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第13話 009 東北ユーラシア支部商業区食糧倉庫前(2)
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商業区の入場口を通り過ぎた辺りで、前方に大型のスーパーマーケットらしき建物が見えた。大きなガラス窓があったと見受けられる箇所は、その枠だけを残し周辺には透明な破片が散乱していた。
ザクザクと、同種たちがその破片を踏む音が遠くからでも聞こえてくる。彼らの周囲には大量の死体がうつ伏せで倒れていた。
スーパーマーケットを支える柱にはおびただしい数の銃弾の痕跡があった。実際何があったかは知らないが人間と同種たちの激しい戦闘を物語っているように思えた。
幸いにもその周辺にいた同種たちに認知されず商業区の奥へと回り込むことに成功した俺たちは、その右手側に見える大きな建物を視野に入れた。
「芹香先生、あれって食糧倉庫だよな?」
「うーん、たぶん。でも、あの付近なんて行かないから、いくら芹香先生でも、わかんないよ」
なんて頼りない……彼女に訊いた俺が馬鹿だった。
前にいる同種と間合いを詰めている最中だったが、俺は思わず吐息をついた。
食糧倉庫は基本的にその支部で船内活動周期にある者たちの人数分の食糧を賄うために存在し、俺の知る限り多くの場合、人口が集中する商業区に位置している。また、その少なくない人数分の食糧を生産、備蓄する役割があるため、その区で最も大きい建物であるケースがほとんどだ。
これが地球であれば、各所に小規模の食糧倉庫を用意できるのだろうが、いくら巨大な宇宙船地球号であろうとも、実態は広さが制限される宇宙船だ。地球ほどの敷地を用意できるはずもない。公式表明があったわけではないが、大サイズの食糧倉庫が必要な理由はその一点のみのはずだ。
そして、俺たちはこの東北ユーラシア支部商業区の中で食糧倉庫であろうその最も大きい建物へと現在向かっていた。
しばらく道なりに進むと前方に建物の入り口が見えた。
ところどころ壁が崩れている箇所があったりガラス窓が割れた形跡などはあったが、先ほどのスーパーマーケットと違いその建物は一応ながら建物としての体裁を保っているように思えた。
さらに建物上部の看板にはFood Stockとはっきりと印字されていた。間違いなく食糧倉庫だ、と俺はほっと胸を撫でおろした。
「あれ? 開かないな」
入り口にたどり着くなり、引き戸タイプの大きな扉を横にやった洋平が言った。
「もしかすると、生き残った人たちが中にいるかもしれないわ。この大きさの食糧倉庫であれば、衣食住の衣服は除外したとしてもそれ以外は困りそうにもないものね」
絵麻が洋平に声をかけた。
確かに彼女の言う通り俺たち以外にも生存者がいて、この中で生活をしていたとしても不思議ではない。俺がこの付近で同種に襲われたとしたら、逃げ込む先は真っ先に食糧倉庫を選ぶことだろう。
「あれ? インターフォンがあるよ」
洋平の隣にいた早野が扉の右側にあった黒い端末を指で示した。
さらに下部にあるスイッチへ手を伸ばそうとする。
だが、早野はすぐにその手を引っ込めた。
その端末は短いノイズを響かせる。
(残念だけど、きみたちをこの中へ入れることはできない)
インターフォン越しに男の声が聞こえてきた。
「え? 何で?」
早野がすぐに尋ねる。
彼が訊かなければ俺も同じ行動をとったことだろう。
丁寧な口調で悪い感じはしないが……このインターフォンの男。俺たちが同種であるとでも思っているのだろうか。
地下通路の時とは違い、誰の服にも血はついていない。同種化を想起させる傾向さえないはずだ。
(きみたちが同種ではないことは、会話が可能であることときみたちの立ち振る舞いからわかっている。だけど、食糧の備蓄はここで生活している我々の分しかもうないんだ)
男は俺の疑問に答えるかのように言った。
「おい、誰かは知らないけど頼むよ。俺たちだってもう引き返せないんだ」
洋平が声を荒げる。
食糧を得るために右京宅メゾネットを犠牲にしたに等しい作戦を俺たちは実行した。彼がそれを引き合いに出すのも無理からぬことだ。
(……きみたちの状況はよくわかっているつもりだよ。だけど、私もここにいる人たちを犠牲にはできない)
苦しそうな声で男はそう述べた。
「早野、スナイパーライフルをインターフォンに向けろ。そこにある監視カメラに映るようはっきりとな。美雪と絵麻もだ」
俺の背後にいた八神がそう指示を送った。
彼に名指しされた三人は若干困惑しながらも、インターフォンの中央付近にあった小さな丸いガラスの球体に向けてそれぞれの銃器を近づけた。
八神自らも武具一式をその球体の前へとやる。
「同種に対抗する手段がなくてこんなところに閉じ籠っているんだろう。俺たちはおまえたちの脱出を成功させる第一手段になる」
と、続けて言う。
(……ちょっと待ってくれ。相談する)
インタフォーンの男はそう言うと、俺たちとの通話を切った。
五分ほどの時間が経った。大きな音を立てて食糧倉庫の扉は開いた。
