56 / 766
第三章 戦いの布告
グラーフ・ツェッペリン
しおりを挟む
所変わって、キューバのグアンタナモ基地跡にて。
「妙高、有力な情報が入ったわ。第五艦隊が単独で、通常の哨戒任務に出るそうよ」
「そ、それはつまり……」
「そう、出撃。これ以上ない好機よ。準備はできてるでしょうね?」
「もちろんです! 今すぐにでも出れます。みんなを、助け出さないと……」
時は来た。第五艦隊が単独で海に出るという情報を瑞鶴は手に入れたのである。
「第五艦隊の概ねの航路は調べが付いてる。私達はここで待ち伏せをして、何とかするわ」
「了解です。妙高、頑張ります……」
「何? 緊張しているの?」
「そ、それは……逆に瑞鶴さんは緊張しないんですか?」
「このくらい、日本の未来を背負うのと比べたら気楽なものよ」
「規模が壮大すぎます……」
瑞鶴はほとんど一人で日本を守った英雄なわけで、妙高にはそんな境地は理解できなかった。
「そうだ、あなたが不安がると思って、援軍を用意してあるわ。心強くはないけど」
「援軍?」
「ええ。ツェッペリン、来て」
「ツェッペリン……?」
瑞鶴が無線で呼びつけて数分。厚い灰色のコートに身を包み、長い王笏を突きながら歩く、白い髪と赤い目を持った少女が姿を現した。そして何よりも目立つのは、その背中から伸びたコウモリのような巨大な羽である。
「は、羽……」
「紹介するわ。私の何年来かの友達、グラーフ・ツェッペリンよ。あ、ちなみに、彼女の羽は私達の角とか耳とか尻尾と同じものよ」
ドイツ人は少女の顔が傷つくのを嫌ったらしい。だから脊椎に突き刺された無数の機械を軸にした羽を代わりに設けた。座りにくそうである。
「うむ。我はグラーフ・ツェッペリン。我は伯爵であり、ドイツで唯一の空母型船魄であり、ドイツの希望である。我に従うがいい」
「お、おお……何かすごい方が来ましたね」
基準排水量三万三千トン、全長263メートル、アドルフ・ヒトラー総統の下で建造されたドイツ初の近代的航空母艦、硬式飛行船を発明したツェッペリン伯爵にあやかった名を持つ艦、グラーフ・ツェッペリン。全長だけなら大和型戦艦にも匹敵する巨艦である。
「で、お前は誰なのだ?」
「え、あ、私は妙高といいます! 妙高型重巡洋艦一番艦です」
「そうか、妙高。重巡洋艦なれば、伯爵(グラーフ)たる我に仕えるがよい」
グラーフ・ツェッペリンの尊大極まる態度に、妙高は少し意地悪したくなった。
「あの、妙高も、畏くも天皇陛下から伯爵位を賜ってまして」
船魄達を少しでも労いたいとの思し召しにより、帝国では船魄に特別の爵位が授けられることになっている。もちろん貴族院議員の資格など通常の華族の特権は付与されず、名前だけのものであるが。
「なぬっ……。わ、我はドイツ唯一の空母型船魄であり、ドイツの希望で――」
「あなたの妹、ペーター・シュトラッサーだっけ? 彼女も結構前に就役したじゃない。ていうか、その自己紹介そろそろ更新したら?」
「…………わ、我は、ドイツの希望なのだ!」
――すっごいおっちょこちょいな人だ……
見た目と話し方ほど大したことがない人で、妙高は安心した。
「と、ともかく、お前達は我の指揮下で戦うがよい。我が勝利に導こう」
「別にその必要はないわ。でも私とほとんど同じくらいに造られた船魄だから、実力については信用してもいい」
「ドイツとアーリア人を蛮族の手から救ったのは、この我である。敬服するがいい」
「は、はぁ……。まあすごいことは認めるんですけども」
グラーフ・ツェッペリンは日本からの技術提供で瑞鶴とほぼ同時期に完成した船魄である。瑞鶴は知らなかったが、遥か彼方のヨーロッパでは彼女がソ連やイギリス、アメリカと戦っていたのだ。
結果としてドイツは連合国軍を全て撃退することに成功し、イギリスを制圧し、ヨーロッパ・アーリア人共同体を創設して、ヨーロッパの盟主となった。因みにヒトラー総統は戦後に引退し、ドイツの現在の最高指導者はヨーゼフ・ゲッベルス大統領である。
「しかし……ここにいるということは、あなたも軍から脱走した船魄なのですか?」
「脱走などとは人聞きの悪い。海軍の重要性を理解しないゲッベルスの馬鹿が、我の仕えるべき主ではなかったから、我が奴を見限ったのだ」
