独立不羈の幻術士

ムルコラカ

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第三章

第五十二話 崩壊の足音

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 シェーナに手を引かれるまま宿舎を出た私は、大教会の広大な敷地を横切って近くにある西神殿へとやって来た。

 すれ違う聖職者達が尽く恐れと蔑みと困惑を綯い交ぜにしたような視線を送ってくるが、わざわざ呼び止めて咎めようとする人はひとりも居ないみたいだ。関わりたくないのだろう。

 私とてそれは同じだ。以前は隔意を向けられると萎縮したものだが、今はもう既に憤りも悲しみも感じない。

 それよりも、シェーナの意図が気になった。

「昼の礼拝はもう終わってるんじゃないの?」

 既に時刻は正午を過ぎ、太陽は西に傾きつつある。聖職者達の日課となっている礼拝は朝昼夕の三回分あるが、この時間なら昼間の分は既に終えているだろう。

「違うわ。シッスルがいくら普段からその辺ずぼらだからって、今更無理に参加させようとは思わないわよ。礼拝は、心から神を崇敬する気持ちが無いと却って不敬になるんだから」

 聴かずもがなの答えがシェーナから帰ってくる。わざわざ言葉にせずとも、その当たりは彼女も心得ていることだ。だが、それならどうしてシェーナは私を此処に連れてきたんだろう?

「それじゃあ、初心に帰れって意味で?」

 私が大主教の手で洗礼を受け、正式にシェーナと組んだのは此処の第三礼拝堂でのことだ。たった数ヶ月前の出来事だが、今では遠い昔に感じる。

「あなたの初心は此処なの?」

 シェーナが振り向き、私を試すように問いかける。私はぐっと顎を引いて、無言で首を横に振った。

「そうでしょうね。此処で洗礼を受ける前から、あなたはあなただった」

「シェーナ?」

「行きましょう。最初の目的地は西神殿じゃないの。もう少し先に行ったところよ」

 シェーナは再び私の手を引いて、西神殿を素通りする。私は彼女の好きなようにさせておく。彼女の意図を確かめようとする意欲も失せていた。

 どうせ全てに意味なんて無い。周りでは相変わらず聖職者達の奇異の目が取り巻いているが、それに対する鬱陶しさすら……。

「……あれ?」

 何気なく周囲に目線を流した私は、そこで奇妙な空気感が醸成されているのに気付いた。

 人の流れが荒立たし過ぎる。法衣をまとった聖職者達が、額に汗を浮かべつつ切羽詰まった形相でひっきりなしに右往左往している。私達の存在に気付いて顔をしかめる人も少なくないが、全員が例外なく足を止めずにそのまま通り過ぎていく。

 そして、その聖職者達に混じって、神聖な大教会には似つかわしくない風体の人々が歩いているのを私の目が捉えた。

「あれは、衛兵に冒険者の人? でも、皆怪我してる……」

 破損して、ボロボロに汚れた鎧をまとった人達が、携えている武器を杖にしながらゆっくりと石畳の通路を歩いてくる。

 彼らは一様に負傷しており、顔に付着した血や泥といった汚れを拭き取ることすらせず、その表情は疲れ切っていた。一歩足を前に踏み出すだけでも億劫そうで、今にもその場に倒れてしまいそうに見える。

 中にはなんと、担架で運ばれている人までもがちらほら居た。

「頑張りなさい! 施療院はすぐそこですよ!」

 彼らに駆け寄った聖職者達が、法衣が汚れるのも厭わず肩を貸しながらそう言って励ます。

「施療院?」

「そう、私達が向かっているところよ」

 ようやくシェーナの口から目的地が語られた。その単語と、たった今目撃した負傷者達の姿を重ねて、嫌な予感が膨らむ。

「大教会の施療院って、一般には解放されていないんじゃなかった?」

 改めて繰り返すが、イル=サント大教会はマゴリア教国国教会の総本山だ。許可のない一般市民は、通常此処へは入ることが出来ない。

 大教会内部に設けられている施療院は、専ら聖職者か守護聖騎士団の為のものだ。

 無論、大教会の外にも怪我や病気の治療を目的とした施設は存在する。カティアさんのように、冒険者ギルドの常駐している治癒騎士だって居る。負傷した衛兵や冒険者は、そちらを利用するのが決まりだ。……普通なら。

