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第十九章 メキシコ戦役
決着
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「あのー、長門様、また意見具申してもいいですか……?」
『何だ?』
「妙高達だけで任務を引き継ぐべきだと、思います。せっかくここまで来て、諦めて帰る訳にはいきません」
『本気か? こう言ってしまうのは悪いが、重巡洋艦だけでどうにかなるとは思えんぞ』
「相手は空母だけです。妙高の主砲でも十分沈められます」
『それはそうかもしれんが……。しかし、また先程と同じような攻撃が来れば、お前達は助かるまい』
「はい、確かに……。しかし、エンタープライズは先程、雷撃機をほとんど全て使い切りました。これはコメットを使い切るに当たって最大の効果を出したいから、ではありませんか?」
『ふむ……』
エンタープライズにとっても貴重な戦力であろう攻撃機を、コメットの囮に使い切る。これはコメットの最後の一群で確実に戦果を得たいからではないかと、妙高は考えた。長門もその予想にはある程度まで同感であった。
『確かにその公算は高いが、確証がある訳ではない』
『ええ、そうよ。お姉ちゃんにそんな危険な真似はさせられないわ』
『愛宕……またそんなことを……』
『今回は譲れないわよ。妙高も、お姉ちゃんも』
長門もあまり前向きではないし、愛宕は絶対反対である。しかし妙高としても、譲れない点はあった。
「ここで諦めたら、この戦争は長引いてしまいます。ここでアメリカ軍を追い払えば、メキシコの人達を大勢救うことができます!」
『それはそうなのだがな……』
「だったら、妙高一人だけでも行きます。相手は空母だけなんですから、妙高だけで十分です!」
『そこまで言うか……。であれば、お前に後のことは託そう。くれぐれも危なくなったら逃げ帰るのだ』
「あ、ありがとうございます……」
作戦を承認してくれたという点と、妙高の身を心配してくれるという点とで、妙高は嬉しかった。
『妙高が行くのなら、わたくしも――』
『ダメに決まってるでしょ、お姉ちゃん。妙高が勝手にやればいいのよ』
『いや、ですが、妙高だけにこんな危険な任務は押し付けられません!』
『お姉ちゃんにこんな危険な任務はさせられないわ』
『いくら愛宕でも、これ以上の我儘には付き合えませんよ!』
高雄が珍しく声を荒らげる。愛宕はそんな反応が返ってくるとは思わず、言葉が出なかった。
『二人とも落ち着け。だが結論は早く出せ』
『……分かったわ。妙高を一人にできないって言うなら、私が着いていくわ。お姉ちゃんは長門達の護衛でもしていて』
「あ、ありがとうございます、愛宕さん……!」
『別にあんたの為じゃないわよ』
それは高雄を傷付けたくないという愛宕の望みと妙高を一人では行かせられないという高雄の望みとが合致する方法であった。
『決まりだな。妙高、愛宕、頼んだぞ』
「はい!」
『まあやるからには真面目にやるつもりよ』
妙高と愛宕はエンタープライズを仕留めに向かった。
○
「これはマズいことになりましたね。まさか重巡だけで突撃してくるとは」
「奴らにはこっちの弾数が見えてるのか?」
マッカーサー元帥は冗談めいた口調で。
「そんなことはないでしょう。雷撃機も一緒に突っ込ませたのを、こちらが弾切れになっていると解釈したのでしょうね」
「仕方なかったか」
長門、陸奥、扶桑を同時に無力化する為には、攻撃機を一緒に突入させて囮にすることは不可欠であった。そうしなければ、いずれかの戦艦が無傷で襲い掛かってきていただろう。だがそれが、敵にヒントを与えてしまった。儘ならないものである。
「で、どうするつもりだ、エンタープライズ?」
「重巡の二隻くらいなら、大した問題ではありませんよ」
「お前、重巡と撃ち合って勝てるのか?」
「砲撃戦では勝てませんが、体当たりでもすれば排水量の差で勝てるでしょう。ちょうどこちらにはミッドウェイとコーラル・シーがいます」
「当然のように味方に特攻をさせるな」
「仕方ないじゃありませんか。私が失われるのは困るのでしょう?」
エンタープライズ以外の空母は幾らでも替えが効くが、エンタープライズを再建造して今と同じ船魄が再び生まれる保証はない。
「分かった分かった。そうしよう。ミッドウェイとコーラル・シーに通達。接近する敵重巡洋艦を体当たりで――」
「閣下! 一大事です!」
元帥が命令を言いかけたところに、伝令の兵士が駆け込んで来た。
「おいおい、何の騒ぎだ?」
「大和です! 大和が姿を現しました!」
「何? そんな馬鹿な」
「ふふ。それは一大事ですね。ただの人間の艦とは言え、この均衡状態を崩すには十分過ぎます」
重巡の20.3cm砲くらいなら多少耐えられるが、46cm砲を喰らえば一瞬で沈められることは間違いない。前線のアイオワ級も、41cm砲では大和に歯が立たない。
「クソッ。こいつはダメだな。逃げるしかない」
「ええ、そのようです。戦艦を四隻もドック入りに追い込んだんです。戦果は十分でしょう」
「随分と諦めがいいな」
「だって、勝てない戦いなんか興味ありませんから。フロリダ海峡に機雷でもバラまいて敵を足止めしてください」
