牢獄王女の恋

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 十六歳の誕生日は特別だとシャロンが言う。
 なにが特別なのかはコーデリアにはわからなかったが、例えば服装もワンピースにエプロンは卒業だという。
 だからその支度をしなくてはいけないとシャロンとラリサで大忙しだ。
 ガブリエルも一緒に街へ行き生地を見たり、作るドレスに合わせて靴や小物も必要だと揃えたりと大忙しだ。
 当のコーデリアはあまりピンとこない。
 今日も以前ガブリエルからクリスマスのプレゼントでもらった双眼鏡とお土産でもらった鳥の図鑑を手に林のなかでバードウォッチングをしていた。
 ここに来て暫くの頃は家から出てはいけなかったが、少しずつ屋敷の周りなら出ても良くなり、今では屋敷から少し離れたこの林までは来ても良いことになった。もちろん日が沈む前には戻らなくてはならない。
 一度迷子になった時はガブリエルは怒るしシャロンにも散々小言を言われた。
 モーガンとラリサに至っては泣き出しそうになったし、エミリーは暫くりんご禁止にすると言い出すので焦ってしまった。
 みんなに心配かけたことはちゃんと反省しているので、ちゃんと知っているところしか行かなくなったし日が暮れる前にはちゃんと帰る。
 林を抜けるとバートの家があって、その牧場にはヤギがいる。
 バートに逢ってヤギに触れるのもコーデリアの楽しみのひとつだ。
 真っ白いヤギはかわいいし、バートとお喋りするのも楽しい。バートは動物に詳しいし豚も飼っていて見せてくれたりする。

「バート! ごきげんよう!」
「やあ、コーディ」

 バートは迷子になった時に出会って、そのあと暫くしてヤギを見せてもらいに来てから仲良くなった。
 お屋敷のお嬢様なのかと聞かれたのでちがうと答えたら『コーディ』と呼んでくれるようになった。

「今日も鳥を見てきたの?」
「うん。オオルリは見られなかったから残念」

 オオルリはコーデリアの一番大好きな鳥だ。瑠璃色がとてもきれいで囀りも美しい。
 バートはいつもヤギを撫でて少しの時間を過ごした後、屋敷の近くまでお喋りしながら送ってくれる。
 もう迷子になったりはしないけど、楽しいからいつも送ってもらっている。

「あのね。わたし来月誕生日なの。だからその準備でオオルリと同じ色のドレスを作ってもらったの」
「いくつになるの?」
「十六歳」
「同じ年だったのか。コーディ、本当にお嬢様じゃないの?」
「うん、ちがう。あそこの家の子じゃないもの」

 アディンセル侯爵邸で暮らしてはいるが、ガブリエルとはなんの繋がりもない。
 実は最近それがコーデリアの悩みの種でもある。
 ガブリエルはどうして自分をあの家に置いてくれるのか。遡るとどうしてあの牢獄から救い出してくれたのか。あの時に逢ったマイルスとダイアナは何者なのか。
 更に遡るとどうして自分と母はあんなところに入れられていたのか。
 自分は誰なのか。なぜ自分は性がないのか。
 考え出すと不安になって夜中にガブリエルのベッドに潜り込んでしまうこともある。
 聞いてみようか。ガブリエルなら答えを知っているはずだと思うのだが、なぜか聞けない。
 それを知ったら今が一変してしまう気がするのだ。
 本当に大切なことだったらガブリエルが教えてくれない訳がない。それを教えてくれないのだと言うことは大切なことじゃないか、コーデリアには言えない秘密があるのかもしれない。
 コーデリアはずっとこのままガブリエルの側にいたい。ここで暮らしていたい。
 少し前まではあの牢獄に戻らないのならそれだけでよかったが、今は色んな疑問のなかでここに居たいがために黙っている。
 本当は知りたい。でもここに居るために、今が変わらないように聞けないでいた。
 きっといつかガブリエルが教えてくれるはず。そう思って待っているのだが、心のなかに常に疑問は巣食っている。
 ガブリエルを信じている。ガブリエルが追い出したりはしないとシャロンも言ってくれている。
 それでもその保証がない状況で、今のままでいたいからなるべく考えないようにした。



 バートと手をつないで歩いていると後ろから馬車の蹄と車輪が転がる音がして、ふたりは脇に避けた。
 馬車はふたりを越して少し進んでから止まる。コーデリアは気が付いた。アディンセル侯爵家の馬車だと。
 出掛けていたガブリエルが帰って来たのだ。

