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Episode 2 聖バリス教会の脅威
Chapter 6 折れた刀、折れぬ心
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日が山脈にかかり暗くなり始めたころ。プロスタン砦に一つの騒ぎが起こっていた。
「どういう事だ!! それは!!」
伝令の報告にユーベルが激怒する。
報告の内容からすると、それは当然の事であった。
「はい!! どうやら砦に侵入者があったようで……!! ギヨーム技術主任が拉致され……、補給物資転送用のポタールが破壊されていました!!」
「馬鹿な!!」
それはユーベルにとって寝耳に水であった。ポータルが破壊されたと言うことは、補給線が切れただけではなく、ヘルム侯国への帰還手段も失ったという事であり――。
「これでは孤立無援ではないか!!」
そう――、統一使徒軍の兵にとっては、まさしく敵の領域奥深くで、帰る手段を失った孤軍そのものである。
これでは、兵の士気がダダ下がりどころの騒ぎではない。
「見張りは何をしていた!! 馬鹿が!!」
「申し訳ありません!!」
「申し訳ないで済むか!!」
ユーベルの激怒は当然のことである。このままでは全滅必死なのだ。
「落ち着きください……閣下」
不意に隣のカッツがユーベルに声をかける。ユーベルはその声の主を睨み付けて叫ぶ。
「カッツよ!! どうしてくれる!! お前の作戦に従ったらこうなったぞ!!」
「だから……落ち着いてください。……と申しています」
カッツは至極冷静にユーベルに答える。
「今回の事はイレギュラーです。さすがのわたくしに見抜けるものではありませんよ」
「だから許せと言うつもりか!! このバカが!!」
「別にそんなことは思ってはいませんよ……。ただ、こうなった以上、冷静に事を運ばねば、あなたはここで戦死と言うことになりますぞ?」
「なんだと?!!」
ユーベルはカッツの言葉に青くなる。
確かに彼の言う通りだ。
「どうすればいい?! カッツ!!」
「我々の装備で山を越えることは無理でしょう。ならばとるべき手は、少数の人員で西の統一使徒軍本隊に合流する事でしょうな」
「く……情けないが。仕方がないか……」
「ええ……とりあえず。撤退のための準備を行ってください。貴方はここで孤軍奮闘して死ぬことが望みなのですか?」
「馬鹿が!! そんな馬鹿なことが出来るか!!」
「ならば決まりですな」
カッツが恭しく頭を下げる。ユーベルは爪を噛んで悔しがった。
「おのれ……黄の民の猿どもが!! この屈辱忘れんぞ!!」
その叫びはプロスタン砦にむなしく響き渡ったのである。
◆◇◆
その時、ソーニャは信じられない人物の姿を見ていた。
砦に潜入していたはずのアスト達が、自分たちのもとに駆けつけたのである。
「アストさん……どうして……」
「呼ばれたのさ……グウィルムにね」
「え?」
ソーニャは隣にいるグウィリムを見る。グウィリムは笑いながら手にした笛を見せた。
「それは……まさか狼笛?」
「そう、予備の狼笛を念のためにと預かっておったのじゃよ」
アストは答える。
「こうなる可能性は考えていたからね。グウィリムと相談して、いざというとき駆けつけられるように準備をしていたんだ」
アストは腰の刀をすらりと抜く。そして、強化甲殻兵に相対する。
「さて……。もうそろそろ、お前らの活動限界も近いだろう?」
そのアストの言葉に、強化甲殻兵が後退る。
「ならば、もう少し遊んで行けよ!!」
アストは強化甲殻兵に向かって駆けた。
戦場で両者が激突する。――そして、それがデンバートの反撃の狼煙ともなった。
◆◇◆
後方部隊を襲っていた強化甲殻兵の前に、前線にいた兵士たちが次々に駆けつける。
強化甲殻兵達は撤退の隙を失い、敵のど真ん中で右往左往する。そのうち活動限界になって停止する強化甲殻兵も出始めた。
もはや戦況は一つの方向に傾きつつあった。
◆◇◆
最悪の戦況に、強化甲殻兵が最後の抵抗に出る。
相対するアストに、その長竿武器を振るったのである。
「この!!」
アストは姿勢を低くして、敵の長竿武器を頭上に通すと、そのまま一気に懐へと突撃する。片手で刀を持ち、もう片手を刃の背に添えて、敵の首に刃を押し当てる。一気に引き抜く。
ブシャ!!
凄まじい鮮血が強化甲殻兵の首から噴き出す。
強化外骨格の弱点である鎧の隙間を切られて、その強化甲殻兵は絶命した。
「く!!」
だが、アストはそれだけで油断はしない。
アストは強化甲殻兵を支えて、自分の体をその影に潜める。そこに別の強化甲殻兵の長竿武器が振るわれた。
ザク!!