「スプルーアンスに頼んでおこう。全艦、フロリダまで撤退だ」
エンタープライズ艦隊は大和の出現と同時に戦意をなくし、メキシコ湾一帯を放棄することを決定したのであった。
『何だ?』
「妙高達だけで任務を引き継ぐべきだと、思います。せっかくここまで来て、諦めて帰る訳にはいきません」
『本気か? こう言ってしまうのは悪いが、重巡洋艦だけでどうにかなるとは思えんぞ』
「相手は空母だけです。妙高の主砲でも十分沈められます」
『それはそうかもしれんが……。しかし、また先程と同じような攻撃が来れば、お前達は助かるまい』
「はい、確かに……。しかし、エンタープライズは先程、雷撃機をほとんど全て使い切りました。これはコメットを使い切るに当たって最大の効果を出したいから、ではありませんか?」
『ふむ……』
エンタープライズにとっても貴重な戦力であろう攻撃機を、コメットの囮に使い切る。これはコメットの最後の一群で確実に戦果を得たいからではないかと、妙高は考えた。長門もその予想にはある程度まで同感であった。
『確かにその公算は高いが、確証がある訳ではない』
『ええ、そうよ。お姉ちゃんにそんな危険な真似はさせられないわ』
『愛宕……またそんなことを……』
『今回は譲れないわよ。妙高も、お姉ちゃんも』
長門もあまり前向きではないし、愛宕は絶対反対である。しかし妙高としても、譲れない点はあった。
「ここで諦めたら、この戦争は長引いてしまいます。ここでアメリカ軍を追い払えば、メキシコの人達を大勢救うことができます!」
『それはそうなのだがな……』
「だったら、妙高一人だけでも行きます。相手は空母だけなんですから、妙高だけで十分です!」
『そこまで言うか……。であれば、お前に後のことは託そう。くれぐれも危なくなったら逃げ帰るのだ』
「あ、ありがとうございます……」
作戦を承認してくれたという点と、妙高の身を心配してくれるという点とで、妙高は嬉しかった。
『妙高が行くのなら、わたくしも――』
『ダメに決まってるでしょ、お姉ちゃん。妙高が勝手にやればいいのよ』
『いや、ですが、妙高だけにこんな危険な任務は押し付けられません!』
『お姉ちゃんにこんな危険な任務はさせられないわ』
『いくら愛宕でも、これ以上の我儘には付き合えませんよ!』
高雄が珍しく声を荒らげる。愛宕はそんな反応が返ってくるとは思わず、言葉が出なかった。
『二人とも落ち着け。だが結論は早く出せ』
『……分かったわ。妙高を一人にできないって言うなら、私が着いていくわ。お姉ちゃんは長門達の護衛でもしていて』
「あ、ありがとうございます、愛宕さん……!」
『別にあんたの為じゃないわよ』
それは高雄を傷付けたくないという愛宕の望みと妙高を一人では行かせられないという高雄の望みとが合致する方法であった。
『決まりだな。妙高、愛宕、頼んだぞ』
「はい!」
『まあやるからには真面目にやるつもりよ』
妙高と愛宕はエンタープライズを仕留めに向かった。
○
「これはマズいことになりましたね。まさか重巡だけで突撃してくるとは」
「奴らにはこっちの弾数が見えてるのか?」
マッカーサー元帥は冗談めいた口調で。
「そんなことはないでしょう。雷撃機も一緒に突っ込ませたのを、こちらが弾切れになっていると解釈したのでしょうね」
「仕方なかったか」
長門、陸奥、扶桑を同時に無力化する為には、攻撃機を一緒に突入させて囮にすることは不可欠であった。そうしなければ、いずれかの戦艦が無傷で襲い掛かってきていただろう。だがそれが、敵にヒントを与えてしまった。儘ならないものである。
「で、どうするつもりだ、エンタープライズ?」
「重巡の二隻くらいなら、大した問題ではありませんよ」
「お前、重巡と撃ち合って勝てるのか?」
「砲撃戦では勝てませんが、体当たりでもすれば排水量の差で勝てるでしょう。ちょうどこちらにはミッドウェイとコーラル・シーがいます」
「当然のように味方に特攻をさせるな」
「仕方ないじゃありませんか。私が失われるのは困るのでしょう?」
エンタープライズ以外の空母は幾らでも替えが効くが、エンタープライズを再建造して今と同じ船魄が再び生まれる保証はない。
「分かった分かった。そうしよう。ミッドウェイとコーラル・シーに通達。接近する敵重巡洋艦を体当たりで――」
「閣下! 一大事です!」
元帥が命令を言いかけたところに、伝令の兵士が駆け込んで来た。
「おいおい、何の騒ぎだ?」
「大和です! 大和が姿を現しました!」
「何? そんな馬鹿な」
「ふふ。それは一大事ですね。ただの人間の艦とは言え、この均衡状態を崩すには十分過ぎます」
重巡の20.3cm砲くらいなら多少耐えられるが、46cm砲を喰らえば一瞬で沈められることは間違いない。前線のアイオワ級も、41cm砲では大和に歯が立たない。
「クソッ。こいつはダメだな。逃げるしかない」
「ええ、そのようです。戦艦を四隻もドック入りに追い込んだんです。戦果は十分でしょう」
「随分と諦めがいいな」
「だって、勝てない戦いなんか興味ありませんから。フロリダ海峡に機雷でもバラまいて敵を足止めしてください」
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