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第十一章 キューバ戦争
汚い手
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戦闘は一時収束した。空母と空母が一千km以上離れて戦う現代の海戦では、戦闘が数日間に渡るのもよくあることである。戦艦と戦艦が雌雄を決するような戦いは双方が余程決戦を望んでいないと起こらないことだ。
「私達も大分艦載機を失った訳だけど、どうする妙高?」
『エンタープライズが次に仕掛けてきた時に、一気に片をつけます』
「分かった。じゃあそれまでは暫く休憩ね」
『はい。瑞鶴さん達はしっかり休んでおいて下さい』
瑞鶴は周辺の警戒はしつつも、艦載機を引き上げて休憩に入ることにした。敵がいつ襲ってくるとも分からない状況であるが、瑞鶴にとっては慣れたことであり、自室に戻ってベッドの上に寝転がるほどだった。
が、そうも言ってはいられないらしい。
『おい瑞鶴、聞いてるか!』
ベッドの傍に置いておいた無線機からツェッペリンが呼びかけてくる。
「何よ、ツェッペリン。私は眠いんだけど」
横になったまま気だるそうに返事をする。
『そんなことを言っている場合ではないぞ。アメリカめ、潜水艦をけしかけて来た』
「潜水艦? あんたが発見したの?」
『ああ。西方40kmに潜水艦を一隻確認した。他にいるかは分からん』
「まあ潜水艦が一隻だけとは思えないわね。分かった。私が何とかするわ」
『何とかできるのか?』
「ええ、もちろん。逆にあんたは対潜戦もできないの?」
瑞鶴もツェッペリンも一時は一隻の味方もなく生き抜いてきた艦だ。潜水艦相手に戦える能力くらいあって然るべきだろう。と、瑞鶴は思っていたが、ツェッペリンはそうでもないらしい。
『我は空母だぞ。どうして空母が潜水艦とやり合えるのだ?』
「そう? じゃあこれまでずっと潜水艦からは逃げ回ってきたってことかしら?」
『わ、悪いか?』
「まあ、空母としては自然だけど」
瑞鶴は起き上がって艦橋に向かいつつ、扶桑に通信を掛ける。
「アメリカは潜水艦を出てきたそうよ。今は一隻だけ探知したけど、他にもいると思われるわ」
『潜水艦ですか……。それは失念しておりました』
潜水艦は全て人間の艦であって(少なくとも瑞鶴達の知る限りだが)、人間の艦への対策など、船魄が意識する機会は少ない。普通は護衛の駆逐艦や重巡洋艦が一瞬で片付けて何の脅威にもならないのだが。
『瑞鶴さん、どうされますか?』
「私は潜水艦とも戦えるわ。艦隊はある程度離散して、水中聴音機を全力で稼働させて」
『分かりました。瑞鶴さんに任せます』
潜水艦を探知するところまでは、空母でも戦艦でも可能だ。寧ろ大型の水中聴音機や水中電探を多数装備できるので、探知までなら戦艦の方が得意なのである。
「ツェッペリン、引き続き潜水艦への警戒をよろしく」
『心得た』
艦隊周辺の警戒は艦そのものの電子装置に頼り、それより遠くでは瑞鶴とツェッペリンの偵察機が警戒を行う。ツェッペリンは(と言うより日本以外のどの軍隊もだが)偵察専用機など持っていないので、攻撃機を転用する形となるが。
「で、もう潜水艦を捕捉してるのよね?」
『無論だ』
「その場所を教えて。私が沈めるわ」
『何をする気だ?』
「まあ、見てれば分かるわ」
瑞鶴はそう言うと、飛行甲板から4機の螺旋翼機を発艦させた。七式螺旋翼機である。そしてツェッペリンの誘導に従って、七式を潜水艦の直上に持ってきた。
『そんなもので潜水艦に攻撃できるのか?』
「ええ。六式噴進爆雷砲……イギリスのヘッジホッグって言えば分かるでしょう?」