「ガブリエルだ!」

 コーデリアはバートの手を引いて馬車に駆け寄ったが、勢いよくキャリッジのドアが開いた。
 飛び降りて来たのはもちろんガブリエルだ。

「ガブリエルおかえりな……」
「お前はなにをやっているんだ!」

 コーデリアの言葉を遮って地面に降り立ったガブリエルが怒鳴った。
 不意打ちの怒りにコーデリアとバートは驚いて固まった。

「なんでこんなところで男と手をつないでいるのかと聞いているんだ!」

 ガブリエルの眉が尖って目も吊り上がっていた。コーデリアはガブリエルがなぜこんなに怒っているのかは理解出来ていない。
 きょとんとした顔でガブリエルを見上げると、苛立ったようにガブリエルはバートと繋いでいた手を掴んで引き寄せた。

「君はオルガのところの次男だったな。コーデリアと何をしていた」

 ガブリエルはコーデリアの肩を抱いて自分の身体の中に入れるようにした。引かれた腕もしっかり掴まれている。

「あの、コーディがヤギを見に来たので、送ってい……」
「コーディ? コーディとはコーデリアのことか? 君はコーデリアとはどんな関係だ!」

 ガブリエルがバートの言葉を遮って怒鳴る。固まったバートの代わりにコーデリアはガブリエルの胸を掴んで揺さぶった。

「バートは友達です。いつもヤギを触らせてくれて、帰りは送ってくれるの」

 揺さぶられてコーデリアを見下ろしたガブリエルは大きなため息を吐いた。
 黙ったままコーデリアを担ぎ上げるとキャリッジの中に押し込んだ。

「ガブリエル?!」
「お前は黙っていろ」

 ドアを閉めてコーデリアを隔離すると、ガブリエルはバートに向き直った。

「なぜコーディと呼んでいる。彼女は君がそんな風に呼んでいい娘ではないぞ」
「コ、彼女が、自分はお嬢様じゃないと。領主様とは関係がないと……」
「正真正銘貴族の娘だ。手をつないで親しくしてはいけない。もう君の所へは行かせないが、もし行ったとしても話しかけてはいけない。わかったか?」
「……はい」

 ガブリエルはバートを威圧し、バートはガブリエルから発せられるオーラにそれ以上口を開くことが出来なかった。

「コーデリアが世話になったことには礼を言う。送ってくれてありがとう」

 最後にバートの肩を撫で、それでも尖ったままの眉でガブリエルはキャリッジに乗り込み馬車を発進させた。
 バートは固まったままでそれを見送った。

 隣に座るガブリエルは明らかに怒っている。しかしコーデリアにはガブリエルの怒りは理解出来ない。
 バートと遊んでいけない理由がない。
 せっかく出来た友人を怒鳴り、理不尽なやり方に驚いていただけのコーデリアだったが段々と胸の中に怒りが込み上げてくる。

「コーデリア。話しは帰ってからだ」

 コーデリアの手がスカートの上で握られているのに気が付いたガブリエルが釘を刺した。
 ここで済む話ではないと言うことだ。
 それならばコーデリアにも言いたいことはある。屋敷に着くまででは足りないほどに。
 ふたりは黙って馬車に揺られた。




 *****




 屋敷に着くとそのまま真っ直ぐコーデリアの部屋に向かった。
 ガブリエルは暫く誰も近づかないようにと言いドアを閉めた。
 ラリサもモーガンもふたりの唯ならぬ様子に慄いて心配した。
 いつもならガブリエルが怒っていてもコーデリアは怒られる側なのでまたなにかやらかしたかな?と思うだけなのだが、今日はコーデリアも明らかに怒りを表に出している。
 コーデリアが怒りを表すようなことはこの屋敷に来てから記憶にない。今のようなことは初めてなのだ。



 部屋に入ったふたりは立ったままで向き合った。
 ガブリエルが座るように促したが、コーデリアは言うことを聞かなかった。

「お前は自分がなにをやっているのかわかっているのか?」

 最初に口を開いたのはガブリエルだ。
 眉は尖ったままで、呆れているようにも見える。

「バートと遊ぶののなにがいけないの?」
「彼とお前では違う。それに年頃の娘が男性と手をつないで公に歩いていい訳がない」

 それなのだ。今まさにガブリエルが言ったことがコーデリアが引っかかっている原因なのだ。
 
「バートとわたしのなにがちがうの?」
「お前と彼では身分が違う」
「身分ってなに? わたしの身分はなんなの?」

 これを今聞いていいことなのか。この話をしたら遡ってコーデリアが何者なのか、どうしてこうなっているのかに繋がっていくかもしれない。
 それをガブリエルが話してくれていな状態なのに、聞いてもいいのか。教えてくれるのか。
 知った時にどうなるのか。現状が崩れたりはしないのか。
 コーデリアの胸の中には不安が渦巻いていた。
 理由も言わず従えというのには怒りを覚えるのだが、コーデリアの疑問をこの場で聞き出すにはまだ心の準備も覚悟もいきなり過ぎている。
 しかしもう黙っていられない。
 説明も無しに怒られるのはちがうと思う。

「貴族の娘が平民の男と手をつなぎ歩いていいと思うのか?」
「わたしは貴族の娘なの? わたしはコーデリアとう名前しか知らない。どこの貴族の娘なの? ガブリエルの娘ではないんでしょ?」

 コーデリアの問にガブリエルが黙った。
 知っているはずのことをコーデリアに言うのを迷っているようだ。

「ずっと気になっていたけど、聞けなかったの。ガブリエルが教えてくれないってことは聞いてはいけない事なんじゃないかって。でも、わたしは本当に貴族の娘なの? わたしの性は?わたしの父親はいるの?」

 溢れるなと自分に言ってみるのだが、一度口に出すと疑問はいくらでも出てくる。

「どうしてわたしはあんなところにいたの? どうしてガブリエルはあそこから連れ出してくれたの? どうしてわたしはここにいられるの?」

 普通の暮らしをして、本を読んで知恵を得て。貴族と平民の違いを知っている。父親という存在があることを知っている。あそこが罪人の住まう牢獄だとも知ってしまっている。
 母は罪人だったのだろうか?なぜ自分だけ助けられたのか。どうしてガブリエルが自分を保護しているのだろうか。
 わからないことだらけをいつか教えてもらえる時が来ると我慢していたが、口に出してしまったら止まらない。

「コーデリア座りなさい。怒って悪かった。落ち着いて話をしよう」

 ガブリエルの尖っていた眉が下がった。
 やはりガブリエルはこの事を教える気はなかったのだ。それが今だけなのか、この先もなのか。

「お前は高位貴族の娘だ。それは間違いのないことだ」

 コーデリアを座らせガブリエルも隣に座った。
 ひと呼吸を置いて先ほどとは打って変わった落ち着きのある声でガブリエルは話し始めた。
 
「このことをきちんとお前に説明しなかったオレが悪い。モーガンやラリサがお前に『様』を付けて呼んでいるのはお前の立場が上だからだ。だがオレの娘だからではない。オレとお前に血縁はない」

 聞いてはみたが、ガブリエルが父親だとは思っていなかった。以前シャロンがガブリエルに『パパ』と言ったことがあったが、すぐに『馬鹿言うな』と否定していた。
 侯爵のガブリエルが平民をこの待遇で預かるはずもないので自分が貴族の娘なのだろうとも、薄々わかっていた。それが高位だというところまでは想像していなかった。

「ある方からお前を預かっている。今はそれしか言えない。お前の疑問はなんの解決にもならないことはわかっているが、これ以上は言えない。お前の生い立ちも含めこの先のことも、時期が来たら必ず始まりから先のことまですべて話す。その時まではお前にどう言われようとも話せない」

 やはりガブリエルはすべてを知っていて話さない。時期が来れば話せるのに今話せないのはなぜなのか。

「どうしてそれを今話せないの? 時期を今にしてすべて話してくれることは出来ないの?」
「出来ない。お前はまだ成長の途中だ。まだ知らないことを沢山勉強しなくてはならない。お前が十八歳になったら、その時に話そうと考えていた。今もそのつもりだ」

 十八歳になったらと言われた途端、コーデリアを言いようのない不安が襲った。
 ガブリエルがそう言ったわけではないが、十八歳になったらここを出て行かなくてはならないのかもしれないのかと考えてしまったからだ。
 根拠はない。でもはっきりと十八歳と期限を切られたせいでそうなのじゃないかと考えてしまったら、それが本当のように思えてくる。

「わたしはここにずっといたい。ずっとずっといたい。他の所には行きたくない。それを聞いたら他所に行かなくてはならないなら……」

 聞かなくてもいいとは言えない。知りたい気持ちは強くある。
 あんなところに理由もなく入れられるわけがないのは誰にだってわかる。その理由は母の死にも繋がっている。自分の出生にも繋がっている。そして父親にも。
 それを知らなくていいと言い切れるだろうか。それを捨ててここに居ることを選ぶと。

「難しいことだとは思う。お前の気持ちもわかるが、お前のことはオレが責任を持っている。オレを信じて時が来るのを待て」

 ガブリエルはここにずっといていいとは言わない。時が来たらコーデリアがここを離れるのは決定されていることのように感じた。

「お願いガブリエル。ここに居ていいと、ここから追い出したりはしないとだけは口に出して言って。じゃないとわたしは安心出来ない」
「例えば女性は結婚したら嫁ぎ先に住む。ここにずっといることはお前が一生独身ということになるぞ?」

 話しをはぐらかしている。
 コーデリアはガブリエルの腕に縋りついた。

「一生独身でいいの。ここにいたい。ガブリエルの側にいて、シャロンやラリサたちといたいの」
「わかっている。大丈夫だ。決してお前が不幸になるようなことをオレはしない。だからお前も軽はずみな行動をしてはいけない。バートのことが好きなら厳しいことを言うが、彼とは付き合えない。もう逢いに行ってはいけない」

 またはぐらかした。
 コーデリアはバートが好きだが、たぶんガブリエルの言っているのとは違う。良い友達だと思っている。
 ガブリエルがもう逢うなと言うなら我慢することは出来る。
 今はバートのことではなくて、ずっとここに居ていいと言って欲しい。
 疑問も放置されここを出て行かなくてはならない不安まで心に巣食ってしまったら、コーデリアはとてもじゃないが納得できないし落ち着くことは無理だ。

「ガブリエルお願い。一言だけ。一言でいいの。わたしはここに居ていいと言って。ずっと一緒だと言って」

 必死に縋るコーデリアに、ガブリエルは切なく眉を下げた。

「お前はここにいる。オレはお前を追い出すようなことはしない。そしてどこに居ようともお前を娘のように大事に思う。オレを信じて不安を消してくれ」

 そんなのは無理だ。不安はひとつも消えない。
 しかし話しはそれで終わりだというようにガブリエルはコーデリアの頭を撫で額にキスを落とした。

「オレはちゃんとお前を想っている。シャロンやラリサ、モーガンたちも同じだ。疑うな。みんなの愛情をひたすら受けて入れていればいい」

 肩を抱かれてコーデリアはガブリエルに身体を預けた。
 結局疑問は自分が貴族だったということ、ガブリエルとは血縁がないということ以外は解決せず。ただ十八歳になったら教えてくれる、それ以降はここにいられないかもしれないということだけがわかった。




 *****




 夕食は静かだった。
 普段はコーデリアが喋りガブリエルがそれに答えるのだが、コーデリアが静かなのでガブリエルも黙ったままだ。
 ただ気遣わし気にコーデリアの様子を窺っているガブリエルにモーガンたちは違和感を覚えていた。

 寝自宅をしているとドアがノックされた。
 ラリサが出るとシャロンが現れた。
 ガブリエルが呼んだのだろうかと一瞬思ったコーデリアだったが、気が付くとシャロンの胸に飛び込んでいた。

「あらあら。どうしたのコーデリア。わたしが必要な事態が起こったかしら?」

 いつもと変わらない微笑みのままで、シャロンはコーデリアを抱きしめてくれた。

「今日は泊っていくわ。一緒に寝ましょう」

 シャロンがコーデリアを撫でると不安が少し、今はほんの少しだが癒された気がする。
 ベッドにふたりで入ると、コーデリアいつものようにシャロンの胸に顔を埋めて、シャロンは背中を撫でた。

「ガブリエルと何かあった?」

 聞かれて言葉に詰まった。
 シャロンはガブリエルからどこまで聞いているだろうか? コーデリアのことをどこまで知っているだろうかと思ったのだ。

「ガブリエルからはなにも聞いていないのよ。それと、ここでふたりでお喋りしたこともガブリエルには言わないわ。ひとつ確かなのは、わたしはコーデリアの味方よ。何があってもあなたの味方よ」

 コーデリアの心中を察したのか、シャロンが優しく言った。

「ガブリエルの味方じゃないの?」
「ガブリエルの味方はコーデリアが悪いときはたまにするかもね。でも、ガブリエルよりもコーデリアが大事。大丈夫、ガブリエルも同じ、コーデリアが一番大事」