長竿武器が死んだ強化甲殻兵に突き刺さる。
アストは、さっき倒した兵を、敵の攻撃から身を守る盾にしたのだ。そのまま兵を投げ捨てたアストが、次の強化甲殻兵に躍りかかる。そして――、
「ガハ!!」
アストは的確に敵の首を刀で切り裂いた。
――と、不意にアストの背後で悲鳴が上がる。それはソーニャのものであった。
「ソーニャ!!」
アストは慌ててソーニャ達のいた方を向く。
そこにもう一体強化甲殻兵がいた。ソーニャに向かって長竿武器が振るわれる。
グウィリムとゲイルがその前に立ちはだかって盾になろうとする。
「糞が!!」
一気にアストは加速した。戦場を疾風のごとく駆ける。
ゲイルがソーニャを背負って長竿武器の一撃を回避する。グウィリムは真言を唱え始めている。一撃を回避された強化甲殻兵はすぐに長竿武器を持ち替えて、更なる一撃を振るおうとする。
ゲイルの回避も、グウィリムの魔法も間に合わない。
「させない!!」
加速したアストが強化甲殻兵に躍りかかる。そして――、
ガキン!!
軽い破砕音とともにアストの刀の刃が折れて宙を舞った。
自分の愛刀が折れた――。その事に気付きながらも、無心でアストは残った刃を振るう。そして――、
「が……は……」
強化甲殻兵がその首を切られてその場に崩れ落ちた。
「はあ……はあ……」
アストは大きく息を吐きながら周囲を見回す。
戦場はもはや動向が決していた。多くの強化甲殻兵が活動を停止し、簡易拠点に静けさが戻ってきていた。
「アストさん!!」
そう言ってソーニャがよろよろと走り寄ってくる。
アストはただ笑っソーニャを迎えるのであった。
◆◇◆
かくして、後方支援部隊を襲った強化甲殻兵は、その多くが討ち取られるか活動限界を悟って撤退した。
もはやデンバート軍の勝利は確実であり。補給用のポータルすら失った統一使徒軍に、抵抗する余力は残されてはいなかった。
その時、ユーベルとカッツは少数の兵を連れ、山肌に隠れつつ砦から逃走を図っていた。彼らが目指すはカディルナ中部地方に展開する本隊である。
ユーベルは悔し気に燃える砦を見つめながら爪を噛む。
「忘れん……忘れん……。この屈辱は絶対忘れん……。そして、必ず帰ってくる……。黄の民どもを八つ裂きにするために……」
ユーベルのその歪んだ復讐心は、目前の砦のごとく彼の心の中で燃え上がったのであった。
◆◇◆
大陸歴990年6月――。
デンバート付近で起こっていた、聖バリス教会統一使徒軍との戦争は、デンバートの勝利で終結を迎えた。その時に捕虜として確保されたギヨーム技術主任によって、赤の民のギフト開発の全貌が明かされ、後の黄の民の反抗において有利に働くこととなった。
その戦争を勝利に導いた希少なる魔龍討伐士たちの名は、多くの人々の間で語り継がれることとなる。
「どういう事だ!! それは!!」
伝令の報告にユーベルが激怒する。
報告の内容からすると、それは当然の事であった。
「はい!! どうやら砦に侵入者があったようで……!! ギヨーム技術主任が拉致され……、補給物資転送用のポタールが破壊されていました!!」
「馬鹿な!!」
それはユーベルにとって寝耳に水であった。ポータルが破壊されたと言うことは、補給線が切れただけではなく、ヘルム侯国への帰還手段も失ったという事であり――。
「これでは孤立無援ではないか!!」
そう――、統一使徒軍の兵にとっては、まさしく敵の領域奥深くで、帰る手段を失った孤軍そのものである。
これでは、兵の士気がダダ下がりどころの騒ぎではない。
「見張りは何をしていた!! 馬鹿が!!」
「申し訳ありません!!」
「申し訳ないで済むか!!」
ユーベルの激怒は当然のことである。このままでは全滅必死なのだ。
「落ち着きください……閣下」
不意に隣のカッツがユーベルに声をかける。ユーベルはその声の主を睨み付けて叫ぶ。
「カッツよ!! どうしてくれる!! お前の作戦に従ったらこうなったぞ!!」
「だから……落ち着いてください。……と申しています」
カッツは至極冷静にユーベルに答える。
「今回の事はイレギュラーです。さすがのわたくしに見抜けるものではありませんよ」
「だから許せと言うつもりか!! このバカが!!」
「別にそんなことは思ってはいませんよ……。ただ、こうなった以上、冷静に事を運ばねば、あなたはここで戦死と言うことになりますぞ?」
「なんだと?!!」
ユーベルはカッツの言葉に青くなる。
確かに彼の言う通りだ。
「どうすればいい?! カッツ!!」
「我々の装備で山を越えることは無理でしょう。ならばとるべき手は、少数の人員で西の統一使徒軍本隊に合流する事でしょうな」
「く……情けないが。仕方がないか……」
「ええ……とりあえず。撤退のための準備を行ってください。貴方はここで孤軍奮闘して死ぬことが望みなのですか?」
「馬鹿が!! そんな馬鹿なことが出来るか!!」
「ならば決まりですな」
カッツが恭しく頭を下げる。ユーベルは爪を噛んで悔しがった。
「おのれ……黄の民の猿どもが!! この屈辱忘れんぞ!!」
その叫びはプロスタン砦にむなしく響き渡ったのである。
◆◇◆
その時、ソーニャは信じられない人物の姿を見ていた。
砦に潜入していたはずのアスト達が、自分たちのもとに駆けつけたのである。
「アストさん……どうして……」
「呼ばれたのさ……グウィルムにね」
「え?」
ソーニャは隣にいるグウィリムを見る。グウィリムは笑いながら手にした笛を見せた。
「それは……まさか狼笛?」
「そう、予備の狼笛を念のためにと預かっておったのじゃよ」
アストは答える。
「こうなる可能性は考えていたからね。グウィリムと相談して、いざというとき駆けつけられるように準備をしていたんだ」
アストは腰の刀をすらりと抜く。そして、強化甲殻兵に相対する。
「さて……。もうそろそろ、お前らの活動限界も近いだろう?」
そのアストの言葉に、強化甲殻兵が後退る。
「ならば、もう少し遊んで行けよ!!」
アストは強化甲殻兵に向かって駆けた。
戦場で両者が激突する。――そして、それがデンバートの反撃の狼煙ともなった。
◆◇◆
後方部隊を襲っていた強化甲殻兵の前に、前線にいた兵士たちが次々に駆けつける。
強化甲殻兵達は撤退の隙を失い、敵のど真ん中で右往左往する。そのうち活動限界になって停止する強化甲殻兵も出始めた。
もはや戦況は一つの方向に傾きつつあった。
◆◇◆
最悪の戦況に、強化甲殻兵が最後の抵抗に出る。
相対するアストに、その長竿武器を振るったのである。
「この!!」
アストは姿勢を低くして、敵の長竿武器を頭上に通すと、そのまま一気に懐へと突撃する。片手で刀を持ち、もう片手を刃の背に添えて、敵の首に刃を押し当てる。一気に引き抜く。
ブシャ!!
凄まじい鮮血が強化甲殻兵の首から噴き出す。
強化外骨格の弱点である鎧の隙間を切られて、その強化甲殻兵は絶命した。
「く!!」
だが、アストはそれだけで油断はしない。
アストは強化甲殻兵を支えて、自分の体をその影に潜める。そこに別の強化甲殻兵の長竿武器が振るわれた。
ザク!!
長竿武器が死んだ強化甲殻兵に突き刺さる。
アストは、さっき倒した兵を、敵の攻撃から身を守る盾にしたのだ。そのまま兵を投げ捨てたアストが、次の強化甲殻兵に躍りかかる。そして――、
「ガハ!!」
アストは的確に敵の首を刀で切り裂いた。
――と、不意にアストの背後で悲鳴が上がる。それはソーニャのものであった。
「ソーニャ!!」
アストは慌ててソーニャ達のいた方を向く。
そこにもう一体強化甲殻兵がいた。ソーニャに向かって長竿武器が振るわれる。
グウィリムとゲイルがその前に立ちはだかって盾になろうとする。
「糞が!!」
一気にアストは加速した。戦場を疾風のごとく駆ける。
ゲイルがソーニャを背負って長竿武器の一撃を回避する。グウィリムは真言を唱え始めている。一撃を回避された強化甲殻兵はすぐに長竿武器を持ち替えて、更なる一撃を振るおうとする。
ゲイルの回避も、グウィリムの魔法も間に合わない。
「させない!!」
加速したアストが強化甲殻兵に躍りかかる。そして――、
ガキン!!
軽い破砕音とともにアストの刀の刃が折れて宙を舞った。
自分の愛刀が折れた――。その事に気付きながらも、無心でアストは残った刃を振るう。そして――、
「が……は……」
強化甲殻兵がその首を切られてその場に崩れ落ちた。
「はあ……はあ……」
アストは大きく息を吐きながら周囲を見回す。
戦場はもはや動向が決していた。多くの強化甲殻兵が活動を停止し、簡易拠点に静けさが戻ってきていた。
「アストさん!!」
そう言ってソーニャがよろよろと走り寄ってくる。
アストはただ笑っソーニャを迎えるのであった。
◆◇◆
かくして、後方支援部隊を襲った強化甲殻兵は、その多くが討ち取られるか活動限界を悟って撤退した。
もはやデンバート軍の勝利は確実であり。補給用のポータルすら失った統一使徒軍に、抵抗する余力は残されてはいなかった。
その時、ユーベルとカッツは少数の兵を連れ、山肌に隠れつつ砦から逃走を図っていた。彼らが目指すはカディルナ中部地方に展開する本隊である。
ユーベルは悔し気に燃える砦を見つめながら爪を噛む。
「忘れん……忘れん……。この屈辱は絶対忘れん……。そして、必ず帰ってくる……。黄の民どもを八つ裂きにするために……」
ユーベルのその歪んだ復讐心は、目前の砦のごとく彼の心の中で燃え上がったのであった。
◆◇◆
大陸歴990年6月――。
デンバート付近で起こっていた、聖バリス教会統一使徒軍との戦争は、デンバートの勝利で終結を迎えた。その時に捕虜として確保されたギヨーム技術主任によって、赤の民のギフト開発の全貌が明かされ、後の黄の民の反抗において有利に働くこととなった。
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