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6:死神
しおりを挟む一言でそれを表現するならば、死神。
全身を黒いローブで覆ったそれは宙に浮いており足は確認できない。
顔はフードを被っていて見えにくいが、髑髏の様に見える。
体より大きな鎌を持っており、口は動いてないのに、何処から発しているのかカラカラと笑い声の様な音が聞こえてくる。
「ひぃ!!」
彼女はその姿にすっかり怯えてしまっている。
尻もちをつき、その姿のまま後ろにズリズリと下がる。
僕は咄嗟に彼女の前に出た。
普段の僕なら彼女と同じように怯えて尻もちをついていただろう。
アンデッドになった影響で恐怖の感情が薄れたのだろうか?
そしてこれもアンデッドになった影響か、それとも【ネクロマンス】の影響か、相手との各の差が分かってしまう。
恐らくアレは僕と同じアンデッドに分類される魔物なのだろう。
本能が、魂が、絶対に勝てないと訴えている。
それでも、僕は彼女の前を退かない。というか動けない。まるで何かの強制力が働いている様だ。
死神が、徐に動き出した。ゆっくりと、それでも確実に僕に近づいてくる。
そして眼前で止まると、大鎌を振り上げた。
あ、これは死んだ。
いや、もう死んでたんだった。
刹那の間にそんなしょうもない事を考えていた僕の体を大鎌が通り過ぎた。
……
…………
………………
何も起きない。
上半身と下半身がお別れしたわけでも、とんでもない激痛が走るわけでもない。
どうなっているんだ?
僕が不思議に思い自らの体をペタペタと触っていると、不意に脳に響くような声が聞こえた。
『…貴様…………アンデッドか?……』
しゃ、喋ったー!!
え?喋れるの?
というか僕はこの死神がアンデッドだと直感で分かったけど、もしかして彼方は分からないのか?
と、とにかく話が通じるのならば助かるかも知れない。
僕は必死に見逃してくれるように交渉を持ちかける。
「ア”ア”ア”ア”ーーーーァア”(こちらに戦う意志はありません!)」
って、僕の方が喋れないんだったー!!
これじゃ交渉なんて無理だ!
残りの頼みの綱は……
僕は期待を込めて彼女を見た。
彼女は顔面を蒼白させて、全身を小刻みに震わせながら、涙を滲ませた顔をフルフルと左右に振っている。
「む、むり……」
とても交渉なんて出来る雰囲気じゃない。どうすれば……
『………ふむ……………気配も感じられない程の下級アンデッドの分際で思考出来る精神があるのか……おもしろいな………』
死神はなにやら考え込んでいる。もしかしたら見逃して貰えるかも知れない。そんな甘い考えが僕の脳裏をよぎる。
『……どれ……【鑑定】……』
え?!
今もしかしてこの死神は鑑定のスキルを使ったのか?
アンデッドもスキルを使えるのか?!だとすれば僕も?この状況を打開出来るようなスキルがあれば…って、自分のスキルも分からないのにどうやって。
『……ふむふむ……なるほど。後ろの女、名は灰田 亜希。異世界人か。面白いスキルを持っているな。【ネクロマンス】。なるほどなるほど……そちらのアンデッドはお前のスキルで生み出したものか……ならばこそ低級のアンデッドであるコヤツが思考回路を有しているわけだな……ククク……実に興味深いな…』
カタカタという笑い声の様な音と、クククという含み笑いが重なる。中々器用な笑い方だな。
というか、彼女の名前灰田さんか。言われてみればそんな名前だった気がする。忘れないようにしよう。
『さらに低級アンデッドである貴様が2つもスキルを有していることから察するに、貴様も異世界人だな?……いや、元異世界人か。……同郷の人間を殺して配下にしたのか?……なかなかどうして……業が深いではないか……』
死神は実に愉快そうに笑う。
「こ、殺してない!」
喋るのも苦しそうな灰田さんだが、そこだけは大声で否定した。
チロリと死神の視線が灰田さんを見据えた。
『……まぁ、どちらでも良いことだ……娘。殺されたくなければ我の言う通りにして見せろ……』
死神の興味は僕から灰田さんに完全にシフトしたようだ。
く、僕の2つのスキルって何と何なんだ?!気になる。って今はそんな事を気にしている場合じゃ無かった!
こいつ、灰田さんに一体何を命令するつもりだ。
「な、なによ?」
『我に【ネクロマンス】のスキルを使って見せろ』
「………は?」
…………は?
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