「うーん……なるほど?」
「色々理由があるのよ。とにかく、流石に空母と重巡一隻ずつでは不安だからね。彼女と三隻で作戦を遂行するわ」
「はい。よろしくお願いします、ツェッペリンさん」
「よろしく頼もう、妙高よ」
ツェッペリンの手袋を着けた手を、妙高は握った。が、その時であった。キューバ軍の兵士が大急ぎで駆けつけてきた。
「大変だ! 正体不明の軍艦が近づいてきてるぞ!」
「へえ。あなた達は安全なところに隠れてて。ツェッペリン、妙高、戦闘の準備を」
敵か味方か分からないが、味方だったらすぐに矛を収めればいいだけだ。三隻の船魄は直ちに戦闘態勢に入った。と言っても、二隻の空母は後方に控え、妙高だけが前線に出る訳だが。
「妙高、有力な情報が入ったわ。第五艦隊が単独で、通常の哨戒任務に出るそうよ」
「そ、それはつまり……」
「そう、出撃。これ以上ない好機よ。準備はできてるでしょうね?」
「もちろんです! 今すぐにでも出れます。みんなを、助け出さないと……」
時は来た。第五艦隊が単独で海に出るという情報を瑞鶴は手に入れたのである。
「第五艦隊の概ねの航路は調べが付いてる。私達はここで待ち伏せをして、何とかするわ」
「了解です。妙高、頑張ります……」
「何? 緊張しているの?」
「そ、それは……逆に瑞鶴さんは緊張しないんですか?」
「このくらい、日本の未来を背負うのと比べたら気楽なものよ」
「規模が壮大すぎます……」
瑞鶴はほとんど一人で日本を守った英雄なわけで、妙高にはそんな境地は理解できなかった。
「そうだ、あなたが不安がると思って、援軍を用意してあるわ。心強くはないけど」
「援軍?」
「ええ。ツェッペリン、来て」
「ツェッペリン……?」
瑞鶴が無線で呼びつけて数分。厚い灰色のコートに身を包み、長い王笏を突きながら歩く、白い髪と赤い目を持った少女が姿を現した。そして何よりも目立つのは、その背中から伸びたコウモリのような巨大な羽である。
「は、羽……」
「紹介するわ。私の何年来かの友達、グラーフ・ツェッペリンよ。あ、ちなみに、彼女の羽は私達の角とか耳とか尻尾と同じものよ」
ドイツ人は少女の顔が傷つくのを嫌ったらしい。だから脊椎に突き刺された無数の機械を軸にした羽を代わりに設けた。座りにくそうである。
「うむ。我はグラーフ・ツェッペリン。我は伯爵であり、ドイツで唯一の空母型船魄であり、ドイツの希望である。我に従うがいい」
「お、おお……何かすごい方が来ましたね」
基準排水量三万三千トン、全長263メートル、アドルフ・ヒトラー総統の下で建造されたドイツ初の近代的航空母艦、硬式飛行船を発明したツェッペリン伯爵にあやかった名を持つ艦、グラーフ・ツェッペリン。全長だけなら大和型戦艦にも匹敵する巨艦である。
「で、お前は誰なのだ?」
「え、あ、私は妙高といいます! 妙高型重巡洋艦一番艦です」
「そうか、妙高。重巡洋艦なれば、伯爵(グラーフ)たる我に仕えるがよい」
グラーフ・ツェッペリンの尊大極まる態度に、妙高は少し意地悪したくなった。
「あの、妙高も、畏くも天皇陛下から伯爵位を賜ってまして」
船魄達を少しでも労いたいとの思し召しにより、帝国では船魄に特別の爵位が授けられることになっている。もちろん貴族院議員の資格など通常の華族の特権は付与されず、名前だけのものであるが。
「なぬっ……。わ、我はドイツ唯一の空母型船魄であり、ドイツの希望で――」
「あなたの妹、ペーター・シュトラッサーだっけ? 彼女も結構前に就役したじゃない。ていうか、その自己紹介そろそろ更新したら?」
「…………わ、我は、ドイツの希望なのだ!」
――すっごいおっちょこちょいな人だ……
見た目と話し方ほど大したことがない人で、妙高は安心した。
「と、ともかく、お前達は我の指揮下で戦うがよい。我が勝利に導こう」
「別にその必要はないわ。でも私とほとんど同じくらいに造られた船魄だから、実力については信用してもいい」
「ドイツとアーリア人を蛮族の手から救ったのは、この我である。敬服するがいい」
「は、はぁ……。まあすごいことは認めるんですけども」
グラーフ・ツェッペリンは日本からの技術提供で瑞鶴とほぼ同時期に完成した船魄である。瑞鶴は知らなかったが、遥か彼方のヨーロッパでは彼女がソ連やイギリス、アメリカと戦っていたのだ。
