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第十三章 ドイツ訪問(地上編)
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妙高とツェッペリンが夜行列車の中ですやすや眠っている間も、イギリスでの睨み合いは続いている。月虹は依然として何もせず佇んでおり、イギリス海軍がそれと対峙していた。ドイツ海軍は月虹を刺激しない為にベルファストで待機しているようである。艦載機を飛ばせばあっという間に到達する距離ではあるが。
『このような対陣を始めてもう24時間を超えますが、向こうは何も仕掛けてきませんね……』
高雄は無線を通じて瑞鶴に言った。
「そうね。私達が何か作戦を隠しているとでも思っているのかしら」
『それならば私達に好都合ですが……』
『いいじゃない、このまま何事もなく帰ればいいのよ』
愛宕は大したことなさそうに言った。
「まあねえ。それができれば、苦労はしないんだけど」
『仮に向こうが戦いを挑んできたら、どうするのですか? こちらの戦力ではとても……』
「まあ逃げるしかないでしょうね」
グラーフ・ツェッペリンと妙高の艦体はここにあるが、ドイツから操るのは流石に無理だ。ハリボテに等しいのである。
『その時は妙高やツェッペリンは置いていくのかしら?』
「……最悪の場合は、そうせざるを得ないわ」
『瑞鶴さん!? そんな、妙高を置いていくなんて!』
『お姉ちゃんったら、妙高に夢中過ぎるわ』
『そ、そういうことでは――』
「そういう痴話喧嘩は他所でやってよね。でも、もしもの時の覚悟くらい、あなたにもできる筈よ、高雄?」
『……すみません』
「っと、そんなことを言っていたら、イギリスが動き出したわよ」
月虹は偵察機を飛ばす訳にもいかず、電探が頼りである。そして一番探知距離が長いのは一番高いところに設置してある瑞鶴の電探である。
『ど、どういう状況でしょうか?』
「うーんと……一隻だけ近寄って来たわ。戦うつもりはないと思う」
『交渉しに来た、ということでしょうか』
「さあね」
『いずれにせよ、お姉ちゃんに危害を加えるなら沈めるわ』
「あんたが火蓋を切らないかが一番心配よ。姉としてちゃんと見張っておいてよね、高雄」
『は、はい。愛宕、くれぐれもこちらから攻撃などしてはいけませんよ』
『場合によるわ』
『場合にはよりません。絶対にダメです』
高雄が愛宕をなだめている間、件の軍艦はどんどん近寄って来ていた。瑞鶴の電探がその大きさを調べると、どうやら戦艦ではなく重巡洋艦のようだと分かった。やはり交戦するつもりはないらしい。
2時間もするとその艦影が肉眼でも見えるようになってきた。瑞鶴、高雄、愛宕はそれぞれ双眼鏡を取り出した。
「何あれ、見たことない艦なんだけど、高雄は知ってる?」
瑞鶴に見えたのは、一見して重巡洋艦のようだが、艦橋の左右に主砲を置くという珍妙な主砲配置の軍艦であった。今時そんな配置をしているのはアトランタ級軽巡洋艦くらいなものだ。
『わたくしも見たことはありませんが……わたくしの記憶が正しければ、あれはドレッドノートなのでは?』
「ドレッドノート? 弩級戦艦とかのあれ?」
『はい、そのドレッドノートです』
「あ、そう……。まあ私にはよく分からないんだけど」
『愛宕は知っていますよね?』
『え、知らない。お姉ちゃん以外興味ないもの』
『……そうですか。ドレッドノートは言わば、わたくし達の祖先です。主砲に特化した武装配置というのを初めて実現した戦艦なのですよ』
ドレッドノートは現代的な戦艦及び重巡洋艦の先祖と言える艦である。ドレッドノート以前と以後を指す為だけに前弩級とか超弩級とかいう言葉があるのがその証左だ。因みに三笠は前弩級戦艦であり、帝国海軍が保有するそれ以外の戦艦は全て超弩級戦艦である。
高雄はドレッドノートの歴史的意義について熱心に説明するが、愛宕も瑞鶴も興味なさげであった。
「――まあつまり、金剛よりも古い戦艦ってことね?」
『そうなります』
「だったら脅威じゃないわね。それが分かれば十分よ」
『そ、その、もう少し艦艇の歴史というものに興味を持たれては……』
「興味がないものには一生興味が湧かないんだから仕方ないでしょ」
『うぐっ……』
瑞鶴に正論を説かれて高雄は何とも言い返せなかった。
「さて、そんなご大層な艦が何の御用かしら」
第一次世界大戦より前の戦艦とは言え、瑞鶴が撃たれれば致命傷にもなりうる。高雄と愛宕が警戒する中、ドレッドノートは瑞鶴に通信の呼び掛けを行ってきた。聞こえてきたのは元気溌剌な船魄の声であった。
『我が名はドレッドノート。戦艦ドレッドノートである! 女王陛下の名代として、瑞鶴、貴艦と話し合いの席に着くべくここに参上した』
「あ、そう。私が瑞鶴よ。話し合いなら歓迎するわ。但しあなたがこちらに乗り移ってもらうけど」
『構わない。すぐにそちらに向かおう』
「私を疑ったりしないの?」
『交渉の使者に剣を向けるのであれば、そうするがいい。その代わり、我が軍は容赦なく貴艦らを殲滅する』