『なるほど。それをヘリコプターに積んでいるということか』
「ええ、その通り」
六式噴進爆雷砲は元はイギリスが開発した小型爆雷を大量に投射する兵器であり、帝国海軍の駆逐艦や巡洋艦、またその同盟国の各種艦艇に広く配備されている。
従来の爆雷投射機と比べればヘリコプターに載せられるほど小型であり、かつ投射する方向を調整できる優れものだ。とは言え、螺旋翼機の容積をほぼ使い果たしているので、人間を乗せる必要がない船魄の螺旋翼機だからこその荒業ではあるが。
「さて、海の藻屑にしてあげましょう」
2機の螺旋翼機から32発の爆雷を一気に投下。暫く沈降した後、水深60mほどで一斉に大爆発を起こした。爆発による気泡が水面に湧き上がってくる。
『敵は沈んだか?』
「それを確かめるのはあんたでしょ」
『そ、そうか』
爆風の影響が消えるまで数分待って、改めて水中電探で敵の位置を確かめようとすると、そんなことをする前に、上部が激しく損傷した潜水艦が水面に上がってきた。
『浮かんできたな。どうするんだ、これ?』
「うーん……どうしよう」
まさかもう戦闘能力を喪失した潜水艦を沈める訳にもいかないし、かと言って捕虜を取ることなど想定していない。
「あ、そうだ、いいこと思い付いたわ」
ちょっとした嫌がらせを思い付いた瑞鶴は、艦載機を通じて潜水艦に無線で呼び掛けを行った。
「私は瑞鶴。大日本帝国海軍の空母瑞鶴よ」
『……こちらはUSSバラグーダ、潜水艦長のアンドリュース少佐だ』
「単刀直入に言うわ。仲間の潜水艦でも呼びつけて逃げることを許す。但し潜水しようとしたり、他に妙な行動を取ろうとしたら、容赦なく全員水の底に送る。分かった?」
『そ、それだけでいいのか?』
「ええ。とっととしなさい」
慈悲深さを見せているようだが、要するに、ついでにもう一隻の潜水艦を戦場から離脱させてしまおうという作戦である。アメリカ軍がこれを拒絶する訳にはいかず、瑞鶴は一気に2隻の潜水艦を追い払うことに成功したのである。
「私達も大分艦載機を失った訳だけど、どうする妙高?」
『エンタープライズが次に仕掛けてきた時に、一気に片をつけます』
「分かった。じゃあそれまでは暫く休憩ね」
『はい。瑞鶴さん達はしっかり休んでおいて下さい』
瑞鶴は周辺の警戒はしつつも、艦載機を引き上げて休憩に入ることにした。敵がいつ襲ってくるとも分からない状況であるが、瑞鶴にとっては慣れたことであり、自室に戻ってベッドの上に寝転がるほどだった。
が、そうも言ってはいられないらしい。
『おい瑞鶴、聞いてるか!』
ベッドの傍に置いておいた無線機からツェッペリンが呼びかけてくる。
「何よ、ツェッペリン。私は眠いんだけど」
横になったまま気だるそうに返事をする。
『そんなことを言っている場合ではないぞ。アメリカめ、潜水艦をけしかけて来た』
「潜水艦? あんたが発見したの?」
『ああ。西方40kmに潜水艦を一隻確認した。他にいるかは分からん』
「まあ潜水艦が一隻だけとは思えないわね。分かった。私が何とかするわ」
『何とかできるのか?』
「ええ、もちろん。逆にあんたは対潜戦もできないの?」
瑞鶴もツェッペリンも一時は一隻の味方もなく生き抜いてきた艦だ。潜水艦相手に戦える能力くらいあって然るべきだろう。と、瑞鶴は思っていたが、ツェッペリンはそうでもないらしい。
『我は空母だぞ。どうして空母が潜水艦とやり合えるのだ?』
「そう? じゃあこれまでずっと潜水艦からは逃げ回ってきたってことかしら?」
『わ、悪いか?』
「まあ、空母としては自然だけど」
瑞鶴は起き上がって艦橋に向かいつつ、扶桑に通信を掛ける。