結果としてドイツは連合国軍を全て撃退することに成功し、イギリスを制圧し、ヨーロッパ・アーリア人共同体を創設して、ヨーロッパの盟主となった。因みにヒトラー総統は戦後に引退し、ドイツの現在の最高指導者はヨーゼフ・ゲッベルス大統領である。
「しかし……ここにいるということは、あなたも軍から脱走した船魄なのですか?」
「脱走などとは人聞きの悪い。海軍の重要性を理解しないゲッベルスの馬鹿が、我の仕えるべき主ではなかったから、我が奴を見限ったのだ」
「うーん……なるほど?」
「色々理由があるのよ。とにかく、流石に空母と重巡一隻ずつでは不安だからね。彼女と三隻で作戦を遂行するわ」
「はい。よろしくお願いします、ツェッペリンさん」
「よろしく頼もう、妙高よ」
ツェッペリンの手袋を着けた手を、妙高は握った。が、その時であった。キューバ軍の兵士が大急ぎで駆けつけてきた。
「大変だ! 正体不明の軍艦が近づいてきてるぞ!」
「へえ。あなた達は安全なところに隠れてて。ツェッペリン、妙高、戦闘の準備を」
敵か味方か分からないが、味方だったらすぐに矛を収めればいいだけだ。三隻の船魄は直ちに戦闘態勢に入った。と言っても、二隻の空母は後方に控え、妙高だけが前線に出る訳だが。
0
あなたにおすすめの小説
徳川慶勝、黒船を討つ
克全
歴史・時代
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
尾張徳川家(尾張藩)の第14代・第17代当主の徳川慶勝が、美濃高須藩主・松平義建の次男・秀之助ではなく、夭折した長男・源之助が継いでおり、彼が攘夷派の名君となっていた場合の仮想戦記を書いてみました。夭折した兄弟が活躍します。尾張徳川家15代藩主・徳川茂徳、会津藩主・松平容保、桑名藩主・松平定敬、特に会津藩主・松平容保と会津藩士にリベンジしてもらいます。
もしかしたら、消去するかもしれません。
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
対ソ戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。
前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。
未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!?
小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!
日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
小沢機動部隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。
名は小沢治三郎。
年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。
ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。
毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。
楽しんで頂ければ幸いです!
久遠の海へ 再び陽が昇るとき
koto
歴史・時代
第2次世界大戦を敗戦という形で終えた日本。満州、朝鮮半島、樺太、千島列島、そして北部北海道を失った日本は、GHQによる民主化の下、急速に左派化していく。
朝鮮半島に火花が散る中、民主主義の下、大規模な労働運動が展開される日本。
GHQは日本の治安維持のため、日本政府と共に民主主義者への弾圧を始めたのだ。
俗に言う第1次極東危機。物語は平和主義・民主化を進めたGHQが、みずからそれを崩壊させる激動の時代、それに振り回された日本人の苦悩から始まる。
本書は前作「久遠の海へ 最期の戦線」の続編となっております。
前作をご覧いただけると、より一層理解度が進むと思われますので、ぜひご覧ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる