55 / 766
第三章 戦いの布告
陸奥
しおりを挟む
「二人っきりね、長門?」
「ああ、そうだな」
「じゃあ~、せっかくなんだから……」
陸奥は椅子に座った長門の後ろに回り込んで彼女の肩をがっしりと掴み、耳元に色っぽく息を吹きかける。
「っっ……!」
だが、その時だった。
「…………そなたら、何をしている?」
信濃が音を立てずに執務室に入って来た。何とも誤解される瞬間を見られて、長門はすっかり呂律が回らなくなってしまった。
「し、信濃!? こ、これはだな、その……」
「そなたら……いちゃつきたいのなら部屋でやれ」
「そ、そんなつもりはないんだ。離れろ、陸奥」
長門は陸奥の頬を掌で押して離れさせる。
「あら残念。ともかく、あの子達によろしくね。何かあったら私の責任になるんだから」
「そうなのか? だったらお前が残ればいいじゃないか」
「残るわよ? 誰が帰るって言ったのかしら」
「そ、そうなのか」
「ええ。暫くはプエルト・リモン鎮守府を使わせてもらうわ。よろしくね」
「お、おう」
陸奥は第五艦隊に組み入れられるわけではないが、暫くは長門の指揮下に入るらしい。ちなみにソビエト姉妹はソ連が租借しているニカラグアの基地を拠点とするそうだ。
「で、信濃、用件は何だ?」
「艦載機の補充について」
信濃はいつもよりぶっきらぼうな口調で。
「ああ、そうだったな。和泉に要請しておこう」
妙高を失った鎮守府は、可能な限り何事もなかったかのように活動するのであった。
○
「へえ、流石、長門が仕切ってるだけあって、綺麗だし充実してるね」
「はい。長門のお陰で鎮守府のための予算が下りて来るので、設備を充実させられるんですよ」
高雄はプエルト・リモン鎮守府を始めて訪れる陸奥の案内役を任されていた。
「なるほどね。もう旧式もいいところの戦艦なのに、影響力だけはあるんだから」
「そ、そういうことは口に出しては……」
「それって、あなたもそう思ってるってこと?」
「うぐ……」
長門が旧式というのなら妹の陸奥も旧式である。
「冗談よ。案内を続けてちょうだい?」
「分かりました。では、次は食堂に」
高雄は陸奥を食堂に案内した。
「食堂って言うけど、料理人とかはいないの? 何もないじゃない」
「それについてはその通りですが……。ですので、わたくしがここの料理番をしているんですよ」
「あなたが料理を作るの?」
「はい。皆さんが飽きないように毎日違う料理を考えているんですよ」
「じゃあ何か作ってもらおうかしら? ちょうどお腹が空いたわ」
「分かりました。では、カレーにしましょう。ちょうど作り置きがありますし」
「そう。じゃあ頼むわ」
高雄は厨房に入って昨日のカレーの残りを温めつつ、ライスなどの用意をする。それと全く同じことをつい二ヶ月前に妙高にしたことを思い出したのは、陸奥の前にカレーを置いた時だった。
「陸奥さん……どうぞ」
「どうしたの? 浮かない顔して」
「あっ……分かっちゃいますよね。はは……」
「嫌じゃなかったら、私に聞かせて?」
陸奥の声は先程までの軽い感じとは正反対のものだった。高雄は彼女の心の内を陸奥に打ち明けることにした。
「――なるほどね。精神が不安定になるのも無理はないわ。僚艦を失って平気でいられるような奴は、帝国海軍にはいない」
「そう、でしょうか……。皆さん、平然としているように見えましたが……」
「意識的に表に出さないようにしているだけよ。そんなことをしたら艦隊に悪影響だもの」
「うぅ……。皆さん頑張っているのに、私は……」
「あなたは妙高と一番親しかったと聞いているわ。同じ重巡だしね。それに、私は第五艦隊に所属してるわけじゃない。私の前だったら、いくらでも情けない姿を晒しても問題ないわよ?」
「陸奥さん……」
陸奥は高雄を抱き寄せて頭を撫でる。高雄はそれだけで救われる思いだった。
「ああ、そうだな」
「じゃあ~、せっかくなんだから……」
陸奥は椅子に座った長門の後ろに回り込んで彼女の肩をがっしりと掴み、耳元に色っぽく息を吹きかける。
「っっ……!」
だが、その時だった。
「…………そなたら、何をしている?」
信濃が音を立てずに執務室に入って来た。何とも誤解される瞬間を見られて、長門はすっかり呂律が回らなくなってしまった。
「し、信濃!? こ、これはだな、その……」
「そなたら……いちゃつきたいのなら部屋でやれ」
「そ、そんなつもりはないんだ。離れろ、陸奥」
長門は陸奥の頬を掌で押して離れさせる。
「あら残念。ともかく、あの子達によろしくね。何かあったら私の責任になるんだから」
「そうなのか? だったらお前が残ればいいじゃないか」
「残るわよ? 誰が帰るって言ったのかしら」
「そ、そうなのか」
「ええ。暫くはプエルト・リモン鎮守府を使わせてもらうわ。よろしくね」
「お、おう」
陸奥は第五艦隊に組み入れられるわけではないが、暫くは長門の指揮下に入るらしい。ちなみにソビエト姉妹はソ連が租借しているニカラグアの基地を拠点とするそうだ。
「で、信濃、用件は何だ?」
「艦載機の補充について」
信濃はいつもよりぶっきらぼうな口調で。
「ああ、そうだったな。和泉に要請しておこう」
妙高を失った鎮守府は、可能な限り何事もなかったかのように活動するのであった。
○
