シーラカンスと黒い翼

石谷 落果

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case1 ウツミ・ルイ

ある湖畔にて、透明度140mほど⑤

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 先程から、言葉を発していない潜水が生活の一部と思われるシーラカンスはむつかしい顔をして湖を観察していた。  
 元々表情は読みにくいし、そもそも意思疎通ができるだけでほとんど魚と変わらない。果たしてぼくたち人間が持っている感情と彼の抱く感情を同列に扱っていいかは不明だ。
「ねえ、ルイ。メリアはなんて言ってるの?」
 エノには、ぼくに空想従者が憑いていることを話してある。独り言を喋っても不気味がられないためと、信頼できる人間と共有することで安心したかったからだと思う。
「それが、何も言わないんだ。ずっと考えている。まるで石像だよ。ただでさえ鉱物みたいな色合いだから余計にね」
「普段は年寄りみたいによく喋るくせに」
 水球から首だけ出して、眉を大きく上げて放ったエノの言葉は、ひどく偏見に満ちた感想だったが、ぼくも概ね同意だった。
「話したくなったら、嫌でも口を開くよ」
 空想従者独特の察知能力が発動していれば、ぼくたちに危険が及ばないように制止してくれる。メリアが静観している様子から大きな危険が待ち受けている可能性は低そうだ。
 ぼくたちはさらに深くへと進む。
 当然ながら、動力のついていないこの潜水艦は、ぼくのコントロールで潜水と浮上を行う。自然も体力もすり減らないが、心は疲れる。ロールプレイングゲームでいうところのMPみたいなものだろう。
 秒速50cmで、球形を維持したまま沈んでいく。耳が変になってきて、ぼくは唾を飲み込んだ。
 深度は約100mに達した。
 ギラギラと差し込んでいた太陽光も水面の20%以下になってしまった。水壁にかかる圧力も大きくなるため、形状維持するため神経を集中させた。湖の底はまだまだ見えない。相変わらず生物の影すらない。覆い被さるように、圧倒的な静寂が忍び寄ってくる。祖父の育てる貝が生き残っていたことが不思議に感じるほどに。
「エノ、苦しくない?」
「平気よ。ネレウスフライトに先を越されるくらいなら60気圧くらい根性で押し返してみせるわ」
 無限に広がる青く暗い世界で肺呼吸の生命体は儚い。
 ぼくは長い深呼吸をした。
 アンチ支配能力を謳う民間企業ネウレスフライトが開発した潜水艇は最高深度605mを記録した。首都オトナシにある国立研究開発機関は、海洋エネルギーの採掘に躍起なため、メジウ湖の探索は民間優位である。彼らの理念は、人類が神に与えられた力は知恵であり、それ以外は必要ないというもの。
 彼らならこの辺りまでは容易に到達するはずだ。
「いけ好かないあいつらが原因究明なんて悔しいから、さっさと底まで行くよ!」
 この世界には色んな思想の人間がいる。たった120年ほど前に現れた支配能力者という我が物顔で世界中に出現した新参者を毛嫌いする者は少なくない。そういった類の人たちが支配能力に関わる全てを取り去って組織作りすることは想像しやすい。
 唯一の救いは、ネウレスフライトはあくまで物理学の範疇で、人間の頭脳を最大限行使して社会貢献しようとしているだけで、支配能力者を積極的に排除しないことだった。
「ぼくも負ける気はないよ」
 さらに深くへと『潜水艦』を潜らせる。順調に潜水を続け、深度400mに達した時、ぼくたちは湖の異変を垣間見た。
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