軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

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第十九章 メキシコ戦役

メキシコ湾の状況

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『有賀! 何を勝手に私の大和を動かしてるのよ!』
『今ならば大和を出しても問題ないと判断した。君と事前に相談する時間はなかったと思うが』
『相談しなくてもいいから先に言いなさいよ!』

 大和の出撃は有賀中将の独断であった。ただの人間の艦が戦場に出てくるなど危険極まりないので、瑞鶴としては大和を投入することなど論外だったのだが、彼女の望みは無視される形となったのである。

『すまない。だが、これで敵は逃げる他なくなる筈だ』

 有賀中将がそう言った数分後、アメリカ艦隊が全面的に撤退を始めたとの報告が入った。

『ほら、言った通りだろう?』
『結果的によかったけど……。もう二度と勝手なことはしないでよね』
『ああ。承知した』

 大和の件は一先ず置いておいて、瑞鶴は長門に通信を掛けた。

『敵は逃げるみたいだけど、どうするの?』
『追撃を行える程の戦力は残っていない。それに、エンタープライズは原子力艦だ。妙高と愛宕でも逃げ切られてしまう可能性が高いだろう』
『ええと、ソ連の戦艦はまだ無事でしょう? そっちは追撃させないの?』

 戦端が開かれてから、両軍の本隊は睨み合ったままであった。アメリカ側は逃げ始めているようだが、ソビエツキー・ソユーズもソビエツカヤ・ベラルーシも十分に戦える。

『本隊の方についても、敵が逃げるつもりならば、追い付くのは難しいだろう。それに、敵軍のデモイン級重巡などは脅威だ。こちらの補助艦に被害が出る虞がある』

 カリブ海にいる日本の重巡洋艦で一番戦闘能力が高いのは大正生まれの妙高だが、デモイン級は戦後世代で、船魄の質の違いを考えても脅威だ。補助艦同士で戦闘に至った場合、防御力に劣る日本側が被害を出す可能性がある。

『分かった。でも空母への追撃はやってもいいんじゃないの?』
『敵の前衛とエンタープライズが合流すれば、妙高も愛宕も危険に晒される。それにいざとなれば、エンタープライズは味方の空母を盾にして逃げるだろう』
『まあ、それもそうね。エンタープライズを沈めないと意味ないか』

 仮にミッドウェイとコーラル・シーを沈めたとしても、エンタープライズは地上に配置した航空機を幾らでも使えるのだ。頭脳であるエンタープライズを撃破できないなら、わざわざ危険を冒す必要はない。

『うむ。ソユーズは悔しがっていたが、これでいい。我々は目的を果たした。メキシコ湾の制海権は我々のものとなり、陸海共にアメリカ軍の行動を大きく制約することができる』

 広大なメキシコ湾からアメリカ海軍の影響力が失われた。メキシコ湾に面するアメリカ南海岸とメキシコ東海岸に国連軍の手が届くようになったのである。

『同志長門、ニューオーリンズへの攻撃は行わないのか?』

 ソユーズが尋ねた。

『どうして攻撃する必要がある?』
『別に理由がある訳ではないが……』
『仮にニューオーリンズを瓦礫の山にしたところで、アメリカ全体に大した影響はないだろう。今はメキシコ方面の支援に注力すべきだ。ソ連海軍に頼みたいのだが、よいだろうか?』
『同志ゴルシコフと相談することになるが、エンタープライズがいなくてもコメットの脅威は残っている。私や同志ベラルーシが直接に介入することは困難だろう。すまない』

 エンタープライズのように能動的に対空砲火を回避することは無理だろうが、人間が操縦するコメットでも船魄の対空砲火をすり抜ける可能性がある。ソビエツキー・ソユーズ級を失うことを恐れているソ連海軍は許可を出さないだろう。

『そうか……』
『もちろん、航空支援は提供する予定だ。同志ノヴォロシースクがメキシコ東部に侵入したアメリカ軍を爆撃する』
『それはありがたい。今後とも共闘することになりそうだな』
『ああ。戦艦の役目は暫くはなさそうだがな……』

 メキシコ湾からアメリカの空母を排除したことで、空は完全に国連軍のものである。カリフォルニアを除くメキシコ本土のほとんどを空から援護することができるだろう。

 しかし、キューバへの援護も欠かすことはできない。戦艦が動けない以上、空母を分けるしかない。長門は瑞鶴に呼び掛ける。

『メキシコへの援護は我々が行う。お前達はキューバへの航空支援を続けてくれ』
『ええ、最初からそのつもりよ。アメリカ軍の補給も絶え絶えだし、問題ないわ』
『頼んだ』
『でも、これ以上戦線を広げるのは厳しそうね』
『そうだな……。一先ずはメキシコ戦線に集中せざるを得ない。後はドイツ軍がどう出るか次第だな』
『連携は取れてないの?』
『そのようだ。何せ、こんな急に全面戦争に至るとは誰も思っていなかったからな』

 本来ならアメリカ討伐決議案を脅しとし、アメリカにキューバからの撤退を要求して平和的に解決するつもりであった。アメリカの先制攻撃は世界にとって寝耳に水なのである。

 ともかく、カリブ海に取り残されたソ連太平洋艦隊と帝国海軍の第五・第六・第七艦隊はメキシコへの支援を優先し、月虹と大和はキューバへの支援を続けることになった。月虹のやることは開戦前と大して変わらないのであった。
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