「昨日から、特別に解放されたのよ」

 シェーナはそれ以上言わず、ただ私を引っ張ってゆく。私も、込み上げる言葉を喉元で押し留めてひたすら足を動かした。

 ここ二日の間、私は外の情報をシャットダウンしていた。その間に、何かただならぬことが起きている。シェーナも今日まで何も言わなかったが、もしかしたら彼女も受け止めきれていなかったのかも知れない。

 いずれにせよ、間もなく私は現実と向き合うだろう。

「見て、シッスル。これが、今外で起きていることよ」

 そして施療院に到着した時、嫌な予感が正しかったと思い知ることとなった。

 病室だけでなく、だたっ広い玄関ホールにまで所狭しと並べられた簡易なシート。そこに横たわる負傷者の数々。

 施療院の職員を務める聖職者や、この為に招集されたと思しき守護聖騎士達が病室やホールの間を忙しなく行き来し、膨大な数の負傷者達に寄り添っていた。

「こ、これは……!?」

「私達が聖下に謁見を乞いに赴いている時あたりから、アヌルーンの内外で多数の魔物が出没するようになったの。先の全一特例作戦の時を大きく凌ぐ、莫大な頻度と数よ。彼らは、その犠牲者」

 シェーナの言葉を聴いて、自分の顔から血の気が引くのがはっきり分かった。

「内外で、って……街中まで魔物が出没してるの!?」

「ええ。既に全域に戒厳令が出されているわ。アヌルーンは今、かつてない緊張に包まれている」

「そんな……! 私、全然知らなかった……!」

「私も、知ったのは今朝になってからよ。国教会は、混乱を避ける為に出来るだけ情報を制限しようと考えているみたい。彼らの意を受けて、街中の冒険者や衛兵、それに守護聖騎士達が懸命に事態の対処に当たっているわ。でも、この惨状を見る限り……」

 シェーナは語尾を濁したが、彼女の言いたいことは痛いほどに分かる。

 改めて見渡してみると、負傷者としてこの施療院に運び込まれているのは衛兵や冒険者達だけでは無い。明らかに戦闘とは無縁の民間人と見なせる人々の姿も少なくなかった。

 街に出ている被害がどれだけのものか、この光景が何よりも物語っていた。

「しっかりしなさい! この程度の傷で死にゃしないわよ!」

 愕然と立ち尽くしていると、不意に聞き覚えのある声が耳を打った。

「カティアさん! あなたがどうして此処に!?」

 見慣れた赤髪のボブカットがくるりと回転し、不機嫌極まる美少女の顔が現れる。

「シッスルにシェーナ、もしかしてあんた達も怪我人!?」

「い、いえ、私達は別に……」

「ああもう、ややこしいわね! 怪我してないんなら何処かに行きなさい!」

 カティアさんはぞんざいに吐き捨てると、シッシッと手で私達を追い払う仕草をしてすぐさま自分が診ていた怪我人に向き直る。

「グランドバーン地区から出向してきたらしいわ。重傷人は特に、こちらへ集めるよう指示が出ているみたいだから。本部に詰めている治癒騎士や、医学薬学を修めている聖職者達だけでは手が足りないのよ」

 シェーナがそっと耳打ちして教えてくれる。

「けど、それじゃあ他の地区で手が足りなくなるんじゃ……?」

「今のところは、どうにか回っているらしいわ。この施療院も、元々はこうした事態に備えて大きく広く造ってあるから、アヌルーンにある施設の中では一番収容出来る数が多いのよ。聖下を始め、国教会の方々もその辺りはしっかり想定して動いてくれているから、各所で不足が出ていることは無いわ。……少なくとも、まだ」

 シェーナの表情は強張ったままだ。現状が予断を許さないものであると、その目が語っている。

 私はもう一度、怪我人で溢れたこの施療院の中を見渡した。誰も彼もが苦しんで、自分の怪我と必死に戦っている。中でもカティアさんが診ている人は、一層傷の具合が酷く見えた。

