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第四話 死を舞う奇蝶
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さて――、鈴の音と共に舞う謎の異形を目撃した道摩少年――。
それを見て何か確信を得たようですが――、果たして?
「貴方が道摩様でございますか?」
村の集会場へとやってきた道摩達を迎えたのは、村の現長老の娘である楓であった。
「ふむ――、その通りであるが……、村の長老も眠って起きないようだな?」
「それは……、その通りです。しばらく前に眠ったまま起きなくなってしまいまして、今は娘のわたくしが村の長の代理を務めております」
「なるほどな――、それで……、多くの者がここに集まって、身を寄せ合っているという事は、不審な異形が村を徘徊していることを知っておるからで間違いないか?」
その道摩の言葉に楓は頷く。
「はい……。つい先日より、わたくし達の中に眠って起きぬものが現れまして、最初はただ眠っているだけだと思っておりましたが、どのような術具を試しても起きることはなく……。そして、その原因がちょうど同時期に村に現れ始めた、異形にあるのだと確信を得まして――、皆を集会場に集めて、鈴の音が鳴ったら眠ることなく耳を押さえるように――と」
「――なるほど。そうして、奴から身を守っておったと?」
「はい――、無論、一度は異形を倒すことが出来ないかと思案いたしましたが――」
「だが、出来なかったと?」
「……はい」
楓はその言葉を聞いて俯きながら、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「あの異形にはどうにも勝てる気がせず、逃げるしか手がなかったのです……」
「ふむ……、それは意識を歪ませる異能を持っていると考えられるか?」
「そうですね。呪の知識は土蜘蛛の民ゆえにある程度理解しているので――、アレは間違いなく精神を操るあやかしなのではと……。あそこまで意識を持っていかれると、我々にもどうにも出来ず……」
「なるほどな……。やはり、アレはそういう類のモノだったか」
「何かご存じなのでございますね? もしや、貴方様のお力ならばどうにか出来るとか――!?」
楓は期待を込めた目で道摩を見つめる、彼は小さく鼻を鳴らして首を縦に振った。
「当然であるぞ? 俺に任せておけ」
「おお! 流石は陰陽師殿だ!」
「なんと頼もしい!」
道摩の言葉を聞いた村人達は、歓喜の声を上げる。それを唯一うさん臭いものを見る目で一葉は見る。
「本当に大丈夫なのかしら?」
そう呟く一葉を苦笑いして彩花が見つめる。
「では――、あのあやかしについて、俺の理解してることを話すとしようか?」
「それは、有難い」
村人は期待の目で道摩を見る。それを見て満足そうに頷いた道摩は、まず初めにその場の皆が驚愕すべき言葉を放った。
「――まずは、あの鈴の音を聞いて眠っておる者達――、アレは眠っておるのではなく、死にかけておるのだ」
「は?!!」
道摩のあまりにも驚くべき言葉に、その場の皆が息をのむ。
「あのあやかしは鈴の音をヒトの精神へと作用させ――、それによって精神力を奪って喰らっておるのだよ」
「それでは――!!」
「そう……、眠りではなく昏睡――それが眠って起きぬ者の症状の正体なのだ」
「なっ……」
道摩の告げた衝撃的な事実に、その場にいる誰もが言葉を無くす。
「年老いた者から昏睡しておるのは――、老いて精神力が衰えておるから……。このまま放っておけば、いずれ近いうちにも死に至るであろうな」
「そんな!! どうすれば?!」
村人の一人が悲痛な声を上げると、それを聞いた道摩は口角を上げてニヤリと笑う。
「簡単な事よ……。あやつを殺してしまうのだ」
「殺す――とは?」
「そのままの意味よ。殺せばよいのだ」
「しかし、我々はあやかしを殺すことは出来ません!」
「そうです! 我々では精神を操られて傷つける事はおろか、近づくことすら出来ないのです!」
「ああ、確かに普通の者であれば難しいだろうな。だが――、俺ならば話は別だ。俺は陰陽師であり、神に仕える者であり、そして何より――、退魔の術に長けているのだからな!」
その言葉に村人達の瞳に希望の光が宿る。
「貴方様になら、あのような異形など容易いことかもしれませぬ!」
「さよう! 我らにはもはや道摩様しか居られませぬ!」
「どうか――! どうか、お力をお貸しくださいませ!」