「そう。まあそんな気はないから安心しなさい」
『その言葉、忘れるでないぞ』
「そんな汚いことはしないわよ」
そういう訳で、明治の戦艦ドレッドノートと大正の空母瑞鶴は会合することとなった。
『このような対陣を始めてもう24時間を超えますが、向こうは何も仕掛けてきませんね……』
高雄は無線を通じて瑞鶴に言った。
「そうね。私達が何か作戦を隠しているとでも思っているのかしら」
『それならば私達に好都合ですが……』
『いいじゃない、このまま何事もなく帰ればいいのよ』
愛宕は大したことなさそうに言った。
「まあねえ。それができれば、苦労はしないんだけど」
『仮に向こうが戦いを挑んできたら、どうするのですか? こちらの戦力ではとても……』
「まあ逃げるしかないでしょうね」
グラーフ・ツェッペリンと妙高の艦体はここにあるが、ドイツから操るのは流石に無理だ。ハリボテに等しいのである。
『その時は妙高やツェッペリンは置いていくのかしら?』
「……最悪の場合は、そうせざるを得ないわ」
『瑞鶴さん!? そんな、妙高を置いていくなんて!』
『お姉ちゃんったら、妙高に夢中過ぎるわ』
『そ、そういうことでは――』
「そういう痴話喧嘩は他所でやってよね。でも、もしもの時の覚悟くらい、あなたにもできる筈よ、高雄?」
『……すみません』
「っと、そんなことを言っていたら、イギリスが動き出したわよ」
月虹は偵察機を飛ばす訳にもいかず、電探が頼りである。そして一番探知距離が長いのは一番高いところに設置してある瑞鶴の電探である。
『ど、どういう状況でしょうか?』
「うーんと……一隻だけ近寄って来たわ。戦うつもりはないと思う」
『交渉しに来た、ということでしょうか』
「さあね」
『いずれにせよ、お姉ちゃんに危害を加えるなら沈めるわ』
「あんたが火蓋を切らないかが一番心配よ。姉としてちゃんと見張っておいてよね、高雄」
『は、はい。愛宕、くれぐれもこちらから攻撃などしてはいけませんよ』
『場合によるわ』
『場合にはよりません。絶対にダメです』
高雄が愛宕をなだめている間、件の軍艦はどんどん近寄って来ていた。瑞鶴の電探がその大きさを調べると、どうやら戦艦ではなく重巡洋艦のようだと分かった。やはり交戦するつもりはないらしい。
2時間もするとその艦影が肉眼でも見えるようになってきた。瑞鶴、高雄、愛宕はそれぞれ双眼鏡を取り出した。
「何あれ、見たことない艦なんだけど、高雄は知ってる?」
瑞鶴に見えたのは、一見して重巡洋艦のようだが、艦橋の左右に主砲を置くという珍妙な主砲配置の軍艦であった。今時そんな配置をしているのはアトランタ級軽巡洋艦くらいなものだ。
『わたくしも見たことはありませんが……わたくしの記憶が正しければ、あれはドレッドノートなのでは?』
「ドレッドノート? 弩級戦艦とかのあれ?」
『はい、そのドレッドノートです』
「あ、そう……。まあ私にはよく分からないんだけど」
『愛宕は知っていますよね?』
『え、知らない。お姉ちゃん以外興味ないもの』
『……そうですか。ドレッドノートは言わば、わたくし達の祖先です。主砲に特化した武装配置というのを初めて実現した戦艦なのですよ』
ドレッドノートは現代的な戦艦及び重巡洋艦の先祖と言える艦である。ドレッドノート以前と以後を指す為だけに前弩級とか超弩級とかいう言葉があるのがその証左だ。因みに三笠は前弩級戦艦であり、帝国海軍が保有するそれ以外の戦艦は全て超弩級戦艦である。
高雄はドレッドノートの歴史的意義について熱心に説明するが、愛宕も瑞鶴も興味なさげであった。
「――まあつまり、金剛よりも古い戦艦ってことね?」
『そうなります』
「だったら脅威じゃないわね。それが分かれば十分よ」
『そ、その、もう少し艦艇の歴史というものに興味を持たれては……』
「興味がないものには一生興味が湧かないんだから仕方ないでしょ」
『うぐっ……』
瑞鶴に正論を説かれて高雄は何とも言い返せなかった。
「さて、そんなご大層な艦が何の御用かしら」
第一次世界大戦より前の戦艦とは言え、瑞鶴が撃たれれば致命傷にもなりうる。高雄と愛宕が警戒する中、ドレッドノートは瑞鶴に通信の呼び掛けを行ってきた。聞こえてきたのは元気溌剌な船魄の声であった。
『我が名はドレッドノート。戦艦ドレッドノートである! 女王陛下の名代として、瑞鶴、貴艦と話し合いの席に着くべくここに参上した』
「あ、そう。私が瑞鶴よ。話し合いなら歓迎するわ。但しあなたがこちらに乗り移ってもらうけど」
『構わない。すぐにそちらに向かおう』
「私を疑ったりしないの?」
『交渉の使者に剣を向けるのであれば、そうするがいい。その代わり、我が軍は容赦なく貴艦らを殲滅する』
「そう。まあそんな気はないから安心しなさい」
『その言葉、忘れるでないぞ』
「そんな汚いことはしないわよ」
そういう訳で、明治の戦艦ドレッドノートと大正の空母瑞鶴は会合することとなった。
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