「ハァ、ハァ……。騎士さん、俺……このまま死んじゃうんすかね……?」

「馬鹿言わないで! この私が治療に当たる以上、死なせるなんてヘマするもんですか!」

「へへっ……。なら、安心だァ……。早く良くなって、また……竹籠を編まねえと……」

 その患者は、震える手をゆっくり持ち上げると、虚空の中で何かの作業を行うように指を蠢かせた。

「毎日の、仕事なんだ……。昔っから、手作業が大好きだった……。竹を割り、細かく削って、竹ひごを作って、形を整えて、それを編んで……。そうやって、自分の手で物を作り上げるのが……」

「すぐにまた出来るようになるわよ。だから、頑張りなさい!」

 私はそこで目を逸らした。

 ――どうせ、この世界は夢だ。死んだら、現実に還るだけ。此処でどんな人生を送ろうと、何の意味も無い。

 心の中でそう繰り返すが、苦渋が沁み込んだように肚にはどんどん重いものが溜まってゆく。

「行きましょう、シッスル。もうひとつ、見せたいものがあるの」

 立ち尽くしている私の手を、再びシェーナが引く。私は無言で頷き、逃げるように目の前の凄惨な光景に背を向けて施療院を後にした。

 シェーナと共に、幅広く敷き詰められた石畳の道を真っ直ぐ進む。前に通った通路を使って中央神殿に足を運ぶのかと思ったが、どうやら違うようだ。

 しばらく道なりに進むと、右手側に大政議事堂が見えた。定期的に議会が開かれる政治の中心地であり、中央神殿とちょうど対になるように建てられた重要施設だ。

 どうやらシェーナはそこへ向かっているらしかった。

 道を曲がり、前方に議事堂の巨大な景観が大写しになる。

「あれは……?」

 議事堂の入り口手前に、物々しい装置がいくつも用意されてあるのが見えた。武装した守護聖騎士団の人達が幾人も周りに控えており、装置の設置や点検を行っているらしい。他にも、組まれた逆茂木や柵なんかも設置されており、その有様はまさに陣地といったところだった。

 騎士団の中に、彼らの指揮官らしき人を見かけた。

「急げ! いつ此処が戦場になるか分からんぞ! 早く議事堂の守りを固めるのだ!」

 バイザーを降ろした兜で顔は見えなかったが、その声で誰か分かった。

「団長! 精勤、ご苦労さまです!」

「ん? おお、シェーナか! それにシッスル殿も! 実に久しいな!」

 バイザーを上げ、守護聖騎士団団長ブロムさんが眩しい笑顔を見せた。

「どうして此処へ? まさか加勢に来てくれたのか?」

「いえ、私は……」

 答えようとした私を遮り、シェーナが前に立つ。

「お聞き及びの通り、シッスルは聖下の行われる防衛術式への参加を義務付けられている身。その前に、自らの目で大教会の現状を確かめようとの考えから、今日はこちらに参りました!」

「ははは、そうであったか! であれば自由に見学すると良い。ただし、皆の邪魔にならぬようにな」

 豪快に笑って許可をくれると、ブロムさんはすぐさま監督の仕事に戻っていった。

「シェーナ、此処の皆は何をしているの?」

「魔族はオーロラを使って自分や配下を移動させてくるという話だったでしょう? さっき施療院で見たように、魔物の出現傾向は既に神出鬼没の息に達しているわ。となれば、いつこのイル=サント大教会が襲われてもおかしくない」

「だから、ブロムさん達で守りを固めている?」

「そう。議事堂を始め、他の主要な機関も同時に準備しているわ。彼らの力を借りて」

 シェーナが指差す先には、騎士団員に混じって謎の装置をいじっている背の小さな人達が見えた。

「“ディク・ヒュム”――」

「そう、【ドワーフ工房組合】の職工達が総出で駆り出されてきているのよ」

 シェーナの声には、うんざりしたような溜息が混じっていた。
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