次々と懇願する村人達に、道摩は自信満々に胸を張って答える。
「任せておけと言ったであろう! この俺が来たからにはもう安心だ」
その力強い宣言に、村人達は沸き立つ。
「おお! 流石は道摩様!」
「これで村が救われますぞ!」
盛り上がる村人の中で一人、一葉は冷ややかな視線を向けている。
「こんな得体のしれない男に全てを任せて大丈夫なのかしら?」
「一葉ちゃん……、あの人はここら一帯では有名な陰陽師で……」
「わかってるわよ、でも――。なんかあの態度は胡散臭くない? なんかみんなを大げさに喜ばせているような……」
「それは……」
一葉の不安の声を他所に、事態は着々と進んでいく。
「それでは、早速始めるとするか。お前達――、準備を始めろ」
道摩の指示を受けて、村の若い衆が動き出す。彼らは、集会場の外にあった荷物の中から様々な武器を取り出していく。
道摩はそれを眺めつつ、自身が持ってきた道具の中からいくつかの符を取り出した。
「何をするつもり?」
「まぁ見ておれ」
そう言う一葉の問いに、得意げな顔で答える道摩。
道摩は村の若い衆を一つ所に集めると、その前で符を手にして印を結び呪を唱えたのである。
「急々如律令」
すると、集められた者達の周囲に淡い光を放つ陣が浮かび上がったのである。
――それを見て楓が問う。
「これは――、結界か何かですか?」
「そうだな。今ここに張られたのは、あやかしの精神への侵入を防ぐ為の防壁だ。これならば、彼らの意識へあやかしが直接影響を及ぼす事は出来なくなる。つまり――、こちらが意識を支配される心配もないという訳だ!」
「なるほど――、それで私達があやかしを恐れることもないと」
「そういうことだ。あとは皆で一斉に奴を成敗してしまえばいい話だ」
その道摩の言葉に村の若い衆は歓声を上げる。
「凄い! 本当にやれるのか!」
「ああ! 道摩様の術なら確かだろう!」
その様子を見た道摩は再び満足そうに笑う。
「ふむ……、では俺も戦う準備をするか」
「共に戦っていただけるので?」
「当然であろう? この俺がまず奴と相対するゆえに、止めはお前たちがやるといい」
「ありがとうございます!」
「では――、行くとするか」
道摩はそう言って、皆を率いて歩き出した。
「ちょっと待ちなさい! まさか本当にやる気なの!?」
慌てて呼び止める一葉に、道摩は振り返り答えた。
「無論だが? 何か止まらねばならぬ意味があるのか?」
「――もうちょっと、あのあやかしの事を調べるとか……しないの?」
「そんなことをしているうちに老いた者から死ぬぞ?」
「それは――」
「それに、あのあやかしは精神を喰らいすぎておる。放っておけば、いずれはあやかしの力が増すことになる。そうなれば、あのあやかしはもっと多くの人間を襲うようになるのは目に見えておるのだ」
「――」
「故に、俺はあやかしを――、根源を絶つ必要があるのだよ。あのあやかしに喰われた精神を取り戻す為にもな」
「……」
「だから、俺は行くぞ」
それだけ言い残して、道摩は村人達と共に歩いて行った。
「……彩花どう思う?」
一葉はそう言って彩花に問う。
「う~ん……。私は道摩さんを信じたいかな? あの人は悪い人じゃないと思うんだ」
「――貴方も騙されてるんじゃない?」
「そうかもしれないけど……。でも、道摩さんの言っていることは本当だと思うよ? あの人は嘘をつく様な人に見えないし――、だからきっと大丈夫だよ!」
「そうね……。あんな得体の知れない男だけど――、一応は信用するしかないみたいだし……。仕方がないわね……」
「うん!」
二人はそう結論付けて、道摩の後を追うように歩みを進めるのであった。
(――そう、それでいい。そのまま進むといい――、考え無しの愚かな陰陽師)
――そう心の中で考えたのは、果たして誰だったのか……。
◆◇◆
今、村には昼と夜の区別がない。しかし、それを明確に分ける存在がある。
――それこそ、鈴の音とともに現れる異形の蝶――。
しばらく村の中央で待ち構えていた道摩と村人たちは、その死を舞う奇蝶の出現を見た。
――それは、まるで煙が立ち上るかのような、薄い霞が現れそして蝶の形となって出現したのである。
道摩はまず村人たちを下がらせると、その異形の蝶に向かって一人歩いていった。
「道摩様!」
村人たちが心配そうに道摩の様子を眺める。
そんな村人たちを気にすることなく、道摩はその異形に向かって大きな声で言い放った。
「あやかしよ!! 覚悟しろ!! 我こそは陰陽師・道摩法師なり!! 今より貴様を倒し、村に朝日を取り戻そうぞ!!」