「へえ、流石、長門が仕切ってるだけあって、綺麗だし充実してるね」
「はい。長門のお陰で鎮守府のための予算が下りて来るので、設備を充実させられるんですよ」
高雄はプエルト・リモン鎮守府を始めて訪れる陸奥の案内役を任されていた。
「なるほどね。もう旧式もいいところの戦艦なのに、影響力だけはあるんだから」
「そ、そういうことは口に出しては……」
「それって、あなたもそう思ってるってこと?」
「うぐ……」
長門が旧式というのなら妹の陸奥も旧式である。
「冗談よ。案内を続けてちょうだい?」
「分かりました。では、次は食堂に」
高雄は陸奥を食堂に案内した。
「食堂って言うけど、料理人とかはいないの? 何もないじゃない」
「それについてはその通りですが……。ですので、わたくしがここの料理番をしているんですよ」
「あなたが料理を作るの?」
「はい。皆さんが飽きないように毎日違う料理を考えているんですよ」
「じゃあ何か作ってもらおうかしら? ちょうどお腹が空いたわ」
「分かりました。では、カレーにしましょう。ちょうど作り置きがありますし」
「そう。じゃあ頼むわ」
高雄は厨房に入って昨日のカレーの残りを温めつつ、ライスなどの用意をする。それと全く同じことをつい二ヶ月前に妙高にしたことを思い出したのは、陸奥の前にカレーを置いた時だった。
「陸奥さん……どうぞ」
「どうしたの? 浮かない顔して」
「あっ……分かっちゃいますよね。はは……」
「嫌じゃなかったら、私に聞かせて?」
陸奥の声は先程までの軽い感じとは正反対のものだった。高雄は彼女の心の内を陸奥に打ち明けることにした。
「――なるほどね。精神が不安定になるのも無理はないわ。僚艦を失って平気でいられるような奴は、帝国海軍にはいない」
「そう、でしょうか……。皆さん、平然としているように見えましたが……」
「意識的に表に出さないようにしているだけよ。そんなことをしたら艦隊に悪影響だもの」
「うぅ……。皆さん頑張っているのに、私は……」
「あなたは妙高と一番親しかったと聞いているわ。同じ重巡だしね。それに、私は第五艦隊に所属してるわけじゃない。私の前だったら、いくらでも情けない姿を晒しても問題ないわよ?」
「陸奥さん……」
陸奥は高雄を抱き寄せて頭を撫でる。高雄はそれだけで救われる思いだった。
0
あなたにおすすめの小説
徳川慶勝、黒船を討つ
克全
歴史・時代
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
尾張徳川家(尾張藩)の第14代・第17代当主の徳川慶勝が、美濃高須藩主・松平義建の次男・秀之助ではなく、夭折した長男・源之助が継いでおり、彼が攘夷派の名君となっていた場合の仮想戦記を書いてみました。夭折した兄弟が活躍します。尾張徳川家15代藩主・徳川茂徳、会津藩主・松平容保、桑名藩主・松平定敬、特に会津藩主・松平容保と会津藩士にリベンジしてもらいます。
もしかしたら、消去するかもしれません。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
対ソ戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。
前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。
未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!?
小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!
日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
久遠の海へ 再び陽が昇るとき
koto
歴史・時代
第2次世界大戦を敗戦という形で終えた日本。満州、朝鮮半島、樺太、千島列島、そして北部北海道を失った日本は、GHQによる民主化の下、急速に左派化していく。
朝鮮半島に火花が散る中、民主主義の下、大規模な労働運動が展開される日本。
GHQは日本の治安維持のため、日本政府と共に民主主義者への弾圧を始めたのだ。
俗に言う第1次極東危機。物語は平和主義・民主化を進めたGHQが、みずからそれを崩壊させる激動の時代、それに振り回された日本人の苦悩から始まる。
本書は前作「久遠の海へ 最期の戦線」の続編となっております。
前作をご覧いただけると、より一層理解度が進むと思われますので、ぜひご覧ください。
小沢機動部隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。
名は小沢治三郎。
年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。
ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。
毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。
楽しんで頂ければ幸いです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる