機龍世紀3rdC:暗黒時代~黒髪の騎狼猟兵

武無由乃

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Episode 2 聖バリス教会の脅威

Chapter 7 カディルナ中部地方へ

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 先の戦争か10日ほどたったデンバート城内、アストは一人で長剣の素振りをしていた。
 しかし、その表情はどこかしら暗く沈んでいた。

「ふう……」

 アストは今日何度目かのため息を付いた。その理由をアスト自身は誰よりも理解していた。

「やっぱり……しっくりこないな……」

 アストは手にした長剣を地面に置く。その隣には刃の折れた愛刀が転がっていた。

「やっぱり……、この地域で一般的な直刀と、ボーファスの曲刀では、明確に扱い方が違うな……。どうも刀のように上手く扱えない……」

 そう言ってアストは刃の折れた愛刀を拾い上げる。

「刀は無理に力を込めず撫でる感じ……。長剣は力を込めて叩き切る感じ……か。これは無理に武器を変更するより、どこかで刀を手に入れた方が……」

 ――と、そこにソーニャがやってくる。
 アストの手にした折れた刀を見て少し表情を曇らせた。

「アストさん……こんなところで修練ですか?」
「ああ、ソーニャ……。長年使っていた刀が折れたからね、直せない以上予備の武器を確保しないと」
「そう……ですか」

 ソーニャが申し訳なさそうに俯く。

「すみませんアストさん」
「? なんでソーニャが謝る?」
「だって……その刀が折れたのは、私の所為で……」
「ソーニャ……」

 アストは真面目な表情になってソーニャに言う。

「勘違いしちゃダメだよ」
「え?」
「刀が折れたのは、俺の扱いが悪かったからだ……。それに長年使っていたから寿命だった可能性もあるし……」
「でも……」
「でも、じゃない。そもそも、仲間を守ったという事に、誰のせいとかそんな話はない……、当然のことをして、その結果折れてしまっただけなんだ」
「アストさん」

 ソーニャは驚いた顔でアストを見つめる。
 アストは歯を見せて笑いながらソーニャの頭を優しくなでる。

「だから、もう私の所為とか……そんなことを言っちゃダメだよ?」
「は……はい」

 ソーニャは今度は頬を赤くして俯いた。その時、アストに声をかける者がいた。

「おう……アストよ調子はどうだ?」
「グウィリムさん」

 声をかけてきたのはグウィリムで、アストはそれを少し沈んだ表情で迎える。

「……やっぱり、しっくりきませんね」
「そうか……。武器を扱うという事は、魔法と同じでかなり繊細じゃからな……。扱う剣の種類が変わると、体と剣術をそれに合わせねばならん」
「これは……、一旦ボーファスに戻るべきじゃないかと思っています」
「ふむ……」

 アストの言葉を聞いてグウィリムが考え込む。

「ボーファスに戻って新しい刀を手に入れる……か」
「そうです」
「……」

 しばらく顎鬚を撫でて考え込んでいたグウィリムが少し頷いて顔をあげる。

「それよりも、セルバートへ向かったらどうじゃ?」
「セルバート?」
「ああ、カディルナ中部地方にある職人の街じゃよ。わしの知り合いにそこで魔法剣の刀匠をしておる、ローマンと言う男がいるのじゃよ」
「魔法剣?!」

 グウィリムのその突然の提案にアストは驚く。
 魔法剣とは、まさしくその名の通り、魔法で強化された剣のことである。
 その斬撃は鋼鉄をも軽く切り裂き、巨人の一撃を受けても折れることがないのだとか言われている。

「ローマンは確か、過去にもボーファス刀を作ったことがあるから、ちょうどいいと思うぞ」

 アストはグウィルムのその言葉を聞いて考え込んだ。

「お兄ちゃん!!」

 その時、アスト達のいる城の中庭にリディアが元気よく走ってくる。

「どうしたんだリディア、そんなに走って」
「お兄ちゃんにお客さんだよ!!」
「え?」

 どうやらアストを訪ねてきた者がいるらしい。

「一体誰が……」
「すぐにわかるよ!」

 リディアが嬉しそうに答える。すると――、

「よう! アスト! 何とか上手くやってるみたいじゃないか!」

 そこに現れたのはラギルスとジェラであった。

「なんだよリディア。俺にお客さんって、ラギルスさん達じゃないか。別に俺にだけ会いに来た訳でもないだろ?」
「フフフ……それがね……」

 リディアが意味ありげに笑う。アストはリディアのその態度に首をかしげた。

「俺らは確かにお前に会いに来たんだよ」
「本当ならこっちに来る予定なかったんだけどね」

 ラギルスとジェラがそう言って笑う。アストは首をかしげたまま問う。

「それって……どういう……」
「お前の姉ちゃんの新しい情報が入った」
「え?!」

 ラギルスのその言葉に驚いて目を見開くアスト。

「この前は白の民の誤認だったようだが、今回はかなり信憑性が高いぞ?」
「なにせ情報提供者が、お前の知り合いのアークって人物で、目撃したその女性は自分のことを異邦人だと語ったって話だからね……」
「異邦人!!」
「そう……お前と同じ……な」