それは――、なんとも芝居じみた言い方であったが、村人は喜んで声援を送った。
【――ああ、愚かな人よ――、本当に私を倒すつもりですか?】
不意に異形が言葉を発する。
「ほう? 言葉をかいするのか?」
【ええ――もちろんですよ?】
「ならば話は早い――、村から手を引くがよい」
【嫌だといったら?】
「このまま貴様を始末する」
道摩は上から目線であやかしを見下ろす。あやかしはそれを見て――笑った。
「――……」
【ふふ――、愚かな。私を殺せばどうなるか……しっかりと理解していますか?】
「皆が救われる」
【それは――本当に、愚かな――】
そのあやかしの言葉を聞いて、背後にいた一葉が言う。
「どういう事よ! あんたを倒すと何か起こるというの?!」
「一葉よ――聞く必要はないぞ?」
「でも――」
道摩の言葉に、一葉は怪訝な表情で答える。
「こ奴はうそつきである――、倒せば丸く収まるさ」
「本当に?」
「俺が言うから間違いない」
不審な表情の一葉に得意げな表情をした道摩が言う。
あやかしはそれを見てさらに笑った。
【あらあら――、この男は愚かというよりも――、すべてを理解して、そのうえで言っているのかしら?】
「――……」
【ふふ――そう、そこの貴方――】
奇蝶が一葉を指さす。
【この男を信じちゃだめよ? なぜなら――】
「一葉――、こいつの戯言を聞くな」
【――私を倒すという事は――、長い夢から覚めるという事は――。止まった時を取り戻すという事は――】
それを聞いて一葉は何かを悟る。それを彩花が見て――。
「一葉ちゃん? どうしたの?」
「まさか――……」
「一葉ちゃん?」
道摩は彩花児の言葉に構わず、自らの懐から符を一枚取り出す。
「ふん! 戯言はそれまで――、蘆屋の調伏呪を貴様に見せてやろう」
そう得意げな表情で印を結んだ。そして――、
「急々如律令!」
そう唱えて符を投げる。それはすぐに炎の礫と化して奇蝶を打ち据えたのである。
すると――、
「あああああ!!!!」
村の若い衆たちの背後――、戦いをも守っている村の女たちの中に倒れる者が現れた。
「え?」
彩花が見ると、その倒れた女は生気を吸いつくされたような、年齢に似合わない老いた姿で事切れている。
一葉は確信を得たような表情で道摩を睨んだ。
「村の衆よ!! こ奴を始末するのだ!!」
道摩がそう叫ぶと、背後でそのような事が起こっているとは知らない、若い衆が一斉に奇蝶へと走った。
「彩花!!」
そう一葉が叫ぶ。彩花は困惑の表情で一葉を見る。
「あの異形を殺しちゃダメ!! アイツが死んだら――多分、私たちも――」
「え?!」
その次の一葉の言葉は、まさしく驚くべき話で――。
「よく考えてみてよ――、私たちは三月の間――、アイツの結界内にいて……、一月の間何も食べていない……」
「え? ――あ!!」
「そうよ――、このままあいつが死んだら。正しい現実に戻ったら――、一か月もの間何も食べていないアタシたちは――」
「この人のように……餓死する?!」
それは驚愕の事実――、でも道摩は。
「あの男は――道摩はそれを知ってて、なおあたし達を焚きつけたのよ!! あやかしを始末するために――」
「それじゃあ……」
「アイツは――あたしたちが死のうがどうでもいいって――そう考えているんだ」
そう怒りの表情で言う一葉に、狼狽した表情で彩花が答えた。
「と――止めないと!!」
「そうだね!!」
二人はそう言って若い衆たちを追いかける。その中心にいて民を扇動しているのは道摩である。
「道摩様!!」
そう言って、彩花は得意げな表情で皆を扇動する道摩に縋りついたのであった。
「道摩様!! やめてください!! 皆が――死んで……」
「――……」
道摩はそんな彩花を冷たい目で見る。――そして、
「それがどうした?」
そう言い放ったのである。
――と、その時、村の若い衆の攻撃を潜り抜けてきた奇蝶が、その鉤爪で道摩を狙う。
道摩は特に気にする様子もなく避けようと身をひるがえした。
――しかし、
「彩花!!」
その瞬間、一葉の声が彩花の耳に届く。ソレの意図することは――、
「道摩様!!」
彩花はそう叫んで道摩の身を後ろから羽交い絞めにした。それはまさしく鉤爪が振るわれる瞬間であり。
「彩……」
道摩の言葉が鮮血と共に口から流れる。
道摩は――、奇蝶の鉤爪にその腹を貫き通されていた。
「ああ……道摩様」
彩花はただそれを見て泣き崩れる。
「ごめんなさい――道摩様。でも……」
泣き崩れる彩花の目前で、道摩は眼を見開いたまま崩れ落ちる。
それはもはや――、
「彩花――」
一葉が彩花に声をかける。
