、革命軍はただ強力になっただけではない。彼らは、最強の新たな力、今や完全に革命軍の資産となった母艦「ヘカトンケイル」と、捕虜となった数万の連邦兵を手に入れたのだ。



--- **秘密基地「合流点」、医務室にて** ---



数日が過ぎ、ライトはゆっくりと目を開けた。慣れ親しんだ消毒液の匂い。しかし、彼が見上げた天井は、もはや戦闘艦の金属の天井ではなく、清潔な白い、大きな医務室の天井だった。体はまだ包帯だらけだったが、痛みはずいぶんと和らいでいた。彼は部屋の大きな窓の外を見た。そこには、巨大な整備ドックに静かに佇む「ヘカトンケイル」の姿があった。あの狂気の勝利が、現実であったことを証明する光景だった。



静かに部屋のドアが開き、ウィリアム王子とステラ王女が入ってきた。



「ライトキャプテン…」ステラ王女が、心からの感謝に満ちた声で、最初に口を開いた。「マリアン・コンバインの全国民を代表して、感謝いたします。貴方は、私たちが失われたと思っていた希望を、取り戻してくださいました」



「貴官の行動は、少々型破りであったかもしれんがな、キャプテン」ウィリアム王子が付け加えた。その声は格式ばっていたが、その眼差しには尊敬の念を隠すことはできなかった。「だが、その結果が全てを証明している。貴官は、我々の敬意を勝ち取った」



「任務を果たしたまでです。そして、私には良いチームがいました」ライトは静かに返した。



「しかし、この勝利は始まりに過ぎない」ウィリアムは、真剣な表情で続けた。「今、連邦は混乱している。そして、我々の手には『ヘカトンケイル』がある。同盟評議会は、全会一致で決議した。我々の次の目標は…」彼は一瞬言葉を止め、ライトの目をまっすぐに見つめた。「…惑星マリアだ」



ステラ王女が、ライトのベッドに近づいた。その眼差しは、希望と懇願に満ちていた。「貴方が必要です、キャプテン。貴方の能力と経験が。我々の故郷を取り戻すために、『ケルベロスの英雄』の力が必要なのです」



ライトは、希望に満ちた王女の顔と、決意に満ちた王子の顔を交互に見た。ただ生き残るために始めた戦いが、今や何百万もの人々の惑星を解放するための戦いへと変わっていた。彼は、その願いに応えるように、ゆっくりと頷いた。



その返答に、ステラ王女の目が揺らぎ、青い瞳に涙が浮かんだ。それは、心からの安堵と希望の涙だった。「ありがとう…」彼女は囁いた。「本当に、ありがとう…キャプテン」



「では、話は決まったな」ウィリアム王子は、妹を護衛官に任せ、会議の準備のために部屋を出て行った。



---



王子が去って間もなく、医務室のドアが再び開いた。エララを先頭に、ガーとボルクが果物の籠を運び、サトウが続いて入ってきた。



「キャプテン!目が覚めたって聞いて…」ガーが陽気に叫びかけたが、その場の光景に、全員が凍りついた。ステラ王女が、ベッドのそばでライトの手を握っていたのだ!



「王女殿下!」エララは慌ててお辞儀をした。「お、お邪魔するつもりは!」



その気まずい雰囲気の中、最後の人物が姿を現した。リクター医師と、彼の後ろに静かに続く、マキだった。彼女は、エララたちとは別に、偶然同じタイミングでライトを訪ねに来たようだった。



彼女の二色の瞳が、部屋の全体像を素早く捉えた。ベッドの上のライト、親しげに彼のそばに立つ王女、そして、一団となって固まるザムからの生存者たち。彼女の顔は無表情だったが、室内の空気は、即座に数度、冷え込んだ。



今、ライトに関わる全ての重要人物が、一つの部屋に集結した。そして、その気まずい沈黙の中心には、これから巻き起こるであろう新たな嵐の中心、ライトがいた。



---



「さてさて、病人は休息が必要だよ」リクター医師が、その空気を和らげるように言った。その言葉を合図に、人々は次々と部屋を辞去していった。エララたちも、心配そうにライトに別れを告げ、部屋を出て行った。



ついに、部屋には再び静寂が訪れた。しかし、マキは、まだ帰っていなかった。



彼女は、ドアが閉まるのを待ち、そして、ゆっくりとライトのベッドへと歩み寄った。



「マキ、何か?」ライトが尋ねた。



彼女は答えず、その視線は、王女が先ほどまで触れていた、ライトの手に注がれていた。やがて、その視線は、彼の肩の傷へと移った。そして、彼女は手を伸ばした。



グッ!