 ラギルスとジェラの話にアストが驚きの声をあげる。

「アークさん……。約束通り探してくれていたんだね」

 そう言って笑うのはリディアである。

「異邦人で黒髪・黒い瞳……これはほぼ確定だろ?」

 ラギルスが嬉しそうにそう言う。アストは何度も頷いた。

「姉さん……。本当にそれは姉さんかも知れない……。それで? その女性が目撃されたのは?」
「カディルナ中部地方……ドワーフ王国との交易窓口であるケイシューだ」
「ケイシュー?」

 ――と、その時グウィリムが話に割り込んでくる。

「それは、ちょうどいいじゃないか。ケイシューはセルバートの南西にある都市じゃよ」
「それは!」

 なんという偶然、これなら新刀の調達と共に姉も探せる。アストは決意した表情で頷いた。
 そのアストの表情を見て嬉しそうにラギルスが言った。

「次こそは姉さんだといいな!!」

 そのラギルスの表情を見てジェラが言う。

「何であんたが嬉しそうなんだよ。ホントあんたってやつは……」
「……別にいいだろ? 後輩が嬉しそうなら俺も嬉しいんだよ!!」

 顔を赤くしながら叫ぶラギルス。それを優しげな眼でジェラは見つめていた。

「……」

 その光景を見つめていたリディアが、不意にアストに耳打ちする。

「お兄ちゃん……。ホントラギルスさんとジェラさんって仲よさそうだよね……」
「え?」

 そのリディアの言葉に疑問符を飛ばすアスト。その顔を見てリディアが呆れた表情になる。

「え? もしかして気づいてないのお兄ちゃん?」
「だから何がだよ……」
「……」

 そのアストの態度にリディアは肩を落とす。鈍いにもほどがある。

「ラギルスさんとジェラさんって好きあってるんだよ?」
「え!!」

 リディアの言葉にアストは絶句する。やっとアストは理解して顔が赤くなった。
 たしかに、リディアの言う通り。今までの二人の会話を思い出すと、そのふしが見えなくもない。

「そうか……そうだったのか……」

 少し呆然とするアストである。

(まあ……お兄ちゃんの場合は当然か……。私の気持ちにも気づいてるかわかんないもんね……)

 そう心の中で呟きつつリディアはアストを見つめるのであった。
 そんな若い者たちの恋路を理解しつつ、グウィリムは一人嬉しそうに微笑む。

「本当に……若い者はいいのう……」
「なんだよ……いきなり老け込んで……」

 ラギルスがそうグウィリムに突っ込みを入れる。

「そうじゃな……わしもまだまだ30代。これからじゃて……」

 デンバートの城の中庭に、アスト達の楽し気な声がいつまでも響いていた。


◆◇◆


 結局、アスト達は刀を手に入れるため、そして姉を探すためにカディルナ中部地方へと向かうこととなった。その道行にはソーニャとグウィリムの代わりに、ラギルスとジェラがついてゆくことになった。なぜなら、彼らもまたカディルナ中部地方に向かう目的があったからである。
 それは――、

「ジェラさんの故郷は、カディルナ中部地方の北部の村なんですね?」
「そうさ……アーロニーっていう村だよ……。今そこら辺は聖バリス教会との戦争で危険だから……。東部に移住するよう説得に行くんだ……」
「そうなんですか……」

 今、カディルナ中部地方は、聖バリス教会統一使徒軍との戦争の真っ最中である。
 故郷がそこにあるなら、当然心配で仕方がないだろう。

「とりあえずダグラルフまでは一緒で……。その先の街道で別れることになるね……」
「我々も一緒に行かなくていいんですか?」
「いいや……わざわざ戦争中の、北の街道を進む意味なんてないよ。あんたらは、ダグラルフから、ズワルター、デルバート、そしてセルバートへと向かえばいい」

 結局、二人とは途中で別れることになったが、ラギルスがついているなら大丈夫だろうとアスト達は考えた。


◆◇◆


 こうして、アスト達はカディルナ中部地方へ向かうべく、東部地方の西端のリーバーへと向かうこととなった。
 アスト達が旅立つべく都市の門へと向かうと、そこにソーニャとグウィリムが待っていた。ソーニャは涙を浮かべ、グウィリムは笑顔でアスト達を送り出した。

(アストさん……)

 別れ際にソーニャが心の中で呟く。

(私にとって貴方は……、この気持ちは恋なんでしょうね。でも私にはわかります。貴方にはリディアさんがいるって……。だからせめて……私は貴方の旅の無事を祈ります……)

 その、ソーニャの気持ちを知ってか知らずか。アストはソーニャに向かっていつまでも手を振っていた。


◆◇◆


 大陸歴990年6月――。
 アスト達はリーバーを越えて、その先のカディルナ中部地方へと踏み込んだ。
 その先に、東部地方での経験を超える過酷な運命が待っているとも知らずに。

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