「これしかなかったのよ――、このままじゃ私たち」
そう言って彩花を慰める一葉は――、その表情が見えない。
「彩花――これでいいのよ。――そう……これでいい」
――これで、高級な魂が私のモノに……。
【……気にせずにお眠りなさい彩花……、貴方は本当に良くやったわ】
「――」
【術師の高級な魂を誘き寄せてくれた――】
「――……」
【さあ……、貴方も――】
――と、不意に村に大きな笑い声が響く。それは――、
「いい夢は見れたか? 一葉……」
そう言葉を発するのは――、
「え?」【あ……?】
それは眼をむいて事切れていたはずの道摩であった。
顔を涙で濡らしている彩花は、その姿を驚いた表情で見る。
「道摩様?!」
「彩花――、大丈夫だ……。俺はこうして生きている」
「道摩様!!」
彩花の悲しい涙はうれし涙に変わり、そしてそれを見た道摩は――、
「彩花――、今から全てを話す……よく聞くがよい」
「すべて?」
そういう道摩は立ち上がりつつ、あやかしを無視して一葉を睨みつけたのであった。
それを見て何か確信を得たようですが――、果たして?
「貴方が道摩様でございますか?」
村の集会場へとやってきた道摩達を迎えたのは、村の現長老の娘である楓であった。
「ふむ――、その通りであるが……、村の長老も眠って起きないようだな?」
「それは……、その通りです。しばらく前に眠ったまま起きなくなってしまいまして、今は娘のわたくしが村の長の代理を務めております」
「なるほどな――、それで……、多くの者がここに集まって、身を寄せ合っているという事は、不審な異形が村を徘徊していることを知っておるからで間違いないか?」
その道摩の言葉に楓は頷く。
「はい……。つい先日より、わたくし達の中に眠って起きぬものが現れまして、最初はただ眠っているだけだと思っておりましたが、どのような術具を試しても起きることはなく……。そして、その原因がちょうど同時期に村に現れ始めた、異形にあるのだと確信を得まして――、皆を集会場に集めて、鈴の音が鳴ったら眠ることなく耳を押さえるように――と」
「――なるほど。そうして、奴から身を守っておったと?」
「はい――、無論、一度は異形を倒すことが出来ないかと思案いたしましたが――」
「だが、出来なかったと?」
「……はい」
楓はその言葉を聞いて俯きながら、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「あの異形にはどうにも勝てる気がせず、逃げるしか手がなかったのです……」
「ふむ……、それは意識を歪ませる異能を持っていると考えられるか?」
「そうですね。呪の知識は土蜘蛛の民ゆえにある程度理解しているので――、アレは間違いなく精神を操るあやかしなのではと……。あそこまで意識を持っていかれると、我々にもどうにも出来ず……」
「なるほどな……。やはり、アレはそういう類のモノだったか」
「何かご存じなのでございますね? もしや、貴方様のお力ならばどうにか出来るとか――!?」
楓は期待を込めた目で道摩を見つめる、彼は小さく鼻を鳴らして首を縦に振った。
「当然であるぞ? 俺に任せておけ」
「おお! 流石は陰陽師殿だ!」
「なんと頼もしい!」
道摩の言葉を聞いた村人達は、歓喜の声を上げる。それを唯一うさん臭いものを見る目で一葉は見る。
「本当に大丈夫なのかしら?」
そう呟く一葉を苦笑いして彩花が見つめる。
「では――、あのあやかしについて、俺の理解してることを話すとしようか?」
「それは、有難い」
村人は期待の目で道摩を見る。それを見て満足そうに頷いた道摩は、まず初めにその場の皆が驚愕すべき言葉を放った。
「――まずは、あの鈴の音を聞いて眠っておる者達――、アレは眠っておるのではなく、死にかけておるのだ」
「は?!!」
道摩のあまりにも驚くべき言葉に、その場の皆が息をのむ。
「あのあやかしは鈴の音をヒトの精神へと作用させ――、それによって精神力を奪って喰らっておるのだよ」
「それでは――!!」
「そう……、眠りではなく昏睡――それが眠って起きぬ者の症状の正体なのだ」
「なっ……」
道摩の告げた衝撃的な事実に、その場にいる誰もが言葉を無くす。
「年老いた者から昏睡しておるのは――、老いて精神力が衰えておるから……。このまま放っておけば、いずれ近いうちにも死に至るであろうな」
「そんな!! どうすれば?!」
村人の一人が悲痛な声を上げると、それを聞いた道摩は口角を上げてニヤリと笑う。
「簡単な事よ……。あやつを殺してしまうのだ」