彼女の細く、しかし鋼鉄の万力のような指が、彼の傷口を容赦なく握りしめた!



「ぐあああああっ!!」



ライトは、刺された時以上の激痛に絶叫した!マキは、身を乗り出し、彼の耳元で冷たく囁いた。



「王女が、貴様の手に触れていたな。感動的な光景だ。暖かく、希望に満ちていた」彼女は、さらに力を込めた!「だが、そのような感触は、人を油断させる。人を『弱く』する」



彼女の声は、不気味なほど低くなった。「だが、この痛みこそが真実だ。これこそが、『我々』が生きる世界の真実だ、キャプテン。傷と、裏切りと、生存競争に満ちた、私の世界、そして、お前の世界だ」



彼女は、痛みと驚愕に見開かれたライトの目を見つめた。「次に、あの王女の優しい感触が貴様に痛みを忘れさせようとした時は、私が、お前に現実を思い出させてやる。わかったか?」



そう言うと、彼女は手を離し、静かに部屋を出て行った。



ライトは、激痛と混乱の中で、自分の傷を抱えながら身を震わせた。彼は、マキのこんな側面を、これまで見たことがなかった。それは、プロとしての冷徹さではない。それは、危険で、歪んだ、「嫉妬」そのものだった。



(彼女は、俺が他人を頼ることを、他の誰かから安らぎを得ることを、恐れているのか?)ライトは、その痛みの奥にある、彼女の真意に気づいた。(これは恋人同士の嫉妬ではない。これは、見捨てられることを恐れる『兵器』の、心の底からの恐怖だ)



マキは、ライトが他の誰か、特に「普通の平和な世界」の象徴である王女と絆を深めることが、兵器としての自分の存在意義を脅かすと感じていたのだ。



---



その夜、ライトは疲労困憊のあまり、深い眠りに落ちていた。ステラ王女は、再び彼の病室を一人で訪れていた。彼女は、眠っている彼のそばの椅子に静かに腰掛け、そっと彼の手を握った。



「貴方は、あまりに多くのものを背負いすぎています、ライトキャプテン」彼女は、眠る彼に囁いた。「ですが、もう一人ではありません。私がいます。全てが終わった時、貴方は安らぎを得るのです。貴方自身の、花畑を」



しかし、その時、眠っているライトの眉がひそめられ、彼の唇が、夢の中で、か細く名前を呟いた。



「…エララ…気をつけろ…」



ステラの心臓が、ドキリと跳ねた。そして、さらに小さな、風の囁きのような声で、二番目の名前が漏れた。



「…マキ…」



ステラの手が、彼の手の上で凍りついた。彼女の優しい笑みは、ゆっくりと消えていった。最初の瞬間、それは、始まる前に拒絶されたかのような、小さな「痛み」だった。



しかし、次の瞬間、彼女の聡明さと他者への理解力が、その感情を乗り越えた。(エララ…ザムの火花。彼の新しい人生の、最初の絆。そしてマキ…過去からの亡霊。彼が来た、過酷な世界を理解する唯一のパートナー)彼女は、静かに息を吐いた。(では、私は?彼にとって、私は何者なのでしょう?彼が一度も触れたことのない、平和の象徴。別の世界の王女…)



彼女は、怒りも、憎しみも感じなかった。ただ、この男の心が、どれほど複雑で、傷だらけであるかを、「理解」したのだ。



彼女は立ち上がり、そっと、彼の肩の毛布をかけ直した。それは、純粋な思いやりに満ちた行為だった。



彼女は、最後に一度だけ彼の寝顔を見つめ、そして、自分自身に小さく囁いた。



「どうやら、貴方の心も、同じくらい激しい戦場なのですね、ライトキャプテン」
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