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コーデリアがシャロンの家に行ってから二週間が過ぎた。
シャロンからはコーデリアの様子を知らせる手紙が送られてきていたので、コーデリアが普通に暮らせていることはわかった。
コーデリアのいない屋敷は静かで、灯が消えたように暗い。
使用人たちも張り合いがないように仕事は散漫で、それはガブリエルも同じだ。
しかしその日は使用人たちもバタバタを忙しなく、ガブリエルも落ち着いてはいられない。
それというのもガブリエルの叔母、ワディンガム公爵夫人ダイアナが来るからだ。
マイルスは簡単に宮廷を出られる立場ではないので、ダイアナが単身で来るのだが、その理由はもちろんかわいい甥に逢いに来るわけではない。コーデリアのことで来るのだ。
手紙でゴトリッジ伯爵が来てコーデリアが見つかってしまった事。さらにコーデリアに生い立ちや現状、これからのことを話したことも伝えてある。今シャロンの所にいることも知っている。
ダイアナは今後のコーデリアをどうするのかという話しと、シャロンに逢いに来るのだ。
「久々の長旅だったわ」
「叔母上、ようこそいらっしゃいました」
玄関でダイアナを出迎えたガブリエルは手の甲にキスをして挨拶した。
「でも疲れたとは言っていられないわね。手紙では書ききれていなかったことを教えてちょうだい」
客室で一息吐くと、ダイアナはリビングでガブリエルと向き合った。
手紙では書ききれなかったゴトリッジの行いやその後のシャロンから聞いたコーデリアの様子。コーデリアに話をした時の反応、現在のシャロンの家での様子をガブリエルはダイアナに詳しく話した。
その中にコーデリアがガブリエルに恋をしてしまった話は含まれていなかった。
ガブリエルはこの話をするべきなのか迷っていた。
コーデリアの恋心を勝手に他人に話していいことではないように思ったからだ。
しかし今後のガブリエルとの関わりにも関係してくることだ。
コーデリアを愛しているが、コーデリアの望む形ではないガブリエルをコーデリアが受け容れられなければ、ガブリエルは宮廷に入ったコーデリアを支えられないのだ。
「叔母上、実はゴトリッジのことだけでコーデリアがシャロンの所にいるわけではないのです」
「どういうことなの?」
「コーデリアは……わたしに恋をしてしまったようなのです。しかし当然ながらわたしはそれに答えられません」
コーデリアの気持ちに答えられないことを苦しく思っていたガブリエルは俯いてしまったが、ガブリエルの話にダイアナは冷静だった。
「まさか手を出したりはしていないでしょうね?」
「じ! 冗談はやめてくれ! 叔母上でも怒りますよ! わたしはコーデリアを愛しています。そんなこと、おかしなことをするはずがない!」
ガブリエルはダイアナの無神経な言葉に思わず声を上げてしまった。
しかしダイアナは冷静なままだ。
「コーデリアは勘違いしているのです。側にいる男はわたし以外には使用人と近所の知り合いしかいない状況で、愛情を注ぐわたしに恋してしまったのではないかと勘違いしているのだと思います。他にも沢山の男がいることを知れば、その勘違いに気が付くはずですが、それまではコーデリアを受け入れないわたしを遠ざけるかもしれません」
「わたしは、あなたでいいと思っていますよ。確かに予想外ではありましたが、女王の配偶者は誰でもいい訳ではありません。あなたならその役目が出来ると思いますし、コーデリアがあなたを愛しているのなら好都合というものです」
ガブリエルは信じられないという顔でダイアナを見つめた。
ダイアナはいたって真剣な顔だ。
「そうすれば正しくコーデリアの側であなたが支えてあげることが出来るのです。あなたがコーデリアを愛して支えてあげたいと思うなら、こんないいポジションもないでしょう。コーデリアも幸せになれますし、あなたならおかしな野心も抱かないでしょう」
「無理です叔母上。わたしは確かにコーデリアを愛していますが、彼女への愛情は娘に捧げる父親のものと同じです。彼女を女性としては愛することは出来ません」
ガブリエルの泣きだしそうな顔に、ダイアナはため息を吐いた。
これほどコーデリアを愛することはいい意味での誤算だったが、コーデリアもガブリエルを愛しているのならガブリエルほど女王配に相応しい男はいないと思ったのだ。
女王配になる男は野心を持ってはならない。自分を王と思ってはならない。権力を持ってはならない。常に女王の後ろに下がっていなくてはならない。
男の持つプライドを捨て女王の前に出ず、『陛下』と呼ばれることもなく、ただ女王を愛し尽くすことが出来る男性ではなくてはならない。
コーデリアが恋をしている話を聞いてすぐ、ガブリエルにならそれが出来る。ガブリエルならその地位に相応しいと思ったのだ。
しかしガブリエルは想像を超えコーデリアを愛しすぎてしまっていた。
こんないい話はないと思ったが、人の心は簡単には行かない。
「わかりました。そのせいでシャロン嬢の所にコーデリアがいることも了解したわ。ここにコーデリアが戻らないなら、少し早くはなったけどコーデリアを宮廷に迎えるのがいいかもしれないわね。その方があなたも安心出来ると思うわ。警備もしっかり出来るし、わかっているなら帝王学も学んで行けるわ」
「まだコーデリアの気持ちが追い付かないかもしれません。自分が王女だということを受け入れられていないのです」
「明日シャロン嬢の家に行くわ。わたしが話をします」