「殺す――とは?」
「そのままの意味よ。殺せばよいのだ」
「しかし、我々はあやかしを殺すことは出来ません!」
「そうです! 我々では精神を操られて傷つける事はおろか、近づくことすら出来ないのです!」
「ああ、確かに普通の者であれば難しいだろうな。だが――、俺ならば話は別だ。俺は陰陽師であり、神に仕える者であり、そして何より――、退魔の術に長けているのだからな!」
その言葉に村人達の瞳に希望の光が宿る。
「貴方様になら、あのような異形など容易いことかもしれませぬ!」
「さよう! 我らにはもはや道摩様しか居られませぬ!」
「どうか――! どうか、お力をお貸しくださいませ!」
次々と懇願する村人達に、道摩は自信満々に胸を張って答える。
「任せておけと言ったであろう! この俺が来たからにはもう安心だ」
その力強い宣言に、村人達は沸き立つ。
「おお! 流石は道摩様!」
「これで村が救われますぞ!」
盛り上がる村人の中で一人、一葉は冷ややかな視線を向けている。
「こんな得体のしれない男に全てを任せて大丈夫なのかしら?」
「一葉ちゃん……、あの人はここら一帯では有名な陰陽師で……」
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「それは……」
一葉の不安の声を他所に、事態は着々と進んでいく。
「それでは、早速始めるとするか。お前達――、準備を始めろ」
道摩の指示を受けて、村の若い衆が動き出す。彼らは、集会場の外にあった荷物の中から様々な武器を取り出していく。
道摩はそれを眺めつつ、自身が持ってきた道具の中からいくつかの符を取り出した。
「何をするつもり?」
「まぁ見ておれ」
そう言う一葉の問いに、得意げな顔で答える道摩。
道摩は村の若い衆を一つ所に集めると、その前で符を手にして印を結び呪を唱えたのである。
「急々如律令」
すると、集められた者達の周囲に淡い光を放つ陣が浮かび上がったのである。
――それを見て楓が問う。
「これは――、結界か何かですか?」
「そうだな。今ここに張られたのは、あやかしの精神への侵入を防ぐ為の防壁だ。これならば、彼らの意識へあやかしが直接影響を及ぼす事は出来なくなる。つまり――、こちらが意識を支配される心配もないという訳だ!」
「なるほど――、それで私達があやかしを恐れることもないと」
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「ふむ……、では俺も戦う準備をするか」
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「ありがとうございます!」
「では――、行くとするか」
道摩はそう言って、皆を率いて歩き出した。
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「無論だが? 何か止まらねばならぬ意味があるのか?」
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「それは――」
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「――」
「故に、俺はあやかしを――、根源を絶つ必要があるのだよ。あのあやかしに喰われた精神を取り戻す為にもな」
「……」
「だから、俺は行くぞ」
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今、村には昼と夜の区別がない。しかし、それを明確に分ける存在がある。
――それこそ、鈴の音とともに現れる異形の蝶――。
しばらく村の中央で待ち構えていた道摩と村人たちは、その死を舞う奇蝶の出現を見た。
――それは、まるで煙が立ち上るかのような、薄い霞が現れそして蝶の形となって出現したのである。
道摩はまず村人たちを下がらせると、その異形の蝶に向かって一人歩いていった。
「道摩様!」
村人たちが心配そうに道摩の様子を眺める。
そんな村人たちを気にすることなく、道摩はその異形に向かって大きな声で言い放った。
「あやかしよ!! 覚悟しろ!! 我こそは陰陽師・道摩法師なり!! 今より貴様を倒し、村に朝日を取り戻そうぞ!!」
それは――、なんとも芝居じみた言い方であったが、村人は喜んで声援を送った。
【――ああ、愚かな人よ――、本当に私を倒すつもりですか?】
不意に異形が言葉を発する。
「ほう? 言葉をかいするのか?」
【ええ――もちろんですよ?】
「ならば話は早い――、村から手を引くがよい」
【嫌だといったら?】
「このまま貴様を始末する」
道摩は上から目線であやかしを見下ろす。あやかしはそれを見て――笑った。
「――……」
【ふふ――、愚かな。私を殺せばどうなるか……しっかりと理解していますか?】
「皆が救われる」
【それは――本当に、愚かな――】
そのあやかしの言葉を聞いて、背後にいた一葉が言う。
「どういう事よ! あんたを倒すと何か起こるというの?!」
「一葉よ――聞く必要はないぞ?」
「でも――」
道摩の言葉に、一葉は怪訝な表情で答える。
「こ奴はうそつきである――、倒せば丸く収まるさ」
「本当に?」
「俺が言うから間違いない」
不審な表情の一葉に得意げな表情をした道摩が言う。
あやかしはそれを見てさらに笑った。
【あらあら――、この男は愚かというよりも――、すべてを理解して、そのうえで言っているのかしら?】
「――……」
【ふふ――そう、そこの貴方――】
奇蝶が一葉を指さす。
【この男を信じちゃだめよ? なぜなら――】
「一葉――、こいつの戯言を聞くな」
【――私を倒すという事は――、長い夢から覚めるという事は――。止まった時を取り戻すという事は――】
それを聞いて一葉は何かを悟る。それを彩花が見て――。
「一葉ちゃん? どうしたの?」
「まさか――……」
「一葉ちゃん?」
道摩は彩花児の言葉に構わず、自らの懐から符を一枚取り出す。
「ふん! 戯言はそれまで――、蘆屋の調伏呪を貴様に見せてやろう」
そう得意げな表情で印を結んだ。そして――、
「急々如律令!」
そう唱えて符を投げる。それはすぐに炎の礫と化して奇蝶を打ち据えたのである。
すると――、
「あああああ!!!!」
村の若い衆たちの背後――、戦いをも守っている村の女たちの中に倒れる者が現れた。
「え?」
彩花が見ると、その倒れた女は生気を吸いつくされたような、年齢に似合わない老いた姿で事切れている。
一葉は確信を得たような表情で道摩を睨んだ。
「村の衆よ!! こ奴を始末するのだ!!」
道摩がそう叫ぶと、背後でそのような事が起こっているとは知らない、若い衆が一斉に奇蝶へと走った。
「彩花!!」
そう一葉が叫ぶ。彩花は困惑の表情で一葉を見る。
「あの異形を殺しちゃダメ!! アイツが死んだら――多分、私たちも――」
「え?!」
その次の一葉の言葉は、まさしく驚くべき話で――。
「よく考えてみてよ――、私たちは三月の間――、アイツの結界内にいて……、一月の間何も食べていない……」
「え? ――あ!!」
「そうよ――、このままあいつが死んだら。正しい現実に戻ったら――、一か月もの間何も食べていないアタシたちは――」
「この人のように……餓死する?!」
それは驚愕の事実――、でも道摩は。
「あの男は――道摩はそれを知ってて、なおあたし達を焚きつけたのよ!! あやかしを始末するために――」
「それじゃあ……」
「アイツは――あたしたちが死のうがどうでもいいって――そう考えているんだ」
そう怒りの表情で言う一葉に、狼狽した表情で彩花が答えた。
「と――止めないと!!」
「そうだね!!」
二人はそう言って若い衆たちを追いかける。その中心にいて民を扇動しているのは道摩である。
「道摩様!!」
そう言って、彩花は得意げな表情で皆を扇動する道摩に縋りついたのであった。
「道摩様!! やめてください!! 皆が――死んで……」
「――……」
道摩はそんな彩花を冷たい目で見る。――そして、
「それがどうした?」
そう言い放ったのである。
――と、その時、村の若い衆の攻撃を潜り抜けてきた奇蝶が、その鉤爪で道摩を狙う。
道摩は特に気にする様子もなく避けようと身をひるがえした。
――しかし、
「彩花!!」
その瞬間、一葉の声が彩花の耳に届く。ソレの意図することは――、
「道摩様!!」
彩花はそう叫んで道摩の身を後ろから羽交い絞めにした。それはまさしく鉤爪が振るわれる瞬間であり。
「彩……」
道摩の言葉が鮮血と共に口から流れる。
道摩は――、奇蝶の鉤爪にその腹を貫き通されていた。
「ああ……道摩様」
彩花はただそれを見て泣き崩れる。
「ごめんなさい――道摩様。でも……」
泣き崩れる彩花の目前で、道摩は眼を見開いたまま崩れ落ちる。
それはもはや――、
「彩花――」
一葉が彩花に声をかける。
「これしかなかったのよ――、このままじゃ私たち」
そう言って彩花を慰める一葉は――、その表情が見えない。
「彩花――これでいいのよ。――そう……これでいい」
――これで、高級な魂が私のモノに……。