「アメリカは潜水艦を出てきたそうよ。今は一隻だけ探知したけど、他にもいると思われるわ」
『潜水艦ですか……。それは失念しておりました』
潜水艦は全て人間の艦であって(少なくとも瑞鶴達の知る限りだが)、人間の艦への対策など、船魄が意識する機会は少ない。普通は護衛の駆逐艦や重巡洋艦が一瞬で片付けて何の脅威にもならないのだが。
『瑞鶴さん、どうされますか?』
「私は潜水艦とも戦えるわ。艦隊はある程度離散して、水中聴音機を全力で稼働させて」
『分かりました。瑞鶴さんに任せます』
潜水艦を探知するところまでは、空母でも戦艦でも可能だ。寧ろ大型の水中聴音機や水中電探を多数装備できるので、探知までなら戦艦の方が得意なのである。
「ツェッペリン、引き続き潜水艦への警戒をよろしく」
『心得た』
艦隊周辺の警戒は艦そのものの電子装置に頼り、それより遠くでは瑞鶴とツェッペリンの偵察機が警戒を行う。ツェッペリンは(と言うより日本以外のどの軍隊もだが)偵察専用機など持っていないので、攻撃機を転用する形となるが。
「で、もう潜水艦を捕捉してるのよね?」
『無論だ』
「その場所を教えて。私が沈めるわ」
『何をする気だ?』
「まあ、見てれば分かるわ」
瑞鶴はそう言うと、飛行甲板から4機の螺旋翼機を発艦させた。七式螺旋翼機である。そしてツェッペリンの誘導に従って、七式を潜水艦の直上に持ってきた。
『そんなもので潜水艦に攻撃できるのか?』
「ええ。六式噴進爆雷砲……イギリスのヘッジホッグって言えば分かるでしょう?」
『なるほど。それをヘリコプターに積んでいるということか』
「ええ、その通り」
六式噴進爆雷砲は元はイギリスが開発した小型爆雷を大量に投射する兵器であり、帝国海軍の駆逐艦や巡洋艦、またその同盟国の各種艦艇に広く配備されている。
従来の爆雷投射機と比べればヘリコプターに載せられるほど小型であり、かつ投射する方向を調整できる優れものだ。とは言え、螺旋翼機の容積をほぼ使い果たしているので、人間を乗せる必要がない船魄の螺旋翼機だからこその荒業ではあるが。
「さて、海の藻屑にしてあげましょう」
2機の螺旋翼機から32発の爆雷を一気に投下。暫く沈降した後、水深60mほどで一斉に大爆発を起こした。爆発による気泡が水面に湧き上がってくる。
『敵は沈んだか?』
「それを確かめるのはあんたでしょ」
『そ、そうか』
爆風の影響が消えるまで数分待って、改めて水中電探で敵の位置を確かめようとすると、そんなことをする前に、上部が激しく損傷した潜水艦が水面に上がってきた。
『浮かんできたな。どうするんだ、これ?』
「うーん……どうしよう」
まさかもう戦闘能力を喪失した潜水艦を沈める訳にもいかないし、かと言って捕虜を取ることなど想定していない。
「あ、そうだ、いいこと思い付いたわ」
ちょっとした嫌がらせを思い付いた瑞鶴は、艦載機を通じて潜水艦に無線で呼び掛けを行った。
「私は瑞鶴。大日本帝国海軍の空母瑞鶴よ」
『……こちらはUSSバラグーダ、潜水艦長のアンドリュース少佐だ』
「単刀直入に言うわ。仲間の潜水艦でも呼びつけて逃げることを許す。但し潜水しようとしたり、他に妙な行動を取ろうとしたら、容赦なく全員水の底に送る。分かった?」
『そ、それだけでいいのか?』
「ええ。とっととしなさい」
慈悲深さを見せているようだが、要するに、ついでにもう一隻の潜水艦を戦場から離脱させてしまおうという作戦である。アメリカ軍がこれを拒絶する訳にはいかず、瑞鶴は一気に2隻の潜水艦を追い払うことに成功したのである。
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