ガブリエルはため息を吐いて頷いた。
シャロンからはコーデリアの様子を知らせる手紙が送られてきていたので、コーデリアが普通に暮らせていることはわかった。
コーデリアのいない屋敷は静かで、灯が消えたように暗い。
使用人たちも張り合いがないように仕事は散漫で、それはガブリエルも同じだ。
しかしその日は使用人たちもバタバタを忙しなく、ガブリエルも落ち着いてはいられない。
それというのもガブリエルの叔母、ワディンガム公爵夫人ダイアナが来るからだ。
マイルスは簡単に宮廷を出られる立場ではないので、ダイアナが単身で来るのだが、その理由はもちろんかわいい甥に逢いに来るわけではない。コーデリアのことで来るのだ。
手紙でゴトリッジ伯爵が来てコーデリアが見つかってしまった事。さらにコーデリアに生い立ちや現状、これからのことを話したことも伝えてある。今シャロンの所にいることも知っている。
ダイアナは今後のコーデリアをどうするのかという話しと、シャロンに逢いに来るのだ。
「久々の長旅だったわ」
「叔母上、ようこそいらっしゃいました」
玄関でダイアナを出迎えたガブリエルは手の甲にキスをして挨拶した。
「でも疲れたとは言っていられないわね。手紙では書ききれていなかったことを教えてちょうだい」
客室で一息吐くと、ダイアナはリビングでガブリエルと向き合った。
手紙では書ききれなかったゴトリッジの行いやその後のシャロンから聞いたコーデリアの様子。コーデリアに話をした時の反応、現在のシャロンの家での様子をガブリエルはダイアナに詳しく話した。
その中にコーデリアがガブリエルに恋をしてしまった話は含まれていなかった。
ガブリエルはこの話をするべきなのか迷っていた。
コーデリアの恋心を勝手に他人に話していいことではないように思ったからだ。
しかし今後のガブリエルとの関わりにも関係してくることだ。
コーデリアを愛しているが、コーデリアの望む形ではないガブリエルをコーデリアが受け容れられなければ、ガブリエルは宮廷に入ったコーデリアを支えられないのだ。
「叔母上、実はゴトリッジのことだけでコーデリアがシャロンの所にいるわけではないのです」
「どういうことなの?」
「コーデリアは……わたしに恋をしてしまったようなのです。しかし当然ながらわたしはそれに答えられません」
コーデリアの気持ちに答えられないことを苦しく思っていたガブリエルは俯いてしまったが、ガブリエルの話にダイアナは冷静だった。
「まさか手を出したりはしていないでしょうね?」
「じ! 冗談はやめてくれ! 叔母上でも怒りますよ! わたしはコーデリアを愛しています。そんなこと、おかしなことをするはずがない!」
ガブリエルはダイアナの無神経な言葉に思わず声を上げてしまった。
しかしダイアナは冷静なままだ。
「コーデリアは勘違いしているのです。側にいる男はわたし以外には使用人と近所の知り合いしかいない状況で、愛情を注ぐわたしに恋してしまったのではないかと勘違いしているのだと思います。他にも沢山の男がいることを知れば、その勘違いに気が付くはずですが、それまではコーデリアを受け入れないわたしを遠ざけるかもしれません」
「わたしは、あなたでいいと思っていますよ。確かに予想外ではありましたが、女王の配偶者は誰でもいい訳ではありません。あなたならその役目が出来ると思いますし、コーデリアがあなたを愛しているのなら好都合というものです」
ガブリエルは信じられないという顔でダイアナを見つめた。
ダイアナはいたって真剣な顔だ。
「そうすれば正しくコーデリアの側であなたが支えてあげることが出来るのです。あなたがコーデリアを愛して支えてあげたいと思うなら、こんないいポジションもないでしょう。コーデリアも幸せになれますし、あなたならおかしな野心も抱かないでしょう」
「無理です叔母上。わたしは確かにコーデリアを愛していますが、彼女への愛情は娘に捧げる父親のものと同じです。彼女を女性としては愛することは出来ません」
ガブリエルの泣きだしそうな顔に、ダイアナはため息を吐いた。
これほどコーデリアを愛することはいい意味での誤算だったが、コーデリアもガブリエルを愛しているのならガブリエルほど女王配に相応しい男はいないと思ったのだ。
女王配になる男は野心を持ってはならない。自分を王と思ってはならない。権力を持ってはならない。常に女王の後ろに下がっていなくてはならない。
男の持つプライドを捨て女王の前に出ず、『陛下』と呼ばれることもなく、ただ女王を愛し尽くすことが出来る男性ではなくてはならない。
コーデリアが恋をしている話を聞いてすぐ、ガブリエルにならそれが出来る。ガブリエルならその地位に相応しいと思ったのだ。
しかしガブリエルは想像を超えコーデリアを愛しすぎてしまっていた。
こんないい話はないと思ったが、人の心は簡単には行かない。
「わかりました。そのせいでシャロン嬢の所にコーデリアがいることも了解したわ。ここにコーデリアが戻らないなら、少し早くはなったけどコーデリアを宮廷に迎えるのがいいかもしれないわね。その方があなたも安心出来ると思うわ。警備もしっかり出来るし、わかっているなら帝王学も学んで行けるわ」
「まだコーデリアの気持ちが追い付かないかもしれません。自分が王女だということを受け入れられていないのです」
「明日シャロン嬢の家に行くわ。わたしが話をします」
ガブリエルはため息を吐いて頷いた。
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