【……気にせずにお眠りなさい彩花……、貴方は本当に良くやったわ】
「――」
【術師の高級な魂を誘き寄せてくれた――】
「――……」
【さあ……、貴方も――】
――と、不意に村に大きな笑い声が響く。それは――、
「いい夢は見れたか? 一葉……」
そう言葉を発するのは――、
「え?」【あ……?】
それは眼をむいて事切れていたはずの道摩であった。
顔を涙で濡らしている彩花は、その姿を驚いた表情で見る。
「道摩様?!」
「彩花――、大丈夫だ……。俺はこうして生きている」
「道摩様!!」
彩花の悲しい涙はうれし涙に変わり、そしてそれを見た道摩は――、
「彩花――、今から全てを話す……よく聞くがよい」
「すべて?」
そういう道摩は立ち上がりつつ、あやかしを無視して一葉を睨みつけたのであった。
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やがて彼は、歴史さえ書き換える“もう一人の信長”になる。
貧しい百姓・十兵衛は、織田信長の影武者として拾われた。
戦場で命を賭け、演じ続けた先に待っていたのは――本能寺の変。
炎の中、信長は死に、十兵衛だけが生き残った。
家臣たちは彼を“信長”と信じ、十兵衛もまた“信長として生きる”ことを選ぶ。
偽物だった男が、やがて本物を凌ぐ采配で天下を動かしていく。
「俺が、信長だ」
虚構と真実が交差するとき、“天下を盗る”のは誰か。
時は戦国。
貧しい百姓の青年・十兵衛は、戦火に焼かれた村で家も家族も失い、彷徨っていた。
そんな彼を拾ったのは、天下人・織田信長の家臣団だった。
その驚くべき理由は——「あまりにも、信長様に似ている」から。
歴史そのものを塗り替える——“影武者が本物を超える”成り上がり戦国譚。
(このドラマは史実を基にしたフィクションです)
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
【戦国時代小説】 甲斐の虎•武田信玄と軍師•山本勘助
蔵屋
歴史・時代
わたしは、以前、甲斐国を観光旅行したことがある。
何故、甲斐国なのか?
それは、日本を象徴する富士山があるからだ。
さて、今回のわたしが小説の題材にした『甲斐の虎•武田信玄と軍師•山本勘助』はこの甲斐国で殆どの戦国乱世の時代を生き抜いた。そして越後の雄•上杉謙信との死闘は武田信玄、山本勘助にとっては人生そのものであったことだろう。
そんな彼らにわたしはスポットライトを当て読者の皆さんに彼らの素顔を知って頂く為に物語として執筆したものである。
なお、この小説の執筆に当たり『甲陽軍鑑』を参考にしていることを申し述べておく。
それでは、わたしが執筆した小説を最後までお楽しみ下さい。
読者の皆さんの人生において、お役に立てれば幸いです。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
日露戦争の真実
蔵屋
歴史・時代
私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。
日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。
日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。
帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。
日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。
ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。
ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。
深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。
この物語の始まりです。
『神知りて 人の幸せ 祈るのみ
神の伝えし 愛善の道』
この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。
作家 蔵屋日唱
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
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