軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

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第十六章 第二次世界大戦(後日編)

ソビエツキー・ソユーズ

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 一九四五年六月二日、ソ連、ロシアСФСР、クリミア自治ソビエト社会主義共和国、セヴァストポリ。

 ウクライナの黒海造船所で竣工した戦艦ソビエツキー・ソユーズは、一旦クリミア半島のセヴァストポリに移っていた。スターリンを出迎えるのであれば設備の整ったセヴァストポリの方がよいと判断されたからである。

 ソビエツキー・ソユーズは既に目覚めており、黒海造船所からセヴァストポリまでは問題なく航行することができていた。

「同志スターリン、ソビエツキー・ソユーズはとても可愛らしい子ですよ。何せ私が選んだ少女ですからな」

 とスターリンに告げるのは、内務人民委員のラヴレンチー・ベリヤである。つまりソ連の秘密警察を司る男であるが、同時に自らの職権を乱用して市中から少女を拉致して遊んでいるとの噂が絶えない。恐らくそれは事実なのだが、スターリンは呆れつつも黙認していた。

「そうかそうか。君が選んだのなら間違いないな」
「ご信頼いただき光栄です」
「閣下、こちらに」

 クズネツォフ元帥の案内を受けて、スターリンはセヴァストポリ軍港の一角に向かった。スターリンは一室で待たされ、数分するとお目当ての少女がやって来た。

 扉を開けて出てきたのは、海軍の軍服に身を包んだ背の高い灰髪の凛々しい少女である。

「おお、君が」
「――同志スターリン、私はソビエツキー・ソユーズ級戦艦一番艦の船魄として生み出されました、ソビエツキー・ソユーズと申します。同志にお会いできて誠に光栄です!」

 ソユーズはきっちりと敬礼をした。

「そう言ってもらえると嬉しいよ」
「はっ!」
「君の姿を見て、一先ず安心だ。君にならドイツとの戦争も任せられそうだな」
「同志のご期待には必ずやお応えします!」
「うむ。だが、無理をしてはならんぞ。絶対に死んではならない」

 スターリンはまるで父親のように優しい声で言った。が、ソユーズは逆に困惑する。

「わ、私は軍人です。死ぬことは常に覚悟していますし、社会主義の為に死ぬ覚悟はとうにできております!」
「その覚悟は実に素晴らしいが、君が沈んでしまっては、我が国は絶対的な劣勢になってしまう。目的を果たせなくても生きて帰ってくるのだ」
「わ、分かりました」
「ああ。必ずや帰ってきてくれ」
「はっ!」
「時に、同志クズネツォフ、今後の予定はどうなっているんだ?」
「まずは公試を済ませないといけません。機関や船体、武器システムに問題がないか確かめなければなりません」

 ツェッペリンや瑞鶴やエンタープライズと違い、ソビエツキー・ソユーズは今まさに完成した新造艦なのである。船魄としてより前に、軍艦としての性能を試験しておく必要があるのだ。

「それはつまり、この辺りで主砲を撃ったりするということかね?」
「そうなりますが……」
「それではドイツ軍に彼女の存在が露見してしまうではないか」
「そ、それは確かに、そうですね」

 41cm砲を撃ったりなどすれば、ギリシャ辺りにいるドイツ軍に見つかることは明白だ。

「それは困るな」
「し、しかし、試験もなしにいきなり実戦など、考えられません!」
「それも道理だな」
「同志スターリン、同志クズネツォフ、私に試験など必要ありません! 今すぐにでも出撃してドイツ軍を殲滅します!!」

 ソユーズは今すぐ戦いに出たいようだ。

「元帥、それで大丈夫なのか?」
「一般的には好ましくありませんが……しかし、16インチ砲を使えばドイツ軍に露見するというのも確かです」
「好ましくない、か。では、武器の試験はイタリアでも砲撃して行うとしようではないか。ボスポラス海峡とダーダネルス海峡さえ抜ければ、問題はあるまい」

 黒海の出口を押さえるトルコは連合寄りの中立国だが、最近はドイツに擦り寄っている。ソビエツキー・ソユーズの存在が露見した場合、両海峡を封鎖される虞があるのだ。

「なるほど。流石は同志スターリンです。ではそのように手配します。ソビエツキー・ソユーズはすぐに出航することとしましょう」
「分かった。よろしく頼むぞ、ソビエツキー・ソユーズ」
「はっ!」

 かくしてソビエツキー・ソユーズはセヴァストポリを出撃し、十数の護衛を伴って地中海に向かった。

 ○

 スターリンの予想通り、ソビエツキー・ソユーズがボスポラス海峡を通過したことは、トルコによってドイツにすぐさま報告された。

「――何? ソ連の戦艦だって? そんなものが完成していたとはな……」

 シュニーヴィント上級大将はその報告を真っ先に受け取った一人である。

「どうしたのだ、シュニーヴィント?」
「ああ、ツェッペリン、一大事だ。ソ連が戦艦を一隻、地中海に向かわせているらしい」
「たったの一隻か? そんなもの、どうということはないではないか」
「ただの戦艦ならな。だがそんなことはスターリンも分かっている筈だ」
「では……まさか相手は船魄であると?」
「その公算が高いだろう」

 ただの戦艦ならばせっかくの貴重な戦力を無駄に沈めるだけである。ソ連がそんな馬鹿なことをする筈がない。相手がソ連の船魄であることはまず間違いないのだ。
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