そして、その中から、厚めのカーディガン、サスペンダーに白いワイシャツ、黒ズボンを身に纏った白髪交じりの金髪の髪の毛を持った顔のやつれた細身の背の高い男が現れた。
ザクザクと、同種たちがその破片を踏む音が遠くからでも聞こえてくる。彼らの周囲には大量の死体がうつ伏せで倒れていた。
スーパーマーケットを支える柱にはおびただしい数の銃弾の痕跡があった。実際何があったかは知らないが人間と同種たちの激しい戦闘を物語っているように思えた。
幸いにもその周辺にいた同種たちに認知されず商業区の奥へと回り込むことに成功した俺たちは、その右手側に見える大きな建物を視野に入れた。
「芹香先生、あれって食糧倉庫だよな?」
「うーん、たぶん。でも、あの付近なんて行かないから、いくら芹香先生でも、わかんないよ」
なんて頼りない……彼女に訊いた俺が馬鹿だった。
前にいる同種と間合いを詰めている最中だったが、俺は思わず吐息をついた。
食糧倉庫は基本的にその支部で船内活動周期にある者たちの人数分の食糧を賄うために存在し、俺の知る限り多くの場合、人口が集中する商業区に位置している。また、その少なくない人数分の食糧を生産、備蓄する役割があるため、その区で最も大きい建物であるケースがほとんどだ。
これが地球であれば、各所に小規模の食糧倉庫を用意できるのだろうが、いくら巨大な宇宙船地球号であろうとも、実態は広さが制限される宇宙船だ。地球ほどの敷地を用意できるはずもない。公式表明があったわけではないが、大サイズの食糧倉庫が必要な理由はその一点のみのはずだ。
そして、俺たちはこの東北ユーラシア支部商業区の中で食糧倉庫であろうその最も大きい建物へと現在向かっていた。
しばらく道なりに進むと前方に建物の入り口が見えた。
ところどころ壁が崩れている箇所があったりガラス窓が割れた形跡などはあったが、先ほどのスーパーマーケットと違いその建物は一応ながら建物としての体裁を保っているように思えた。
さらに建物上部の看板にはFood Stockとはっきりと印字されていた。間違いなく食糧倉庫だ、と俺はほっと胸を撫でおろした。
「あれ? 開かないな」
入り口にたどり着くなり、引き戸タイプの大きな扉を横にやった洋平が言った。
「もしかすると、生き残った人たちが中にいるかもしれないわ。この大きさの食糧倉庫であれば、衣食住の衣服は除外したとしてもそれ以外は困りそうにもないものね」
絵麻が洋平に声をかけた。
確かに彼女の言う通り俺たち以外にも生存者がいて、この中で生活をしていたとしても不思議ではない。俺がこの付近で同種に襲われたとしたら、逃げ込む先は真っ先に食糧倉庫を選ぶことだろう。
「あれ? インターフォンがあるよ」
洋平の隣にいた早野が扉の右側にあった黒い端末を指で示した。
さらに下部にあるスイッチへ手を伸ばそうとする。
だが、早野はすぐにその手を引っ込めた。
その端末は短いノイズを響かせる。
(残念だけど、きみたちをこの中へ入れることはできない)
インターフォン越しに男の声が聞こえてきた。
「え? 何で?」
早野がすぐに尋ねる。
彼が訊かなければ俺も同じ行動をとったことだろう。
丁寧な口調で悪い感じはしないが……このインターフォンの男。俺たちが同種であるとでも思っているのだろうか。
地下通路の時とは違い、誰の服にも血はついていない。同種化を想起させる傾向さえないはずだ。
(きみたちが同種ではないことは、会話が可能であることときみたちの立ち振る舞いからわかっている。だけど、食糧の備蓄はここで生活している我々の分しかもうないんだ)
男は俺の疑問に答えるかのように言った。
「おい、誰かは知らないけど頼むよ。俺たちだってもう引き返せないんだ」
洋平が声を荒げる。
食糧を得るために右京宅メゾネットを犠牲にしたに等しい作戦を俺たちは実行した。彼がそれを引き合いに出すのも無理からぬことだ。
(……きみたちの状況はよくわかっているつもりだよ。だけど、私もここにいる人たちを犠牲にはできない)
苦しそうな声で男はそう述べた。
「早野、スナイパーライフルをインターフォンに向けろ。そこにある監視カメラに映るようはっきりとな。美雪と絵麻もだ」
俺の背後にいた八神がそう指示を送った。
彼に名指しされた三人は若干困惑しながらも、インターフォンの中央付近にあった小さな丸いガラスの球体に向けてそれぞれの銃器を近づけた。
八神自らも武具一式をその球体の前へとやる。
「同種に対抗する手段がなくてこんなところに閉じ籠っているんだろう。俺たちはおまえたちの脱出を成功させる第一手段になる」
と、続けて言う。
(……ちょっと待ってくれ。相談する)
インタフォーンの男はそう言うと、俺たちとの通話を切った。
五分ほどの時間が経った。大きな音を立てて食糧倉庫の扉は開いた。
そして、その中から、厚めのカーディガン、サスペンダーに白いワイシャツ、黒ズボンを身に纏った白髪交じりの金髪の髪の毛を持った顔のやつれた細身の背の高い男が現れた。
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