 コーデリアは奥歯をグッと噛み締めた。
 泣き出しそうだったのだ。

「どうしたの? ガブリエルに怒られた?」
「ちがうの。怒られたのもあるけど……」

 コーデリアはシャロンに今日あったことを話した。
 そして自分の中の疑問やこの先に起こるかもしれない想像のことも話した。
 
「そうかー。バートとのことはコーデリアが悪いわね。もう少しで十六歳になる娘が外で男の子と手をつないで歩いたりしてはいけないわ」
「はい。それはもうしません。バートに逢えなくなるのは淋しいけど、ガブリエルがダメだということはしないわ」
「バートのこと、好きじゃないのね?」
「友達だと思っていたから好きだけど、ガブリエルの方が好きだから」

 正直に話すとシャロンは笑った。

「ガブリエルはあなたの天使だものね」
「うん……」

 初めて逢った時から、ガブリエルはコーデリアの天使だ。それは今も変わらない。
 二年前は本物の天使だと思い込んでいて、今はガブリエルが人間だとわかっている。それでもやはりガブリエルは天使のような存在に違いない。

「天使のすることなど神のみぞ知る、よね?」
「うん……」
「わたしはね、コーデリアのことをどうしてガブリエルが預かったのかも、ここに来るまでのコーデリアがどういう暮らしをしていたかも知らないわ。でもね、ガブリエルが今ではあなたを娘のように愛しているのを見て、コーデリアの方がガブリエルにとっては天使なんじゃないかって思っているの。あの面倒が大嫌いな男があなたを預かると決めたことも奇跡だけど、こんなにもあなたを大切にしている姿なんて神の思し召しでもなければ無理だと思っていたわ。あなたがガブリエルを変えたのよ?ガブリエルに愛を教えたあなたは彼の天使だわ」

 シャロンの言葉にコーデリアは少なからず驚いた。ガブリエルとシャロンは愛し合っている恋人だと思っていたからだ。

「シャロンのことを、ガブリエルは愛してないの?」
「あー、そうね。コーデリアが思っているような関係ではないわね。彼のことが好きよ、でもわたしたちは情熱的に愛し合ってはいないかなー。そういう関係ではないわ。今はもうコーデリアで繋がっているって感じかな? コーデリアがいるからわたしはここに来るし、コーデリアに逢いに来たからガブリエルもわたしを迎えてくれるのよ」

 ふたりが恋人ではないことも知らなかったが、ガブリエルがコーデリアをそれほど愛してくれているというのも驚いた。シャロンよりも自分をとは思っていなかった。

「ガブリエルはわたしを愛してくれている?」
「それはもう、わたし以上にあなたを愛しているし、いつも想っているわ。本人も気が付いていないかもしれないけど、あなたが胸に飛び込むたびに愛しそうに微笑むし、いつもあなたの心配をしているわ。最初の頃からは信じられないことだけどこの三年、彼は生活のすべてをコーデリアに捧げているのよ。彼に愛されていると感じない?」

 それはちゃんと感じている。
 暖かい微笑みも、怒るときでさえそれは必ずコーデリアの為だからだ。
 縋れば必ず抱きしめてくれる、一緒に眠ってくれる。ガブリエルがくれる温もりはいつでもコーデリアに優しい。

「『お前を娘のように大事に思う』って言ってくれた……」
「本当に信じられないことよ。娘なんて冗談じゃないって言っていたひとが」
「シャロンからも感じてるわ」
「もちろんわたしもあなたを娘のように愛しているわ。あなたがわたしを求めてくれた時から、この先もずっとよ」

 コーデリアはシャロンの胸に顔を埋めた。

「ずっと一緒にいたい。でも自分のことも知りたい……」

 シャロンの手がコーデリアの頭を撫でる。いつもしてくれるように、優しく、暖かく。

「もし、この先コーデリアが想像するような一緒にいられない状況になっても、ガブリエルはあなたが不幸になるような選択だけは絶対にしないと保証するわ。ガブリエルがあなたの知りたいことを教えないことも、あなたのために違いないってことだけは言いきれるわ。気持ちはわかるけどガブリエルを信じて待ちましょう。必ず全てを知るときが来るのは確かなのだから、今はただ信じて待ちましょう」

 コーデリアはシャロンの胸の中で頷いた。
 それしかないからだ。
 納得が出来たわけではないが、ガブリエルを信じるしかない。
 あの牢獄から出た時から、コーデリアにはそれしかないのだ。
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